原告−上訴人: AT&T CORP.

被告−被上訴人: EXCEL COMMUNICATIONS, INC.、
EXCEL COMMUNICATIONS MARKETING, INC.
およびEXCEL TELECOMMUNICATIONS, INC.

98-1338
合衆国連邦巡回控訴裁判所

決定:1999年4月14日

上訴人側弁護士: Constantine L. Trela, Jr., Sidley & Austin法律事務所、イリノイ州シカゴ。摘要書共同執筆者Joseph S. Miller。摘要書助言者Albert E. Fey、Thomas L. SecrestおよびSteven C. Cherney、Fish & Neave法律事務所、ニューヨーク州ニューヨーク、ならびに、Laura A. KasterおよびChristopher P. Godziela、AT&T Corp.、ニュージャージー州リバティ・コーナー。

被上訴人側弁護士: Donald R. Dunner、Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner., L.L.P.、ワシントンDC。摘要書共同執筆者J. Michael JakesおよびHoward A. Kwon。摘要書助言者Mike McKool, Jr.、Eric W. BuetherおよびMonte M. Bond、McKool Smith, P.C.、テキサス州ダラス。

デラウェア地区合衆国地方裁判所、裁判官Sue L. Robinsonからの上訴

合衆国連邦巡回控訴裁判所

裁判官: PLAGER、CLEVENGERおよびRADER巡回判事

執筆者: PLAGER巡回判事

本訴訟は本法廷に再度、特許法35 U.S.C. 101(1994)第1節の範囲の審査をするよう求めている。デラウェア地区合衆国地方裁判所は、Excel Communications, Inc.、Excel Communications Marketing, Inc.およびExcel Telecommunications, Inc.(総称して「Excel」)に、合衆国特許第
5, 333, 184号(第 '184号特許)は法定の主題をクレームしていないので、第101条に基づき無効であると判断したサマリジャッジメントを認めた。AT&T Corp. v. Excel Communications, Inc., No. CIV.A.96-434-SLR, 1998 WL 175878, at *7(D. Del、1998年3月27日)。第 '184号特許の特許権者であるAT&T Corp.は上訴した。本法廷は、クレームされた対象は第101条の法定主題の範囲に十分に入っていると認定し、地方裁判所の無効判決を破棄し、本訴訟を差し戻す。

背景

A.

「電話システムの呼出しメッセージの記録」という表題の第 '184号特許は、1994年7月26日に発行された。この特許は、主要長距離電話会社(PIC)標識(indicator)を加えることによって強化された長距離電話のメッセージ記録について説明している。標識を付加することにより長距離電話会社は、加入者の通話の相手が同一の長距離電話会社の加入者であるか否かによって差別的に料金を請求することが可能になる。

第 '184号特許でクレームされている発明は、複数の長距離サービス提供者をもつ電気通信システムで使われるように作られている。このシステムは、市内電話会社(「LEC」)と長距離電話会社(「IXC」)を含む。LECは市内電話サービスとIXCへの接続を行う。各顧客は市内電話のためのLECをもち、主要長距離電話局つまりPICとして、AT&TやExcelなどのIXCを選択する。IXCは、AT&Tのように自社の設備をもっていることもある。また「再販者」あるいは「再販電話会社」と呼ばれるExcelのような会社は、設備所有者と契約して、自社の加入者の電話を、設備所有者の交換台および送信線を通じて流す。MCIやU.S. Sprintのように、自社の電話線とリースした電話線双方をもつ会社もある。

このシステムは、発呼者が直通(1+)長距離電話をかけたときの3工程プロセスからなる。(1) 呼出しがLECのネットワークを通じて交換台に送られ、LECが発呼者のPICを識別すると、LECは自動的に発呼者のPICが使用する設備に電話を回す。(2) PICの設備がその電話を、被呼者のLECにつなぐ。(3) 被呼者のLECがその市内ネットワークを通じて電話を被呼者へつなぐ。

発呼者が直通長距離電話をかけたとき、交換台(市外ネットワークの交換台のこともある)がモニターし、その電話に関するデータを記録し、「自動メッセージ・アカウント」(「AMA」)のメッセージ記録を生み出す。この同時メッセージ記録には、発呼者および被呼者の電話番号、電話時間などの情報が含まれている。そしてメッセージ記録は、処理と請求のために、交換機からメッセージ蓄積システムへ送られる。

メッセージ記録は電子フォーマットで記憶されているので、コンピューター・システムから他のコンピューター・システムへ送信し、情報処理の便宜のために書式変更することもできる。そのようにしてAMAメッセージは、業界規格の「交換メッセージ・インタフェース」に翻訳され、評価システムに送られ、次に請求システムに送られ、そこで処理されて通常はハードコピーの請求書が作られ加入者に郵送される。

B.

第 '184号特許の発明は、呼出しがある特定のPICに関係しているか否かを示すための、標準メッセージ記録へのデータ・フィールドの追加(「PIC標識」)を求めている。PIC標識の形式には、被呼者のPICを特定するコード、被呼者のPICがある特定のIXCであるか否かを示すフラッグ、あるいは、被呼者と発呼者のPICが同じIXCであることを示すフラッグなど、複数の可能性がある。それゆえ、PIC標識は識別されたPICに基づいて、IXCが通話に対し差別的な請求ができるようにする。

第 '184号特許として発行された出願は1992年に提出された。合衆国特許商標庁(「PTO」)は、最初に提出されたクレームの41すべてを、第101条に関係しない理由で拒絶した。修正の後、1994年、クレームは現在の形で発行された。第 '184号特許は6つの独立クレーム、5つの方法クレーム、1つの装置クレーム、それに幾つかの従属クレームをもつ。PTOは、クレームが第101条の下における法定主題か否かは問わずに、第 '184号特許を認めた。

1996年、AT&TはExcelに対する侵害訴訟において、方法クレームのうちの10個を主張した。争点の独立クレーム(クレーム1、12、18および40)は、「加入発呼者と加入被呼者の間の市外通話のためのメッセージ記録を生成する」工程、およびPIC標識をメッセージ記録に加える工程を含む。たとえば独立クレーム1は、被呼者のPICによって決まる値をもつPIC標識を加える。

1. 各加入者が発する市外電話を、その加入者に関連する複数の市外電話会社のうちの一つの設備を通して自動的に送る、電気通信システムで使われる、以下の工程から構成される方法。

加入発呼者と加入被呼者の市外通話に関するメッセージ記録を生成する工程

そのメッセージ記録に、加入被呼者が関係する市外電話会社が上記の市外電話会社のうちの予め決められていた会社であるか否かの関数である主要市外電話会社(PIC)標識を含める工程

(強調追加)独立クレーム12と40は、被呼者のPICがその通話がなされているIXCと同一か否かを示す、PIC標識を追加する。独立クレーム18は、発呼者と被呼者が同一のIXCに加入しているか否かを示すように作られた、PIC標識を追加する。争点の従属クレームは、IXCの加入者データベースへのアクセス(クレーム4、13および19)と、PIC標識の値の関数としての各通話の料金の請求(クレーム6、15および21)の工程を追加する。

第 '184号特許の方法クレームは、暗に数学的アルゴリズム(mathematical algorithm)を記していると地方裁判所は結論付けた。AT&T, 1998 WL 175878, at *6参照。クレーム中の唯一の物理的工程は、そのアルゴリズムのためのデータ収集を含むものであるというのが、同裁判所の見解であった。同上参照。同裁判所は、クレームが交換機とコンピューターの使用を必要としているとは認めたが、データのフォーマットの実質的でない変更を行うための当該設備の使用は、特許性のない対象を特許性のある対象に変える役割は果たさないと結論付けた。同上、at *6-7参照。そして第一審裁判所はサマリジャッジメントにおいて、争点となっている方法クレーム全てが、法定主題となる資格はないため無効であると判断した。同上、at *7参照。

議論

A.

重大な事実に関する真正な争点がなく、申立て当事者が法律問題としての判決を受ける資格がある場合には、サマリジャッジメントを下すことが適切である。Fed. R. Civ. P. 56 (c) 参照。本法廷は、すべての事実に関する正当化され得る推定を、申立てに反対する当事者に有利に行うことによって、第一審裁判所によるサマリジャッジメントを遠慮なしに検討する。Anderson v. Liberty Lobby, Inc., 477 U.S. 242, 255(1986)参照。

主張されている第 '184号特許のクレームは、35 U.S.C. 101における法定主題をクレームしていないので無効であるか否かという上訴での争点が、本法廷が遠慮なしに検討する法律問題である。Arrhythmia Research Tech. v. Corazonix Corp., 958 F.2d 1053, 1055-56, 22 USPQ2d 1033, 1035(連邦巡回、1992)。制定法の解釈問題においては、法律が何であるかを独立に決定するのは、本法廷の責任である。Hodges v. Secretary of the Dep't of Health & Human Servs., 9 F.3d 958, 960(連邦巡回、1993)参照。

B.

クレームが法定主題であるか否かの分析は、35 U.S.C. 101の表現から始まる。それによれば、

有用で新規なプロセス、機械、製造法、もしくは物質の組成、またはその有用で新しい改善を発明または発見をした人は何者でも、本編の条件および要件の下で、それに対する特許を得ることができる。

最高裁判所は、議会は法定主題に「人間によって作られたこの世のすべてのものを含める」ように意図したと指摘し、第101条を広く解釈した。Diamond v. Chakrabarty, 447 U.S. 303, 309(1980)(S. Rep. No. 82-1979, at 5(1952); H.R. Rep. No. 82-1923, at 6(1952)を引用)参照。Diamond v. Diehr, 450 U.S. 175, 182(1981)も参照。この一見すると無制限の拡大にも関わらず、最高裁判所は、特許性のない対象となる3つのカテゴリーを具体的に特定した。それは、「自然法則、自然現象、および抽象的アイデア」である。Diehr, 450 U.S. at 185参照。

本訴訟に関しては、争点の方法クレームは、第101条に列記された特許可能な対象の4つのカテゴリーの、「プロセス」[1] に含まれる。地方裁判所は、争点のクレームは他の点では第101条の要件内に含まれてはいるが、暗に数学的アルゴリズムを説明しており、AT&T, 1998 WL 175878, at *6参照、「数学的アルゴリズム」という、法定主題に関して司法が定めた例外に含まれると判断した。

要約に見られる、しばしば数学的アルゴリズムと呼ばれる数学の公式だけでは、特許性のない対象とみなされる。Diamond v. Diehr, 450 U.S. 175(1981); Parker v. Flook, 437 U.S. 584(1978); Gottschalk v. Benson, 409 U.S. 63(1972)参照。裁判所は、法定主題ではない数学的対象の種類を表わすのに、「数学的アルゴリズム」、「数学公式」および「数学方程式」という用語を、これらが交換可能なのか互いに異なっているのかを説明せずに、使用してきた。これらの用語が同一の概念を意味していると仮定しても、それが正確に何を含んでいるのかは、難しい問題である。たとえば、Diehr, 450 U.S. at 186 n.9(「『アルゴリズム』という用語には、さまざまな定義がある。・・・[原告]の定義は、本法廷がBenson and Flook訴訟で採用した定義よりもかなり広い。」)Schrader訴訟、22 F.3d 290, 293 n.5, 30 USPQ2d 1455, 1457 n.5(連邦巡回、1994)において同調。

本法廷は最近、電子的であろうと化学的であろうと機械的であろうと、段階的(step-by-step)プロセスは、広い意味で「アルゴリズム」であると指摘した。State Street Bank & Trust Co. v. Signature Fin. Group, Inc., 149 F.3d 1368, 1374-75, 47 USPQ2d 1596, 1602(連邦巡回、1998)裁量上訴棄却、--- U.S.---, 119 S. Ct. 851(1999)。第101条は、特許性のある対象のカテゴリーとしてプロセスを含んでいるので、「数学的アルゴリズム」に特許を与えることに対して司法が決定した禁止(proscription)は、その禁止がまだ存在している限りにおいて、要約における数学的アルゴリズムに狭く限定される。同上参照。Benson, 409 U.S. at 65(数学的アルゴリズムを、「あるタイプの数学の問題を解くための手続き」として説明している)も参照。

数字を操作するというプロセスはコンピューター技術の基本的部分なので、本法廷はかかる技術の特許性を規律する規則を再検討しなければならなかった。法律と技術双方の変貌が、基本的原則に忠実でありながら、新しい革新的な概念に適応する法律の能力に対する遺言として立ちはだかっている。以前PTOは、コンピューター・プログラムに特許性があるという概念を実質的に拒絶するガイドラインを公表した。[2] 技術が進歩するにつれ、我々の前任者たちはそれに反対するようになり、第101条に関する従前の限定的原則の幾つかを無効とし、コンピューター技術を頭に置いて作られた、より発展性のある原則を発表した。[3] State Street訴訟での以前の決定で本法廷は、いわゆる「ビジネス方法」の除外を放棄し、「数学的アルゴリズム」の例外を再検討した。149 F.3d at 1373-77, 47 USPQ2d at 1600-04参照。いずれも、第101条の法定のカテゴリーに対して、司法が定めた「例外」であった。この短い説明が示すように、本法廷(およびその前任者)は、第101条の範囲の理解を、現代の要求に合わせるよう努力してきた。

最高裁判所はこの努力を支持し強化してきた。Diehr訴訟において最高裁判所は明示的に、以前のFlook判決とBenson判決を、自然法則、自然現象および抽象的アイデアは特許の保護から除外されるという「古くから確立している原則」を確認したに過ぎないと強調して、限定した。450 U.S. at 185。 Diehr訴訟で裁判所は、「本件の被告は、数学公式の特許を求めているのではなく、合成ゴムの加硫プロセスに対する保護を求めている」と指摘し、明示的にDiehrのプロセスを区別した。同上at 185。そして法廷は、そのプロセスはよく知られた数学方程式を使用したが、出願者は「その方程式の使用を前提とはしなかった」と説明した。同上。つまり、数学的アルゴリズムはそれだけでは特許性がないが、方程式を新規で有用な目的に適用するプロセスは、「少なくとも第101条による限定によっては禁止されない」。同上at 188。この点に関しては、「『アルゴリズム』という用語は・・・「コンピューター・プログラム」という用語と同意であり」、同上at 219(Stevens, J.、反対意見)、したがって、一般的な叙述としてのコンピューターに基づくプログラムには特許性はないという、反対の結論をもたらす主張がStevens判事によって反対意見として強くなされたことも、指摘しておかなければならない。しかし彼の見解は、Diehr訴訟においては過半数によって否定された。

すでに指摘したように本法廷は最近、State Street訴訟において、「数学的アルゴリズム」の例外を扱った。149 F.3d at 1373-77, 47 USPQ2d at 1600-02参照。State Street訴訟において本法廷は、Diehr訴訟における最高裁判所の指針に従い、「特許性のない数学的アルゴリズムは、『有用』ではない分離された概念または真理から構成される単なる抽象的アイデアであることを示すことによって特定できる。・・・特許性があるためには、アルゴリズムは『有用な』方法で適用されなければならない」と結論付けた。同上at 1373, 47 USPQ2d at 1601。その訴訟では、財務管理体制を実現するためのクレームされたデータ処理システムは、「『有用かつ具体的で有形の結果』を生み出すことによって・・・数学的アルゴリズムの実用的応用」を構成したので、第101条の要件を満たした。同上at 1373, 47 USPQ2d at 1601。

クレームされた発明全体が「有用」な態様で利用されているならば、数学的アルゴリズムは機械やプロセスなどの特許性のある対象の不可欠な部分であり得るというState Street判決の定式化は、Alappat, 33 F.3d 1526, 31 USPQ2d 1545(連邦巡回、1994)において、本裁判所の大法廷が取ったアプローチを継承している。Alappat判決において本法廷は、数学的対象の特許性に関する最高裁判所による限定の我々による理解を記し、次のように結論付けた。

[本法廷は]、第101条から除外される、過度に広い[数学的]対象という第四のカテゴリーを作り出すことは意図しなかった。本法廷の分析の核心はむしろ・・・、ある種の数学的対象はそれだけでは、何らかの実用的な応用に移されるまでは抽象的なアイデア以上のものを表現せず、したがってその対象はそれ自体では特許の保護を受ける資格がないという、かなりわかりやすい概念を説明する本法廷による試みにある。

同上at 1543, 31 USPQ2d at 1556-57(強調追加)。Alappatテストは単に、クレームされた対象が全体として、「自然法則」または「抽象的アイデア」以上のものではない分離された数学的概念であるか、またはその数学的概念が、それを「有用な」ものとする何らかの実用的応用に移されているかを見るための、争われているクレームの審査を要求する。同上at 1544, 31 USPQ2d at 1557。Alappat判決で本法廷は、クレームされた発明が全体として、円滑な波形の表示という有用で具体的で有形の結果を生み出す具体的な機械の構成に向けられていたので、抽象的アイデア以上のものがクレームされていると判断した。同上at 1544, 31 USPQ2d at 1557参照。

Alappat訴訟でもState Street訴訟でも、クレームは、何らかの結果を生み出す機械に対するものであった。本件では、Excelがその通話がなされる設備を所有も運用もしていないので、AT&TはExcelを装置クレームの侵害では提訴せず、侵害の提訴を、特定の方法またはプロセス・クレームに限定した。明示的に記されているか黙示的に記されているかに関わらず、本法廷は、機械にしろプロセスにしろ、クレームが書かれている形式に関わらず、第101条の範囲が同一であると考える。たとえば、Alappat, 33 F.3d at 1581, 31 USPQ2d at 1589 (Rader, J.、補足意見)(「私と完全に同意見であるRich判事は、Alappatの出願を、機械をクレームしていると読んだ。実際は、発明がプロセスであるか機械であるかは関係しない。特許法の表現自体も最高裁判所の判決も、Alappatの発明がプロセスとみなされたとしても機械とみなされたとしても、35 U.S.C. 101に容易に適合することを明確にしている。); State Street, 149 F.3d at 1372, 47 USPQ2d at 1600(「第101条の分析の目的では、クレーム1が『機械』を指しているか『プロセス』を指しているかはほとんど関係ない。」)参照。さらに、すべて方法(つまりプロセス)クレームが関連しているDiehr判決、Flook判決そしてBenson判決での最高裁判所の決定は、本法廷が機械クレームおよびプロセス・クレーム双方に適用した原則を提示し支持した。つまり本法廷は、Alappat判決およびState Street判決における論理を、安心して本件で争点となっている方法クレームに適用できる。

C.

本法廷は、「数学的アルゴリズム」の例外に関する現在の理解についての復習に続き、第一審の判決を支持しあるいは反対する両当事者の主張の検討に移る。第一審裁判所がその決定をした時点では、同裁判所は、数学的アルゴリズムの問題についての本法廷によるState Street判決での検討を利用できなかったことに、本法廷は留意する。

すでに説明したように、AT&Tがクレームしたプロセスは、加入者および被呼者のPICをデータとして採用し、PIC標識の値を判断するためにブール代数をそれらのデータに適用し、請求目的で有用な信号を生み出すためにその値を交換および記録機構を通じて利用する。State Street判決において本法廷は、その処理システムは、最終的な株式価格を決定するために一連の数学的計算を通じて個々の金額を表わすデータ、つまり有用で具体的で有形な結果をもたらすので、特許性のある対象であると判断した。149 F.3d at 1373, 47 USPQ2d at 1601参照。

本件でExcelが、PIC標識の値が単純な数学の原理(pとq)を使って導かれることを主張していることは正しい。しかし、AT&Tはブール原理それ自体をクレームしているのではなく、他の応用におけるその使用を妨げようとも試みていないので、そのことは決定要因ではない。第 '184号特許に書かれている説明から、AT&Tが、PIC標識の値を決定するために、ブール原理を使うあるプロセスをクレームしているだけであることは明らかである。PIC標識は被呼者のPICについての情報を表わしており、IXCの加入者が行った長距離通話に対する差別的料金請求を可能にするという有用で非抽象的な結果である。クレームされたプロセスは、有用で具体的で有形な結果を生み出すためにブール原理を適用しており、この数学上の原理の他の利用を妨げていないので、明らかにクレームされたプロセスは第101条の範囲に入る。Arrhythmia Research Tech. Inch. v. Corazonix Corp., 958 F.2d 1053, 1060, 22 USPQ2d 1033, 1039(連邦巡回、1992)(「結果が数値であるということは、クレームが法定主題に向けられているか否かの基準にはならない」)参照。

Excelは、数学アルゴリズムを含む方法クレームは、あるもののある状態から他の状態への「物理的変換」がある場合にのみ特許性があると主張する。物理的変換という表現はDiehr判決、450 U.S. at 184(「被告のクレームがある物(本件では未加工の加硫されていない合成ゴム)の、他の状態または物への変換を含んでいるとことは、疑いはない」)に登場し、Shrader, 22 F.3d at 294, 30 USPQ2d at 1458でも、本法廷によって繰り返されている(「したがって本法廷は、このクレームの中に、データの何らの変換も見出ださない」)。

「物理的変換」という概念は誤解されうる。第一に、これは不変な要件ではなく、単に、数学的アルゴリズムが有用な応用をもたらす例であるに過ぎない。最高裁判所自身が指摘したように、「[クレームされた発明]が、特許法が保護すべき機能(たとえば、ある物の異なる状態または異なる物への変換)を果たしているとき、そのクレームは第101条の要件を満足する」。Diehr, U.S. at 192(強調追加)。「たとえば」という単語が、これが排他的要求ではなく、例であることを示している。

変換に関するこの理解は、Arrhythmia, 958 F.2d 1053, 22 USPQ2d 1033(連邦巡回、1992)における本法廷の以前の決定と合致している。Arrhythmiaによるプロセス・クレームは、ある心臓の活動を判断するために、電気的カルジオフィー(electrocardiograph)の信号を分析するための、さまざまな数学公式を含んでいた。同上at 1059, 22 USPQ2d at 1037-38参照。Arrhythmia訴訟で法廷は、工程が物理的で電気的な信号をある形から他の形へ、つまり患者の心臓の活動に関係する信号を表わす数字という非抽象的な結果に変換することを指摘し、方法クレームは法定主題の資格があると論証した。同上22 USPQ2d at 1038参照。クレームされたプロセスがデータをある「形」から他の形へ「変換」するという認定は、プロセスの中に含まれている数学的アルゴリズムが、具体的な意味をもつ数字、つまり数学的な抽象物ではなく有用で具体的で有形な結果を生み出すために使われているので、Arrhythmiaによる方法クレームが第101条を満たしていることを確認した。同上22 USPQ2d at 1039参照。

Excelはまた、争点のプロセス・クレームには特許に記されている物理的限定が欠けているので、特許性のある対象ではないと主張した。この主張は本法廷の判例の誤解を反映している。この主張のためにExcelが引用した訴訟は、means-plus-functionで書かれた機械クレームに関したものであった。たとえば、State Street, 149 F.3d at 1371, 47 USPQ2d at 1599; Alappat, 33 F.3d at 1541, 31 USPQ2d at 1554-55参照。この態様で書かれた装置クレームは、クレームされた「手段」要素に対応する、文書で説明された実施例を必要とする。35 U.S.C. 112、第6節(1994)参照。本訴訟での争点のクレームは、第一にプロセスを対象としているので、構造の分析は不必要である。

物理的限定が必要であるとの主張は、特許性のない数学的アルゴリズムを含むクレームの考えを特定するために使われた以前の基準であるFreeman-Walter-Abeleテスト[4] の第二の部分からも生じるかもしれない。その第二の部分は、「クレームが、物理的要素に適用されない又はそれによって限定されない数学的アルゴリズムに向けられているか否か」の検討であると言われた。Arrhythmia, 958 F.2d at 1058, 22 USPQ2d at 1037。Alappat判決での本裁判所の大法廷での決定は、このテストを「不適切ではない分析」と呼んだが、そのとき本法廷は、「究極の争点は常に、クレームが全体として法定主題に向けられているか否かであった」と指摘した。33 F.3d at 1543 n.21, 31 USPQ2d at 1577 n.21。さらに、本法廷の最近のState Street判決での決定では、Freeman-Walter-Abeleテストが相変わらず有効であるか疑問が投げ掛けられ、「Diehr判決やChakrabarty判決が下された現在、Freeman-Walter-Abeleテストは法定主題の存在の判断においてほとんど役立たない」と指摘された。149 F.3d at 1374, 47 USPQ2d at 1601。この以前の基準のうちの何が残っているにせよ、「Diehr判決やAlappat判決が下された現在、クレームされた発明が、数字を入力し計算し出力し記憶することを含むという事実自体は、もちろんその操作が『有用で具体的で有形な結果』をもたらさない場合を除き、それを非法定主題とはしない」ので、このタイプの物理的限定の分析はほとんど価値がないと思われる。同上at 1374, 47 USPQ2d at 1602(Alappat, 33 F.3d at 1544, 31 USPQ2d at 1557を引用)。

本法廷は、Freeman-Walter-Abeleテストにおける物理的限定の検討ではなく、Alappat判決によって「究極の争点」とみなされた検討に焦点を当てるので、本法廷は、Excelがその立場を裏付けるために引用した訴訟は不適切であると認定する。たとえばGrams訴訟において、本法廷はFreeman-Walter-Abeleテストを適用し、クレームされたプロセス中の唯一の物理的工程は、そのアルゴリズムのためのデータ収集であると結論付けた。そして、クレームは特許性のない対象に向けられていると判断した。888 F.2d 835, 839, 12 USPQ2d 1824, 1829(連邦巡回、1989)参照。一方、本件における本法廷の検討は、有用な結果を生み出すために数学アルゴリズムが実用的態様で適用されたか否かに焦点が当てられる。Grams判決は、その訴訟の裁判官たちが、クレームされたプロセスの最終結果が有用で具体的で有形であるか否かを確認しなかったので、役立たない。

同様に、Schrader訴訟で裁判所は、関係する方法クレームに関するその分析で、Freeman-Walter-Abeleテストに依拠した。同裁判所は、データのレコードへの入力以外には、クレームされたプロセスにおいて、物理的変換も物理的工程も見出ださなかった。22 F.3d at 294, 30 USPQ2d at 1458参照。Schrader訴訟で裁判所は、データ記録工程をデータ収集工程に見立て、特許性のある対象を定めていないので拒絶は適切であると判断した。同上at 294, 296, 30 USPQ2d at 1458-59参照。有用で具体的で有形な結果が生じたかを判断する前に検討を終わらせているので、Schrader訴訟における裁判所の焦点は、数学的アルゴリズムが実用的態様で適用されたか否かではなかった。したがって、この問題に関する本法廷の最近の理解から見れば、Schrader訴訟での分析は、Grams訴訟での分析と同様に役立たない。

最後に、Warmerdam, 33 F.3d 1354, 31 USPQ2d 1754(連邦巡回、1994)での判決も同様である。そこでは裁判所は、数学的アルゴリズムが正確に何であるかを判断することの難しさを認識し、「クレーム全体がそれ以上のものであるか否かの判断は曖昧になる」と述べた。同上at 1359, 31 USPQ2d at 1758。Warmerdamによるクレーム1-4は、ある数学的手続きの使用を通じて、泡の階層を生み出すことにより他の動いているまたは固定されている物体との衝突を避けるために、物体と機械の動きを制御するための方法を含んでいた。同上at 1356, 31 USPQ2d at 1755-56参照。裁判所は、クレームされたプロセスが基本的な数学的構成物を操作する以上のことをしていないと認定し、「幾つかの抽象的アイデアを集めそれらを操るだけでは、基本的な方程式に何も付け加えていない」と結論付けた。そして同裁判所は、第101条に基づくクレームの拒絶は適切であったと判断した。同上at 1360, 31 USPQ2d at 1759。事実に関する同裁判所の結論に同意するか否かに関わらず、その判断は、単なる自然法則、自然現象および抽象的アイデアは、第101条の下で特許可能な発明または発見のカテゴリーに入らないという基本原則の直接的な適用である。

D.

Diehr訴訟における反対意見でStevens判事は、連邦判事は回答する義務があると考える、第101条の問題に関する2つの懸念を指摘した。

第一に、プログラム関連の発明の特許性を検討する訴訟はまだ、良心的な特許弁護士(patent lawyer)が、ある程度の正確さでプログラム関連発明に特許性があるかを判断できるルールを確立していない。第二に、「自然法則」という特許性のない対象のカテゴリーに「アルゴリズム」という曖昧な概念が含まれていることが、ほとんどすべてのプロセスがそのように表現され、特許不可能になるかもしれないとの懸念を生み出している。

Diehr訴訟、450 U.S. at 219(Stevens, J.、反対意見)。

Stevens判事がこのように書いてから約20年経過したが、これらの懸念は相変わらず重要問題になっている。彼の解決策は、すべてのコンピューター関連プログラムが特許不可能であると宣言することであった。法律はそのような道を取らなかった。むしろ今では、第101条の基本要件が満たされる限り、コンピューター関連プログラムが特許可能な対象を構成することは明らかである。Stevens判事の懸念はその枠組みの中で対処することができる。

結果の妥当な予測ができるほど規則は十分に明らかでないという彼の第一の懸念は、Alappat判決やState Street判決が提示した第101条問題の見直しによって、今日、軽減している。「アルゴリズム」という曖昧な概念がすべてのプロセスを特許不可能にするのに使われうるという彼の第二の懸念は、焦点が、数学的アルゴリズムが関係しているか否かではなく、アルゴリズムを含む発明が全体として有形で有用な結果を生み出すか否かにあると理解されれば、解決されうる。

以上のことに鑑みて、また、本法廷での最近の訴訟が提示したより明確な理解に合わせて、本法廷は、問題の方法クレームに対して地方裁判所は適切な分析を行っておらず、また、もし同裁判所が問題のクレームに適切な分析を行ったとすれば、主張されたすべてのクレームは、第101条の幅広い特許可能な対象の範囲に容易に含まれると結論付けたはずであると判断する。したがって、本法廷は法律問題として、Excelは第101条に基づき第 '184号特許の無効性に関するサマリジャッジメントを受ける資格はなかったと結論付ける。

本訴訟はさらなる司法手続きのために第一審裁判所に差し戻されなければならないので、また、本法廷の決定の範囲に関する可能な誤解を避けるために、これらのクレームの最終的な有効性は、35 U.S.C. 102、103および112に記されている要件などの特許性に関する他の要件を満たすか否かに依拠していることを本法廷は指摘する。したがって、差戻しにおいては、これらの問題、そして両当事者が正当に提起するかもしれないその他の問題が処理されなければならない。

結論

無効性に関する地方裁判所のサマリジャッジメントを破棄し、この意見と合致する更なる司法手続きを行うために、本訴訟を差し戻す。

破棄および差戻し



[1]  「プロセス」は35 U.S.C. 100(b)で、「プロセス、技術または方法を含み、知られているプロセス、機械、製造法、物質の構成または原料の新しい使用法も含む」と定義されている。

[2]  たとえば、33 Fed.Reg.15581, 15609-10(1968)を参照。

[3]  Tarczy-Hornoch事件、397 F.2d 856, 158 USPQ 141(CCPA 1968)(「機械の機能」法理(“function of a machine”doctrine)を覆す)参照。Bernhart訴訟、417 F.2d 1395, 163 USPQ 611(CCPA 1969)(プログラムされたコンピューターの特許性を議論)、Musgrave事件、431 F.2d 882, 167 USPQ 280(CCPA 1970)(コンピューター・プログラムを含むプロセス・クレームを分析)も参照。この経過の詳しい説明、および多数の二次文献の引用は、Diehr訴訟、450 U.S. at 193のStevens判事の反対意見を参照。

[4]Freeman事件、573 F.2d 1237, 197 USPQ 464(CCPA 1978)参照。Walter事件、618 F.2d 758, 205 USPQ 397(CCPA 1980)およびAbele事件、648 F.2d 902, 214 USPQ 682(CCPA 1982)によって修正。