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STATE STREET事件 地裁判決・CAFC判決

YWG 2000年4月21日発表

株式会社 日本総研 筒井
株式会社 日立製作所 飯田


目 次

STATE STREET事件 地裁判決
STATE STREET事件 CAFC判決
感想および私見


STATE STREET 事件地裁判決

 

要旨:パートナーシップとして設立されたポートフォリオ金融サービス構造を管理するためのデータ処理システムに関する特許は、数学的アルゴリズムの例外およびビジネス方法の例外に該当し、特許法101条の法定の主題にあたらないとして、当該特許を無効とした事例

 

マサチューセッツ州連邦地方裁判所 1996年3月26日決定

原告-被控訴人 STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY
被告-控訴人  SIGNATURE FINANCIAL GROUP, INC.

1 特許の概要

(1) 名称

DATA PROCESSING SYSTEM FOR HUB AND SPOKE FINANCIAL SERVICES CONFIGRATION(特許第5,193,056号 1993年3月9日発行)(ハブ及びスポーク金融サービス構成のためのデータ処理システム)

(2) 概要

 パートナーシップ(共同出資社)として設立されたポートフォリオ(各種有価証券の集合)金融サービス構造を管理するためのデータ処理システムに関する特許。

* HUB AND SPOKEはサービスマークとして登録(米国登録商標1648331)されている。

 複数の投資信託(スポークス)の投資資金を、パートナーシップとして編成された単一の投資ポートフォリオ(ハブ)にプールし、資金の管理費用を節約し、規模の利益を生み出し、パートナーシップでの税制上の利点を提供するシステム。同じハブに投資された複数のスポークスに毎日の資産分配を行い、さらにハブの投資有価証券の価値とスポークスそれぞれの付随額の変化を考慮して、それぞれのスポークがハブに維持している出資比率を決定する。毎日の変化を決定するために、ハブの毎日の収入、経費及びネットのゲインとロスをスポークに分配することにより、スポークの真の資産価値を決定することができ、スポーク間の分配率を正確に計算できる。更に、毎日決定したすべての関連データを監視し、年末の配当、経費、資産売却差益あるいは差損を会計及び税法上の目的において決定することができる。これらの計算をすばやく正確に行うことができるシステム。

 1991年出願、当初6つのmeans plus function形式のmachineクレームと6つの方法クレームを含んでいたが、審査段階で101条の拒絶理由に対し、方法クレームを削除。

 明細書には、ハードウエアに関する記載がほとんどなく、システムの情報の流れとフローチャートが記載されているだけであり、明細書中の説明によれば、本発明は経済ルール又は法律に基づくものである。

* means plus function形式であれば、たとえ独立した装置又は構造がクレームに記載されていなくても、手法(方法)ではなく、装置(機械)に関する特許クレームとして解釈する。明細書で開示された器具又は装置を説明することで装置に関するクレームとする。(Donaldson事件)

 対応日本出願(特表平6-505581)のクレーム1

1.各パートナーは複数のファンドの一つである一つのパートナーシップとして構築されたポートフォリオの金融サービス構成を管理するデータ処理システムであって、

(a) データ処理のためのコンピュータ手段:

(b) 保存媒体上にデータを保存するための保存手段:

(c) 保存媒体を起動するための第1の手段:

(d) 前日からポートフォリオ及び各ファンド中にある資産に関するデータ及び各ファンド資産の増加及び減少に関するデータを処理し、そのポートフォリオ中の各ファンドの有するシェア比率を配分するための第2の手段:

(e) そのポートフォリオについての毎日の利益収入、支出及び正味の非換金ゲインあるいは損失に関するデータを処理し、各ファンドにこれらのデータを割り当てする第3の手段:

(f) そのポートフォリオについての毎日の正味の非換金ゲインあるいは損失に関するデータを処理し、各ファンドにこれらのデータを割り当てる第4の手段:及び

(g) ポートフォリオ及び各ファンドについて年度末の合計収入、支出及びキャピタルゲインあるいは損失を処理する第5の手段:

とを含むデータ処理システム。

 日本出願に対しては、「請求項1において出願人が発明として提案する内容は、データ処理のためのコンピュータが本来有する機能の一利用形態であって、しかも、その利用形態は、特定の金融サービスに必要な会計および税務処理についての考察に基づいて定められたものであり、何ら技術的考察を伴うものでないから、これをもって「技術的思想の創作」ということはできない。」ことを理由として平成11年9月24日に、発明に該当しないとする拒絶理由が出されている。

2 事実関係

 原告被告ともにミューチュアルファンドの管理者であり、会計代理人である。

 被告はU.S.特許No.5,193,056('056特許)の所有者である。

 被告は、Hub and Spoke構成で組み合わされた多層化ファンドについて、帳簿上の貸借操作を実行するように設計されたデータ処理システムは、'056特許を侵害する可能性があると原告に通知した。原告は、特許が付与されたデータ処理システムについて、被告とライセンス交渉を行ったが不調に終わったため、被告の特許が無効であることの宣言的判決を求める訴えを起こした。

3 当事者の主張

(1) 原告の主張

以下の宣言的判決を求める。

(a)無効 (b)不侵害 (c)不正行為に基づく強制不能 (d)濫用による強制不能

 被告の特許は、特許法101条の法定の主題を記載していない。この発明は、最高裁で確立された特許にならない数学的クレームである。

(2) 被告の主張

二つの反訴

(a) 原告は、マーケットシェアを維持し、被告を中傷するためこの訴えを提起することで、不公正かつ欺瞞による商取引を行い、マサチューセッツ州基本法第93条A項に違反している

(b) 原告の特許により保護されると主張するデータ処理システムに関し、被告と口頭による拘束力のあるライセンス契約を締結したことの宣言的判決

  このデータ処理システムは、最近の連邦巡回裁判所及びPTOの特許審査官向け指針により特許性を有するとされたコンピュータ改良発明である。

4 判決

 問題点:本質的に汎用コンピュータ上で数学的会計機能として働き、実行するコンピュータソフトウエアが、101条のもとで特許性を有しているか否か。

4.1 サマリージャッジメント

 サマリージャッジメントの基準は、「特許の事件でも他の事件同様に、サマリージャッジメントが適当である」場合に、伝統的に適用される基準と異なるものではない。「特許のクレームが法定主題に関するものであるか否かは法律問題である。」

 原告がサマリージャッジメントの申立で勝利するには、被告の特許の有効性を支持する法的推定を覆さねばならない。

4.2 法定主題の特許性の一般原則

§101. Inventions patentable

Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof, may obtain a patent thereof, subject to the conditions and requirements of this title.

  何人も、新規かつ有用な方法(プロセス)、装置、生産物、組成物、又はこれらの新規かつ有用な改良を発明もしくは発見した者は、本法に定める条件及び要件に従い、特許を得ることができる。

 法定主題の四つのカテゴリー(方法、機械、製品、組成物)は、他の特許要件(新規性及び非自明性)を満たす場合に特許を受けることができる。

 第101条は、「この世で人が作ったすべての物を含む」と広く解釈されてきたが、これは第101条が何の制約も課さず、すべての発見を含めることを示唆するものではない。「アイデア自体に特許性はなく、アイデアを使用した実際に有用な新しい装置に対して特許が与えられるものである。」

 自然法則、物理的現象、抽象概念は特許性がなく、地球で発見された新しい鉱物や野生植物は特許性が与えられる主題ではない。「科学的審理、又はその数学的表現は特許性のある発明ではないが、科学的審理を利用して作り出した新規性のある有用な構成物は特許の対象となる可能性がある。」「新しく発見された自然現象、心的方法、抽象的な知的概念は、科学的、技術的事物の基本的手段であるため特許性はない。」「その特定の実際的用途ではなく、科学的原理の利用に特許による独占を付与することは、『科学的方法及び有用な技術を促進するものではなく、むしろこれを阻害するものである』」

 コンピュータソフトの特許性について判断することは、コンピュータプログラムが数学的機能(データ処理)を実行し、所期の目的を達成するものであるため、非常に困難である。

4.3 最高裁のTrilogy(三部作)

 コンピュータソフトの特許による保護範囲に関する最高裁の三つの判例。

 Benson事件 

  一連の数字を他の数字に変換するだけのコンピュータプログラムに特許を与えれば、ソフトウエアが依拠する数学の公式を先占させることになるため、裁判所は特許を無効と判断した。事物を「異なる状態又は物」に変換又は転換させることが、特別な機械を含まない方法に関する発明のクレームに特許性を認める鍵である。汎用コンピュータを利用して数学の方程式により数字を処理するだけでは、この要件を充たすのに不十分である。

 Flook事件

  特許のクレームが、本質的に数学の公式を利用した、一種の計算方法に関するものであれば、たとえその解答が特定の目的を持つものであったとしても、クレームに記載された方法は法的に認められない。改良された計算方法に関する特許のクレームは、たとえ特定の使用目的があったとしても、第101条に基づく特許性はない。

 Dier事件

  クレームされた方法は、単なる抽象的な数値を計算する以上のものであるとしてBenson事件やFlook事件との違いを認めた。クレームに記載された方法は、「事物の変換、この場合、生で未加硫の合成を異なった状態又は物に変換」するものである。

 このような物理的変換については、Benson事件で示唆されたものであり、これがDiehr事件で明言されたのである。

 特許のクレームの中で数学の公式(又は科学的方法もしくは自然現象)に何度も言及している場合、クレームが抽象的な公式に対して特許の保護を求めているのか審理しなければならない。数学の公式には特許法による保護は与えられず、特定の技術的環境下での公式の使用に制限してもこの原則は回避できない。一方、数学の公式を含む特許のクレームがある構造又は方法の中で公式を実行又は適用したときに、全体として特許法が保護を企図する機能を果たしている場合(事物を異なる状態又は者に変換又は転換すること)、こうした特許のクレームは第101条の要件を満たしている。

 批評家は、最高裁の三つの判決を、先占と物理的変換を立証することが、コンピュータソフトに特許による保護を与えるための二つの基準であると解釈した。

4.4 Freeman-Walter-Abeleテストと一連の連邦巡回裁判所先例

 Freeman-Walter-Abele test

 第1段階 クレームされたシステム又は方法が数学的アルゴリズムを含んでいるか否か

↓  数学的アルゴリズムを含む場合

 第2段階 クレームされたシステム又は方法が、単なるアルゴリズム以上のものか否か、すなわち物理的要素又は方法の手順に適用又は限定されない数学的アルゴリズムに関するものであるか否かについて決定する。

     → こうしたクレームには特許性は認められない。

 特許性が認められるには、発明はその他の点で、数学的アルゴリズムが物理的方法の手順に適用される法的に認められた方法で構成されている必要がある。(Arrthymia事件)

 被告は、被告の特許のクレームは方法ではなく機械に関するもので、機械は第101条に基づき法的に認められていることは明らかであるとしてこのテストを適用しないよう求めている。汎用コンピュータで作動するように構築されたコンピュータソフトはmeans plus function 形式でクレームされた場合、新しい機械又は装置であるとみなされる。特許のクレームが方法又は装置として記述されるかにかかわらず、連邦巡回裁判所は第101条により認められた法定主題に関する数学的アルゴリズム及び物理的変換についての分析法は、「真正な装置」にも適用されるとの判断を下した。(Alappat事件)

 最高裁が三度繰り返し、連邦巡回裁判所やC.C.P.A.も述べているように特許性の最大の鍵は数学的アルゴリズム及び物理的変換にある。この点連邦巡回裁判所が展開した判例は明確でなく、この分析法は依然コンピュータソフトの特許性を判定する最良の指針である。

 これに従い、Schradar事件において連邦巡回裁判所は、営業上の問題解決に使用するリニア式コンピュータプログラムに関し、特許保護の付与を拒否した。却下の判断を下した理由として、裁判所は法的に認められない数学的アルゴリズムに該当する点を挙げた。

4.5 PTOの審査ガイドライン

 1996年3月29日に制定されたPTOのコンピュータ関連発明の審査ガイドラインは、コンピュータソフトウエアの特許性に関する範例となるものである。

 クレームに記載された製品が方法を実行するコンピュータに関する場合、明細書に照らしてその基礎となる方法を基準に審査するべきである。

 特許のクレームの作成方法に拘泥することなく、発明がどのような機能を果たすか判断する必要がある。ソフトウエアにより実行され、基礎となる方法が法的に認められない場合、同一の発明で特許のクレームに記載された機械は法的に認められない。

 ガイドラインでは、「単に抽象的アイデアを操作し、又は単に数学的アルゴリズムを実行するものは、たとえ固有の有用性を内在していたとしても法的には認められない。」と規定する。クレームに記載された方法の「行為」が数字、抽象的概念、又はそれらを表象する信号だけのものであれば、これらは適切な主題には該当しない。従って、単なる数学的操作だけで構成される方法、すなわち単に一連の数字を他の数字に置き換えたに過ぎないものは適切な主題を取り扱うものではなく、法的に認められた方法を構成しない。

 クレームされた方法が「数学的操作だけで構成される場合、コンピュータ上で実行されるか否かにかかわらず法的に認められない。」但し、方法が科学技術分野における抽象的アイデア又は数学的アルゴリズムの実際的適用(インプットデータにある種の物理的変換が伴う場合)に限定されれば、法的保護が認められる。

4.6 第'056特許の分析

 '056特許が法定の主題を記述しているかを分析する。

(1)第1ステップ 数学的アルゴリズムテスト

  第一段階は、直接間接を問わず、Benson判決で最高裁が「特定の数学的問題を解く手順」と述べた数学的アルゴリズムについて言及しているか否かである。

 '056特許のクレームは、数学の公式に直接言及していないが、データ処理システムは特に数学的問題を解決するためのものである。この点、明細書は明らかであり、データ処理手順を記載したフローチャートも数多く記載されている。もっとも重要なのは、特許のクレーム自体が機械の一機能として、データの計算を実行するとしている点である。

 明細書に照らして解釈すれば、このクレームは、一連の数学的問題を解く手段を述べたものである。

 この結論は、連邦巡回裁判所、CCPAの判決により支持されている。数字を入力、処理、出力する発明は、定義上、数学的操作を実行するものである。

(2)第2ステップ 物理的変換テスト

  第二段階は、クレームに記載された発明が物理的要素もしくは方法の手順に該当する又は限定されるかの判定である。決定的要素ではないが、鍵は物理的変換であり、当裁判所は、被告のデータ処理システムは、この物理性のテストをパスしないと判断する。

 '056特許は、連邦巡回裁判所が過去に法的に認められると判断を下したコンピュータ関連発明とは異なる。

 被告のデータ処理システムは、物理的活動又は事物を表象又は構成する主題の変換又は転換を伴わない。一連の数字を別の数字に変える以上のものではなく、特許による保護を与えるには不十分である。当該発明は、現状以上のものではなく、数学的アルゴリズムを解くものであり、従って特許性はない。

 被告のデータ処理システムは、第101条における特許性が認められる主題には該当しない。'056特許のクレームは、重大な回答前、回答後活動について言及しておらず、物理的事物又は現象を測定するものでもなければ、データを異なった形式に物理的に変換するものでもない。

 「決定的な問題は、特許のクレームが全体として特許性のある主題を構成するため十分な物理的活動について言及しているか否かということである。当裁判所は、被告のデータ処理システムは物理的活動に言及していないと判断する。

4.7 ビジネス方法の例外

 当裁判所の決定は、「ビジネス方法の例外」として知られる主題の特許性に関する排除理論にも適合する。

 一連の過去の判例で確立されているように、ビジネス方法は特許性のない抽象的アイデアである。

 被告の発明に特許性が認められると、ハブアンドスポークを模した多層化ファンド複合体の提供を金融機関が希望する場合、計画に着手する前に被告の許可を求めることを要求されることになる。'056特許がこの種の財務組織の運営に必要なコンピュータで実行する会計方法を実質的にすべて占有するほど広いクレームであるからである。実際、被告は原告とのライセンス交渉中、パートナーシップのポートフォリオの構成物に基づく多層化ファンドに関する帳簿上の貸借を実行するように設計されたいかなるデータ処理システムも'056特許を侵害すると通知している。

 '056特許は、パートナーシップのポートフォリオの多層化投資構造のアイデアに対する独占を被告に与えるものであり、ある種のビジネスを行うため必要な会計システムに特許を与えることは、ビジネス自体に特許を付与することになる。こうした抽象的アイデアに特許性はなく、ビジネス方法としてであれ数学的アルゴリズムとしてであれ、'056特許に特許性は認められない。

4.8 結論

 '056特許は101条の法定の主題ではなく無効である。原告のサマリージャッジメントの申立は認められ、被告の反訴は却下される。

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STATE STREET事件CAFC判決

 

要旨:特許法101条に関するビジネス方法の例外の要件を否定し、パートナーシップとして設立されたポートフォリオ金融サービス構造を管理するためのデータ処理システムに関する特許が、米国特許法101条の法定の主題にあたるとした事例

判決原文

連邦巡回控訴裁判所 96-1327 1998年7月23日決定

原告・被控訴人:STATE STREET BANK & TRUST CO.
被告・控 訴 人:SIGNATURE FINANCIAL GROUP, INC.

 マサチューセッツ州連邦地方裁判所は、Signature Financial Group Inc.(以下「Signature」とする。)の米国特許5,193,056号(第'056号特許)につき、クレームされた主題が特許法101条の対象に含まれないことを理由として、State Street Bank & Trust Co.の請求を認めるサマリ・ジャッジメントを行い、Signatureはこれに控訴した。

 当裁判所は、本件特許は法定の主題に該当すると判断し、原判決を破棄し、差し戻す。

1 背景 (略)

2 検討

2.1 クレーム解釈について

(1) 地裁判決

 地方裁判所は、クレームはプロセスに関連しており、各手段(means)項目は、単に各プロセスのステップを表現していると判示した。

(2) 「手段」項目をもつ「機械」クレームの取り扱い

 「手段」項目をもつ「機械」クレームが方法クレームとして審理されるのは、発明の記載(written description)の中に、クレームされた「手段」に対応する構造が存在しない場合のみである(Alappat判決 (1994) 参照)。本件はこれに該当しない。

(3) 本件クレームの解釈

 法112条第6パラグラフにしたがって適切に解釈されれば、独立クレーム1は機械に向けられている。以下の代表的クレーム1に示されるように、角かっこ内の主題は、発明の記載におけるクレームされた「手段」に対応する構造を示している。

(a) 処理手段 [CPUを含むパーソナル・コンピューター]

(b) 記憶手段 [データのディスク]

(c) 第1の手段 [選択されたデータを時期的に記憶するためのデータ用ディスクを準備するように構成された演算論理回路]

(d) 第2の手段 [特定のファイルから情報を検索し、特定の入力に基づき増減を計算し、結果を百分率で割り当て、別のファイルに出力を記録するように構成された論理回路]

(e) 第3の手段 [特定のファイルから情報を検索し、特定の入力に基づき増減を計算し、結果を百分率で割り当て、別のファイルに出力を記録するように構成された論理回路]

(f) 第4の手段 [特定のファイルから情報を検索し、特定の入力に基づき増減を計算し、結果を百分率で割り当て、別のファイルに出力を記録するように構成された論理回路]

(g) 第5の手段 [特定のファイルから情報を検索し、その情報を合計ベースで計算し、別のファイルに出力を記録するように構成された論理回路]

 手段プラス機能として列挙されている各クレームの構成要素は、明細書の発明の記載で示された構造の「均等物」(equivalents)も含むとした法112条第6パラグラフに基づき解釈されるべきである。

(4) 結論

 クレーム1は、パートナーシップとして設立されたポートフォリオの金融サービス構成を管理するデータ処理システムをクレームしている。その機械は、少なくとも発明の記載中に示され、クレームに列挙された(a)から(g)までの手段プラス機能に対応する特定の構造を有している。「機械」は法101条の適切な法定の主題である。

 ただし、法101条の分析との関係では、特許性のある主題の4つのカテゴリーのいずれかに該当する限り、クレーム1が「機械」または「プロセス」のどちらに関するかは、ほとんど問題とならない。

2.2 判例法による例外の検討

(1) 地裁判決

 地方裁判所は、クレームされた主題は、法定の主題に対する判例法上の例外である、「数学的アルゴリズム」、「ビジネス方法」の例外に該当すると判示した。

(2) 考え方

 法101条の平易で明確な規定は、法定の主題の4つのカテゴリーのいずれかに該当するいかなる発明も、それが102条、103条、112条などの特許法に規定されている他の要件を満たす限り、特許を受けることができることを意味している。

 法101条に包括的な用語である「いかなる(any)」が繰り返し使われていることは、法101条に特に既定されている要件を限界として、特許取得の対象となる法定の主題にこれ以上の制限を加えないことが議会の意図であったことを示している。実際、最高裁判所は、法101条が「人間が創るこの世のすべてのもの」を対象とすることを意図していたと述べている(Diamond v. Chakrabarty判決(1980)、Diamond v. Diehr判決(1981)参照)。立法経過において議会は101条の要件以上の制限を課すことを意図していなかったことから、101条に、特許の対象となる法定の主題への制限を見出すことは適切ではない(Chakrabarty判決(1980)参照)。

(3) 数学アルゴリズムの例外

(a) 判断基準

 Diehr判決において、最高裁は「ある種の数学的主題は、具体的な適用(practical application)、すなわち有用で具体的かつ現実的な結果(useful, concrete and tangible result)への適用があるまでは、それ自体では抽象的なアイディアにすぎない」と述べた。(Alappat判決参照)

 特許性のない数学アルゴリズムは、それが単に、「有用」でない机上の(disembodied)概念または真理を構成する抽象的なアイディアに過ぎないことを示すことにより、識別することができる。具体的には、特許を受けるためには、アルゴリズムは「有用な」方法で適用されなければならないことを意味する。

 Alappat事件において、当裁判所は、ラスタライザーのモニターに滑らかな波形を表示するために、一連の数学的計算を通じて機械によって変換されたデータは、滑らかな波形という「有用で具体的かつ現実的な結果」をつくりだすので、抽象的アイディア(数学的アルゴリズム、公式、または計算)の具体的な適用にあたると判断した。

 同様にArrhythmia Research Technology Inc v. Corazonix Corp.事件において、当裁判所は、一連の数学的計算による患者の心拍からの心電図信号への機械による変換は、患者の心臓の状態という有用で具体的かつ現実的なものに対応するので、抽象的アイディア(数学的アルゴリズム、公式、または計算)の具体的な適用にあたると判断した。

(b) 本件へのあてはめ

 当裁判所は、さまざまな金額を示すデータを、機械により、一連の数学的計算を通して最終株価に変換することは、数学的アルゴリズム、公式、または計算の具体的な適用にあたると判断する。これは、取締当局およびその後の取引において受け入れられ、信頼される、記録および報告のために絶えず確定される最終証券価格という、有用で具体的かつ現実的な結果をつくりだすからである。

(c) Freeman-Walter-Abeleテストの評価

 地方裁判所が、クレームされた主題が特許の対象とならない抽象的なアイディアかどうかについてFreeman-Walter-Abeleテストを適用したのは誤りであった。

 Diehr判決と、Chakrabarty判決の後では、Freeman-Walter-Abeleテストは、法定の主題が存在するか否かの判断においては、ほとんど適用されない。当裁判所がAlappat判決において指摘したように、たとえ自然法則、自然現象または抽象的アイディアがそれ自身では保護されなくても、それらを利用したプロセス、機械、製造物または組成物は、特許性のある法定の主題であるので、このテストはミスリーディングである。

 このテストはアルゴリズムの有無を判断するもので、Benson判決の下では、法定の主題でないことの十分な状況証拠になりうる。しかし、Diehr判決とAlappat判決の後では、クレームの発明が数字の入力、数字の計算、数字の出力および数字の記憶を含んでいるという事実だけでは、その適用が有用で具体的かつ現実的な結果をつくり出さない場合を除き、法定の主題ではないとすることができない。

 クレームが法定の主題を含んでいるか否かの問題は、クレームがプロセス、機械、製作物または組成物という4つのカテゴリーのいずれに関連するかに注目すべきではなく、法定の主題の本質的な性質、特にその実際上の有用性に注目すべきである。クレーム1は、ハブとスポークのソフトウェアを持つプログラムされた機械に向けられたものであり、明らかに「有用で具体的かつ現実的な結果」を生成しているので、その結果が、価格、利益、比率、費用あるいは損失などの数字で表現されているとしても、法定の主題となる。

(4) ビジネス方法の例外

(a) ビジネス方法の例外ルールの不当性

 当裁判所はこの機会を利用して、不適切なビジネス方法の例外ルールを葬り去る。ビジネス方法の例外ルールは、そのはじめから、単に一般的なルールとして存在していたが、もはや適用可能な法理ではない。この例外は、おそらく法103条によって削除された「発明に対する要件」から生じたものである。1952年の特許法以来、ビジネス方法には、他のプロセスや方法と同様に特許性の法的要件が適用されてきたし、またそうされるべきであった。

(b) 先例の分析

 ビジネス方法の例外ルールは、当裁判所およびCCPAによって適用され、特許性なしと判断されたことはなかった。常に、数学的アルゴリズムの認定に基づく抽象的アイディアの例外が、ビジネス方法の例外ルールに先行して適用されてきた。

 このことは、Howard判決 (1968) において説明されている。裁判所は、新規性の欠如を理由にとして特許性を否定した、特許庁審判部によるクレームの拒絶を支持し、ビジネス方法が「本来的に特許性がない」ことにより、特許庁審査部が法101条に基づき否定した根拠に触れる必要はないと判断した。

 同様に、Schrander判決 (1994) において、裁判所は、ビジネス方法の例外に言及する一方で、クレームは抽象的アイディアを数学的アルゴリズムの形で説明したものであり、「物理的活動または対象をあらわし、または構成する主題の転換または変換」が存在しないという事実を指摘した。

 State Streetは、当裁判所は、Maucorps事件 (1979) やMeyer事件 (1982) において、Alappat判決におけるビジネスモデルの例外の有効性を認めたと主張した。Maucorps事件では、販売員のそれぞれの顧客への最善の対応を決定する業務方法が扱われ、Meyer事件では、神経科医による患者の診断を支援するための「システム」が関係した。申し立てられたいずれの「発明」も、法101条の4つのカテゴリーに該当しない。しかし、これらの例を詳しく検討すると、Maucorps事件やMeyer事件でクレームされた発明は、ビジネス方法の例外ではなく、数学的アルゴリズムの例外に基づく抽象的なアイディアであるとして拒絶されたことがわかる。Maucorps判決、Meyer判決参照。

 法定の主題に対するビジネス方法の例外を確立したとしてしばしば引用される、Hotel Security Checking Co. v. Lorraine Co.判決 (1908) でさえも、特許を無効とするために、この例外に依拠していない。この事件では、特許は、不適切な主題であるからではなく、新規性と「発明」の欠如により無効とされた。裁判所は、「このシステムの基本的な原理は、使用者の商品の料金を、それを受領した代理人につけるという簿記の技術と同じ歴史がある。」「特許出願時に、料理店において何らかの簿記のシステムがなければ、現金出納と会計簿の照合についての新規で有用なシステムが法律の下で特許されうるかという問題に直面したことになっただろう。」

(c) 地裁判決の評価

 地方裁判所は、いくつかの専門書に説明されているビジネス方法の例外に言及し、それに基づき特許を無効とする主要な理由を次のように述べた。

Signatureの発明に特許性があるとすれば、ハブとスポーク構造をもとにした多層ファンド構造を実施しようとするすべての金融機関は、そのようなプロジェクトを開始する前にSignatureの許諾を受けなければならない。これは、特許'056号が、このタイプの金融構造を管理するために必要なコンピュータによるほとんどすべての会計方法を含むほど広くクレームされているからである。

 クレームが特許を与えるには広すぎるかどうかは、法101条ではなく、法102条、103条および112条に基づき判断すべきである。上記の表明が正しいとすれば、クレームされたが法定の主題であるかどうかは無関係である。

(d) 特許審査手続マニュアル・コンピュータ関連発明審査ガイドライン

 このような観点からは、特許審査手続マニュアルの最新版において、パラグラフ706.03(a)が削除されたのは当然である。以前のマニュアルには次のように記載されていた。

ビジネスを行う方法は、プロセスまたは方法のカテゴリーに入るように見えるが、法定の条項に該当しないとして拒絶することができる。Hotel Security Checking Co. v. Lorraine Co.判決 (1908) 、Wait判決 (1934) 参照

 この認識は米国特許商標庁の1996年のコンピュータ発明に対する審査ガイドラインで支持された。それには、次のように記載されている。

審査官はビジネスを行う方法に関するクレームを適切に取り扱うことが困難であった。クレームはビジネスを行う方法として分類されるべきではなく、他のプロセス・クレームと同様に取り扱われるべきである。

 当裁判所は、これがまさにこの種のクレームを扱う方法であることに同意する。クレームが法101条の法定の主題に関連するか否かの判断は、クレームが「ビジネス」に関係するものかどうかに依拠すべきではない。

3 結論

 控訴された判決は破棄され、本件はさらなる審理のために、地方裁判所に差し戻される。

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感想及び私見

筒井

 控訴審判決は、ビジネス方法に特許が認められたとして話題となったが、正確にはビジネス方法だという理由のみで、法定の主題から除外されるものではないと述べているにすぎない。数学的アルゴリズムについては、数学的アルゴリズム自体は抽象的アイデアだから特許性がないが、具体的で有用かつ現実的な適用があれば、特許性が認められると述べている。判決によれば、従来から、どのような発明でも新規性、非自明性といった要件を満たせば特許になる。しかし、以前から純粋なビジネス方法が特許の対象と考えられていたというより、ビジネス手法の開発投資の保護するニーズが背景にあり、特許の対象が拡張されてきているといえるだろう。

 本判決では、一般論としてビジネス方法は法定の主題たり得ると述べただけで、Signatureの特許自体の有効性は判断されていない。ある種のビジネスを独占してしまうような発明に特許を与えることが妥当であるとは思われず、特にビジネス方法に関する発明には、102条以下の条文を厳格に適用されるべきではないだろうか。

 なお、日本では、特許対象となる発明は、「自然法則を利用した技術的思想」でなければならず、アメリカのように何でも特許対象となり得るわけではない。本件の発明も「技術的思想の創作」ではないとして拒絶理由通知が出されており、ハードウエア資源を利用しないような純粋なビジネス方法そのものは、特許対象とならないと考えられる。

飯田

控訴審判決では、数学的アルゴリズムの例外と、ビジネス方法の例外についての判断が注目される。数学的アルゴリズムの例外については、控訴審判決は、物理的変換を必要とするFreeman-Walter-Abeleテストを退けて、「有用性のテスト」を用いた。本件において取引、税務に用いる最終証券価格の生成に有用性が認められていることを考えると、金融、会計、ビジネス等の分野におけるソフトウェアが数学的アルゴリズムの例外の要件をクリアすることが容易になったように思われる。

 ビジネスモデルの例外については、控訴審は、その根拠や適用範囲が不明確であること、従来CAFCやCCPAの判決における適用がなかったことを理由に、この要件自体を否定した。たしかに、特許法の他の要件を満たす技術であるにもかかわらず、ビジネスに関連することのみを理由として、特許性を否定することは合理的とは思われない。この判決は、理論的には妥当であると評価できるのではないか。

 ただし、ビジネスモデル特許の問題はその先にあるように思われる。現在では、ITビジネスはコンピュータの利用が必要不可欠であり、ビジネスモデル実現のための技術の特許化であっても、ビジネスモデル自体に独占的権利を認めることと実質的に同等となる場合が多いのではないか。ありふれたビジネス方法に独占的権利を与えたり、市場に予想外のインパクトを与えたりすることを防止するためには、現在の経済・技術状況を十分考慮した、立法上、解釈上の対応が望まれる。今後の議論の進展に期待したい。

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