平成四年(ワ)第二〇一〇三号 特許権侵害差止等請求事件

当事者

 原告 パー マルティン・ペッターソン

 原告 ルネ・サリン

 原告 キューマティック・スウェーデン・エービー

      右代表者社長 ルネ・サリン

      右三名訴訟代理人弁護士 大作晃弘

 原告 株式会社ベツセル

      右代表者代表取締役 田口輝雄

   原告四名訴訟代理人弁護士大島重夫

   同          山本光太郎

   右輔佐人弁理士    八田幹雄

 被告 オートスタンプ株式会社

 (請求の趣旨第一項及び第三項から脱退)

   右代表者代表清算人 廣岡和治

 被告 グローリー商事株式会社

   右代表者代表取締役 玉森靖久

 右被告オートスタンプ株式会社訴訟引受人 ビルコン株式会社

   右代表者代表取締役 廣岡和治

   右三名訴訟代理人弁護士海老原元彦

   同          広田寿徳

   同          竹内 洋

      同          馬瀬隆之

      同             若林茂雄

      同                    島田邦雄

      同                    谷健太郎

      同                    田路至弘

      同                    田子真也

   右輔佐人弁理士      山名正彦

              主   文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告らの負担とする。

              事   実

第一 請求

 一 引受人は、別紙物件目録記載の物件を業として製造し又は販売してはならない。

 二 被告グローリー商事株式会社は、別紙物件目録記載の物件を業として販売してはならない。

 三 引受人及び被告グローリー商事株式会社は、肩書所在地及び営業所において占有する別紙物件目録記載の物件を廃棄せよ。

 四 被告グローリー商事株式会社は、原告パー マルティン・ペッターソン及び原告ルネ・サリンに対し、各金一四七〇万円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 五 被告両名は、原告キューマティック・スウェーデン・エービーに対し、各自金三七四万八九二〇スウェーデン・クローネ及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 六 被告両名は、原告株式会社ベッセルに対し、各自金一億三三〇〇万円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

 一 争いのない事実及び証拠によって認定できる事実

 1 原告パー マルティン・ペッターソン(以下「原告ペッターソン」という。)及び原告ルネ・サリン(以下「原告サリン」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許権にかかる発明を「本件発明」という。)を共有(持分各二分の一)している。

 登録番号  第一四九〇五二二号

 出願年月日 昭和五七年七月一四日

(スウェーデン国で一九八一年七月二〇日にした特許出願に基づく優先権主張)

 出願公告年月日 昭和六三年八月一五日

 登録年月日   平成元年四月七日

 発明の名称 複数のサービス場所で顧客にサービスする列順を決定するためのシステム

 2 本件特許権の特許請求の範囲の記載は、別紙本件特許出願公告公報(以下「本件公報」という。)写の該当欄記載のとおりである。

 3 本件特許権の特許請求の範囲は、次のとおり分説できる(以下、左の を単に「構成要件 」ということとし、以下 ないし についても順次同様に表示する。)。

    サービスされることを望む各顧客に順番数を割り当てるための順番割当ユニット4と、各サービス場所に対する複数のターミナル3、3、33、と、サービスを受けるための特定の順番数及び特定の空のサービス場所の確認信号を受ける情報ユニット2とを有する複数のサービス場所で顧客にサービスの列順を決定するためのシステムにおいて、

   前記順番割当ユニット4とともに順番数表示装置1内に設けられ、顧客が前記複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット5と、

   選択した望ましいサービス場所における割り当てられた順番数の順序を記憶し、かつ前記複数のターミナル3、3、3、3の各々からの、顧客へのサービスに対し空いている特定のサービス場所であるという確認信号を受け、空いているサービス場所でサービスされるべき特定の順番数を決定し、また前記情報ユニット2に空のサービス場所と特定の順番数の確認信号を出力するコンピュータ手段6とからなり、

   前記サービスされるべき特定の順番数が、望ましくないサービス場所の選択に対しあるいは望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択に対し、割り当てられた順番数の記憶された順序内で代わる代わる次のものとなるようにした、

   特定の列順で顧客にサービスするためのシステム。

 4  被告オートスタンプ株式会社(以下「被告オートスタンプ」という。)は、別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を、平成六年四月三〇日まで製造販売していたところ、同年五月一日、引受人に対し、一切の営業権を譲渡し、これにより、引受人は被告製品を製造、販売する営業権の譲渡も受け、以後これを製造販売している。

   被告グローリー商事株式会社(以下「被告グローリー」という。)は、被告製品を販売している。

 5  原告キューマティック・スウェーデン・エービー(以下「原告キューマティック」という。)は、原告ペッターソン及び原告サリンから、本件発明につき、その存続期間中、独占的通常実施権を許諾された(甲一、甲三の1ないし4)。

   原告株式会社ベツセル(以下「原告ベツセル」という。)は、原告キューマティックとの間で、昭和六二年四月一〇日、本件発明にかかる製品の独占的販売代理店契約を締結した(甲五ないし七)。

 二 本件は、原告らが、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると主張して、

 1 特許権者である原告ペッカーソン及び原告サリンが、

    引受人に対し、被告製品の製造販売の差止及びその廃棄を請求し、

   被告グローリーに対し、被告製品の販売の差止、廃棄及び平成元年一二月ころから平成四年一一月一三日までの販売につき、損害賠償を請求するとともに、

 2 独立的通常実施権者である原告キューマティック及び独占的販売代理店である原告ベツセルが、被告両名の製造販売行為により、右原告らの得べかりし利益を喪失したとして、平成元年一二月ころから平成四年一一月一三日までの製造販売行為につき、共同不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である。

 三 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについての原告らの主張、被告ら及び引受人の認否は次のとおりである。

 1 原告らの主張

    溝成要件について

     本件発明は、「サービスされることを望む各顧客に順番数を割り当てるための順番割当ユニット4」を備えるが、その実施態様は、スリップを送出し、ナンバースリップを把持され得る位置に創出するものである(本件公報3欄二三行から二五行)。

 被告製品は、「番号カード発行手段一」を有し、右番号カード発行手段一は、カード二に受付番号を印字し、カード発行口から発行するものであり、番号カードは顧客の来店目的別に発行されるものであり、右番号カード発行手段一は、顧客に受付番号を付与するという点で、本件発明の順番割当ユニット4と同一である。

   本件発明の「各サービス場所に対する複数のターミナル3、3、3、3」は、サービス場所が空いているという信号を発することができるものであり、実施態様では、それぞれのサービス場所に設けられるように構成され、少なくともサービス場所が空いているか、塞がっているかを順番数表示装置に知らせるための手動操作用制御装置44、45を有するものである。

 被告製品は、「テラーモニター四一」を有し、右テラーモニター四一は、各窓口に設置され、入力キーの状況を制御手段に通知し、順番呼び出しキー及びクローズドキーを備えているから、右テラーモニター四一は本件発明のサービス場所に対する複数のターミナルと同一である。

   本件発明は、「サービスを受けるための特定の順番数及び特定の空のサービス場所の確認信号を受ける情報ユニット2」を有するが、発明の詳細な説明において、右情報ユニットは、次にサービスされるべき順番数を示すためのディスプレーパネル及び顧客がどのサービス場所等でサービスされるべきかを示すディスプレー装置12とで横成されるのが好ましく、ベル13の形の発音装置が新しい順番数11が表れてくることを示すために接続されてもよく、措報ユニット2の構造は例えば順番数及びサービス場所番号を音声で知らせるような構造とすることができる(本件公報5欄四三行から6欄一三行)とされている。

 被告製品の「スピーカー三五が備えられた表示パネル三一、テラーモニター四一及び役席モニター五一」は、いずれも順番数と窓口番号の信号を受けるものであるから、本件発明の情報ユニット2と同一である。

   本件発明は、「複数の場所で顧客にサービスの列順を決定するためのシステム」であり、本件発明の目的は、複数のサービス場所で一般的に行われている数字的な順番による列順決定システムを存在させつつも、例えば銀行や郵便局において、顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるようにすることにあり(本件公報4欄一七行から二三行)、本件発明の構成が全体としてそのような性質を有するシステムである。

 被告製品は、窓口受付をシステムで考え、顧客の来店目的別に業種別番号カードを発行し、効率的な窓口対応を実現するものであるから、本件発明と同一の目的及び機能を備える。

   したがって、被告製品は、本件発明の構成要件 を充足する。

(二)構成要件 について

    本件発明の「顧客が複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット5」は、特定のサービス場所を望むならそれを指示するように要求され、その指示は例えば望ましいサービス場所上の指示符号9に相当する押ボタン8を押すことによって行われる(本件公報9欄四〇行から四四行)ものとされる。

 また、本件発明の「順番数表示蓑置1」の順番数表示機能は、順番数を印字したスリップを発行すること、すなわち順番割当ユニット4を有するものであれば達成できるから、本件発明の構成要件 は、「順番割当ユニット4」と「選択ユニット5」が一緒に設けられることに相当する。

   披告製品の「サービス業種の選択ボタン四」は、顧客がこれを押すことによって業種を選択できるから、本件発明の選択ユニット5に相当する。

 また、被告製品の「番号カード発行手段一」は、主要構成部として、カード二の印字プリンター三、サービス業種の選択ボタン四、サービスを受けるべき待人数表示部五を具備しているから、右サービス業種の選択ボタン四と番号カード発行手段一は、一緒に設けられている。

   したがって、被告製品は、本件発明の構成要件 を充足する。

   構成要件 について

    本件発明の「選択した望ましいサービス場所における割り当てられた順番数の順序を記憶し」は、コンピューター手段が発行された順番数とその順番数に関して選択された業種を発行された順に記憶する機能を有することに相当する。

 被告製品の「プリンター三」は、制御手段二一からデータを受信することにより業種別に受付番号を印字し、全業種について受付順にプリントアウトすることができ、このことは、全業種について受付順のデータ、即ち発行された順番数とその順番数に関して選択された業種を発行された順に記憶する機能を備えていることを意味する。

   本件発明の「複数のターミナル3、3、3、3の各々からの、顧客へのサービスに対し空いている特定のサービス場所であるという確認信号を受け」は、複数のターミナルの各々がサービス場所が空いているか、塞がっているかを順番数表示装置1に知らせるための手動操作用制御装置44、45を有することを言い換えたものであり、右手動操作用制御装置44、45は、順番数表示装置1に新しい順番数を送出するように信号を与えるか、あるいはサービス場所が閉鎖されていることを示す信号を与える制卸装置と同等である。

 被告製品の「制卸手段二一」が「番号カード発行手段一に備えられた選択ボタン四及び各テラーモニター四一に備えられた入力キー四四を監視し」、テラーモニター四一内のCPU四二はインターフェース四三とバスライン一〇〇を介して入力キー四四の状況を制御手段二一に通知する機能を有することは、コンピュータ手段6が、テラーモニター四一からの信号を受けることに、または、ターミナル3、3、3、3の出納係からの情報が順番数表示装置1及びコンピュータ手段6に伝達されることに相当する。また、テラーモニター四一に設けられている順番呼び出しキーが「そのモニターで選択されている業種の番号だけを順番に呼び出し」ということは、番号を呼び出すためには窓口が次の顧客を待機する状態にあることが前提と解されるから、これらは、コンピュータ手段6が顧客へのサービスに対し空いている特定のサービス場所であるという確認信号を受けることと同一である。

   本件発明の「空いているサービス場所でサービスされるべき特定の順番数を決定し」は、コンピュータ手段6の機能の一つを限定している。

 被告製品の「CPU三二は、インターフェース三三とバスライン一〇〇を介して制御手段二一から表示データを受信し、当該表示データを表示部三四に表示する機能を有し、表示部三四には単に当該各サービス窓口での順番数が表示される」、制御手段二一は、「番号カード発行手段一に備えられた選択ボタン四及び各テラーモニター四一に備えられた入力キー四四を監視し、選択ボタン四が押されたとき業種ごとの順番数を割り当て、入力キー四四が押されたとき、すでに発行済みの順番数をこのテラーモニター四一に表示すべき指示をするとともに、特定の表示パネル三一にも表示すべき指示をする」ことは、表示パネル三一の表示される内容及び順番数が制卸手段二一により決定されること、及び、表示パネル三一に表示される各窓口での順番数が制御手段二一により決定されることを意味する。そして、表示パネル三一の表示は、サービスを受けるべき順番の顧客を窓口ヘ呼び出しサービスを提供するためになされるものであるから、表示と同時にその窓口は空いているものであるというこができ、業種の選択すなわち窓口の選択がなされることによりその窓口においてサービスされるべき特定の順番数は特定のものであるといえる。したがって、これらは、コンピュータ手段6が、空いているサービス場所でサービスされるべき特定の順番数を決定することと同一である。

   被告製品の表示パネル三一、テラーモニタ四一、役席モニター五一がサービスを受けるための特定の順番数及び特定の空のサービス場所の確認信号を受ける情報ユニット2に該当し、これらの信号を出力することがコンピュータ手段6によりなされるものである。これは、本件発明の「情報ユニット2に空のサービス場所と所定の順番数の確認信号を出力する」ことに相当する。

   本件発明の「コンピュータ手段6」は、実施態様によれば、読取ー書込記憶装置6Aと、固定記憶装置6Bと中央処理ユニット6Cと、入出力ユニット6Dとからなるのものであり(本件公報8欄一七行から一九行)、前記 ないし の構成要件がコンピュータ手段6によりなされるという要件を限定するものである。

 被告製品の「制御手段二一」は、RAM、プログラムメモリ、CPU、インターフェースを備え、また、前記 ないし は制御手段二一によりなされる構成要件であるから、本件発明のコンピュータ手段6と同一である。

   したがって、被告製品は本件発明の構成要件 を充足する。

   構成要件 について

    本件発明の「サービスされるべき特定の順番数が、順番数の記憶された順序内で代わる代わる次のものとなるようにした」は、サービスされる順番数が、記憶された順序に従って次のものとなることである。

 被告製品においては、各テラーモニター四一の人力キー四四が押されたとき、既に発行済の順番数がこのテラーモニター四一に表示され、特定の表示パネル三一にも表示され、テラーモニター四一は、入力キー四四の状況を制御手段二一に通知するものであり、順番呼び出しキーを備える点は、サービスされるべき順番数が業種別に順番に呼び出されることであり、本件発明の「サービスされるべき特定順番数が、順番数の記憶された順序内で代わる代わる次のものとなるようにした」と同一である。

   本件発明の「望ましくないサービス場所の選択に対しあるいは望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択に対し、割り当てられた」については、順番数の割り当てが、顧客のサービス場所の選択にしたがって割り当てられること、そして顧客のサービス場所の選択には、「望ましくないサービス場所の選択に対しあるいは望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択」があることを意味し、「望ましくないサービス場所の選択」は「望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択」と並列の関係にあり、「特にどのサービス場所を望むのではない選択」すなわち「どのサース場所でもよいという選択」を意味する。

 被告製品は「番号カード発行手段一に設けられている選択ボタン四を押すと待人数表示部五に現在の待人数が表示され、同発行手段一に設られているRAMに記憶されている待人数が増やされ、テラーモニター四一のモニター操作によって呼び出しを行うとRAMに記憶されている待人数が減らされる」ことは、順番数の割当が顧客のサービス場所の選択にしたがって割り当てられることと同一である。

   したがって、被告製品は、本件発明の構成要件 を充足する。

   構成要件 について

    本件発明は、「特定の列順で顧客にサービスするためのシステム」であり、本件発明の目的は、複数のサービス場所で一般的に行われている数字的な順番による列順決定システムを存在させつつも、例えば銀行や郵便局において、顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるようにすることにあり(本件公報4欄一七行から二三行)、本件発明の構成が全体としてそのような性質を有するシステムである。

 被告製品は、窓口受付をシステムで考え、顧客の来店目的別に業種別番号カードを発行し、効率的な窓口対応を実現するものであるから、顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるようにすることを目的とし、本件発明と同一の目的及び機能を備える。

   したがって、被告製品は、本件発明の構成要件を充足する。

 2 被告ら及び引受人の認否

    構成要件 について

     原告らの主張  のうち、本件発明に関する事実は認める。被告製品については、番号カード発行手段が顧客に「業種別」の受付番号を付与する趣旨であれば認め、「全業種」における受付番号の趣旨であれば否認する。

   同  の事実は認める。ただし、「サービス場所が塞がっている」ことと「サービス場所が閉鎖されていること」は同じではない。

   同  のうち、被告製品の表示パネル三一が順番数と窓口番号の信号を受けるものであることは認め、その余は否認する。本件発明の情報ユニット2が顧客に対して次にサービスされる順番数とどのサービス場所でサービスされるかを示すものであって、被告製品のテラーモニター四一や役席モニター五一は本件発明の情報ユニット2と目的及び機能が異なリ、これに該当しない。

   同  のうち、本件発明に関する事実は認める。被告製品に関する事実は否認する。被告製品は「業種別」に列順を構成しており、本件発明のように一列による列順構成を前提にしていないから、「業種の選択」は常に必須であり、「選択しない」という概念を持ちえない。

   同  は争う。

   構成要件 について

    原告らの主張  は意味不明である。本件発明は、顧客に特定のサービス場所を選択することも可能としたもので、「サービス場所の選択」は必須ではなく、「選択しない」顧客もあることが当然の前提である。

   同  は否認する。被告製品のサービス業種の選択ボタン四は常に「業種の選択」を必須としており、「選択しうる」機能を有していないし、一つの業種に対応する複数の窓口を選択することもできないから、本件発明の選択ユニット5に該当しない。

   同  は争う。

   構成要件 について

    原告らの主張  のうち、本件発明に関する事実は認める(ただし、「業種」でなく、「サービス場所」である。)被告製品に関する事実は否認する。

   同  のうち、本件発明に関する事実は否認する。「サービス場所が塞がっている」ことと「サービス場所が閉鎖されていること」は同じではない。被告製品に関する事実は認める。

   同  のうち、本件発明に関する事実は認める。被告製品に閑する事実は否認する。被告製品ではすでに業種別に列順が構成されており、本件発明のように特定のサービス場所を選択した顧客としていない顧客を併存させて特定の順番数を決定する機能は必要でなく、したがって、被告製品の制御手段二一は、テラーモニター四一からの空いている窓口であるとの確認信号を受けると、その業種に対応する次順の順番数を単純に指示するだけのものである。

   同  の事実は否認する。被告製品のテラーモニター四一及び役席モニター五一は本件発明の情報ユニット2に対応するものではない。

   同  の事実は認める。

   同  は争う。

   構成要件 について

    原告らの主張  の事実は否認する。

   同  の事実は否認する。

 原告らは、「望ましくないサービス場所の選択」を「どのサービス場所でもよいという選択」と主張するが、右特許請求の範囲の表現から、どのサービス場所でもよいという解釈を導くことはできない。

 「望ましくないサービス場所の選択」は、文言上は意味不明といわざるを得ない。強いて解釈するとすれば、複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択することによって、特定のサービス場所以外のサービス場所を望ましくないものとして選択するものと解釈する他なく、結局、「望ましくないサービス場所の選択に対し」とは、「特定の空のサービス場所が特定の順番数の顧客にとって望ましくないサービス場所である場合において」と解釈する他はない。

 また、「望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択」とは、現在空となっている「特定のサービス場所」がサービスを受けるべき特定の順番数の顧客にとって望ましいこと、すなわち現在空のサービス場所を望ましいサービス場所として選択した顧客の場合、及び特定の望ましいサービス場所の選択をしていない顧客の場合を共に含む意味であると解釈される。

 更に「割り当てられた順番数の記憶された順序」とは、順番数割当ユニット4によりサービス場所に関わりなく来店順に顧客に割り当てられた一連の番号から既にサービスされた順番数を除いた一列の順番数の順序の意味である。構成要件 の「割り当てられた」は、単純に「順番数」を修飾するにすぎず、順番割当ユニットで一列に順番数を割り当てられていることを意味しているにすぎない。本件発明の実施例からは、本件発明が一列の列順を構成し、特定のサービス場所を選択した顧客としていない顧客が併存していることが明確である。

 被告製品は業種別の順番数を取り扱っているものである。

   同  は争う。

   構成要件 について

    原告らの主張  のうち、本件発明に関する事実は認め、被告製品に関する事実は否認する。

   同  は争う。

 四 主たる争点

  1 被告装置の「業種」は本件発明の構成要件 ないし の「サービス場所」に該当するか。

     原告らの主張

      本件発明においては、顧客が特定の場所でサービスを受けたいと望む場合にはその場所を選択し、どこの場所でサービスを受けてもよい場合にはどこの場所でもよいということを選択するのであり、本件発明でも常に業種の選択が行われる。

   したがって、本件発明でも常に業種の選択か行われており、本件発明の「サービス場所」は、被告装置の「業種」と対応することは明らかである。

   被告ら及び引受人の主張

    本件発明は、その構成要件に「所望のサービス場所を選択し得る」「望ましくないサービス場所の選択」とあり、明細書にも「顧客が特別のサービス場所を選択しないと」「たとえば特定のサービス場所を望むならばそれを指示するよう要求され」とあるように、サービス場所は選択しないことが可能である。

 これに対し、被告製品では業種を選択しないという概念はありえない。

 したがって、被告装置の「業種」は本件発明の「サービス場所」とは異なるものである。

   被告製品では一つの業種に対応する窓口が複数存在することが通例であり、本件発明の「サービス場所」と対比されるべきは、被告製品の「窓口」ということになる。しかしながら、本件発明においては、「サービス場所」は選択ユニット5による選択の対象となっているのに対し、被告製品の選択ボタンは特定の窓口を選択する機能を有しておらず、この点において両者は相違する。

   したがって、被告装置は、本件発明の「サービス場所の選択」に該当しない。

 2 被告製品の列順の構成の仕方は本件発明の構成要件 によって決定される列順の構成の仕方と同一か。

   原告らの主張

    本件発明は「複数のサービス場所で顧客にサービスの列順を決定するためのシステム」であるが、列順が一列であるとの限定はないから、実施例に示されている一列の中からサービス場所ごとの列順を決定することに限定されるものではなく、サービス場所ごとの一連番号を決定することも当然に含んでいる。すなわち、本件発明の目的を達成するためには、サービス場所ごとに一列の列順を構成することで充分であり、一列の列順に限定されるものではないことは明らかである。

   したがって、本件発明と被告製品は、顧客の所望するサービス場所ごとにどのように列順を決定するかの基本的技術思想に差異はない。

   被告ら及び引受人の主張

    本件発明は、特許請求の範囲及び明細書の記載から明らかなとおり、顧客がサービス場所を選択しないこと、すなわちどのサービス場所でもよいという顧客が存在することを前提としており、サービス場所を選択していない顧客と特定のサービス場所を選択した顧客が一列に列順を構成するものである。

 原告らは欧州特許庁の異議申立手続において、先行技術と比較のうえで本件発明の進歩性を主張し、本件発明が一列の列順を構成することをもってその進歩性を肯定した欧州特許庁の判断を享受したもので、禁反言の法理からもこれと異なる主張をすることは許されない。

   これに対し、被告製品は、業種ごとに列順を構成するもので、業種の選択が必須であり、顧客は必ず業種を選択しなければならず、どの業種でも構わないということは有り得ない。

   このように、本件発明の「場所の選択」と被告製品の「業種の選択」は全く異なる意味を有し、本件発明が一列の列順を構成するのに対し、被告製品は、業種ごとに列順を構成するもので、列順横成の仕方が基本的な技術思想において異なっている。

 3 被告製品の「選択ボタン四」は、本件発明の構成要件 の「選択ユニット5」に該当するか。

    原告らの主張

     本件発明で順番割当ユニット4から選択ユニット5の押ボタン8を押さずに順番数スリップ21を引き抜くと、コンピュータ手段6の働きによりその順番数がその顧客に割り当てられる。

 したがって、全体として眺めれば、被告製品の選択ボタン四を押し制卸手段二一の働きによりその顧客に順番数が割り当てられるのと差異はない。

   本件発明では、どこのサービス場所でもよいという選択をするための押ボタンを設ける代わりにどの押ボタンも押さないことによって同様の効果が得られるようにしたものである。

   被告ら及び引受人の主張

    本件発明においては、順番割当ユニット4による順番数の割当は、サービスされることを望む各顧客がスリップを受け取る操作を通じて必ず行われるが、選択ユニット5によるサービス場所の選択は、顧客に希望があれは行われ、希望しないのであれは選択しない場合もあり、その場合でも順番割当ユニット4による順番数の割当は必ず行われるから両ユニットは共存してそれぞれの機能は独立しており、連動していないことが明らかである。

   これに対し、被告製品の選択ボタン四は、番号カード発行手段の一構成要素にすぎず、番号カード発行手段一の受付カード発行動作をスタートさせるサービス業種毎のスタートボタン又は発券ボタンに他ならない。

   したがって、被告製品の「選択ボタン四」は、本件発明の「選択ユニット5」及びその「押ボタン8」に該当しない。

第三 争点に対する判断

 一 本件発明について

 本件公報には、前記第二、一2の特許請求の範囲の項の記載のほか、明細書項に次のような記載がある(甲二)。

 1 本発明は、銀行あるいは郵便局のように複数のサービス場所において顧客にサービスする列順を決定するためのシステムに関する(4欄一四行から一六行)。

 2 本発明の目的は、上述の種類のシステムを提供するにあり、この種システムは、複数のサービス場所で一般的に行われている数字的な順番による列順決定システムを存在させつつも、例えば銀行や郵便局において、顧客サービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるようにすることにある(4欄一七行から二三行)。

 3 かかる目的は、複数のサービス場所で顧客にサービスする列順を決定するためのシステムによって達成され、このシステムは(4欄二四行から二六行)、として、以下に、前記第一、一3記載の構成要件 ないし と同旨の説明がされている。

 4 本発明は上述し、一例として図面に示された実施例に限定されず、その詳細は以下の請求の範囲の枠内で変更され得る。システムはチケットの形の順番数に限定されないのは当然であるし、他の形のものも可能であることはいうまでもない。郵便局および銀行内のサービス場所でなく、他の場所への応用もこのシステムに適していることは当然である。カメラをシステムに接続することは、もちろん可能であり、これにより、列の端部が好ましくはサービス場所から離して位置決めされれば、泥棒を容易に捕えることができ、泥棒に対してこのシステムが重要な抑止手段となる(11欄一六行から12欄一二行)。

 二 争点1について

  1  右一1及び2に認定した、本件明細書中の本件発明の関係分野及び本件発明の目的についての記載を念頭に置けば、「サービスの場所」の文言は、「サービスが提供される場所」、則ち、例えば、銀行や郵便局の個々の窓口のような場所を指すものと解することができる。

   本件公報の請求の範囲の項には、「各サービス場所に対する複数のターミナル」、「特定の空のサービス場所」、「空いている特定のサービス場所であるという確認信号を受け、空いているサービス場所でサービスされるべき特定の順番数を決定し」、「前記情報ユニット2に空のサービス場所と特定の順番数の確認信号を出力するコンピュータ手段6」、「望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択」などの記載があり、これらの「サービス場所」は、「サービスが提供される場所」を意味するものと解してこそ意味を理解することができるが、これら「サービス場所」を、「業種」を意味するものと解するのでは意味が不明となる。

   本件公報の明細書の項中の前記一2認定の本件発明の目的についての「例えば銀行や郵便局において顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるようにすることにある」との記載、及び、前記一4認定の「列の端部が好ましくはサービス場所から離して位置決めされれば」との記載中の「サービス場所」は、例えば個々の窓口のような「サービスが提供される場所」と解すれば意味が明らかであるが、これを業種と解するのでは意味が通じない。

   本件公報の明細書の項中の実施例に関する記載及び図面を参照してもそこで使用されている「サービス場所」の語は、「サービスが提供される場所」を意味し、「業種」を意味するものではない(甲二)。

   右 ないし の事実によれば、本件発明の特許請求の範囲における「サービス場所」は、例えば、個々の窓口のような「サービスが提供される場所」を意味するものと認められる。 

 2 ところで、本件発明のシステムが適用される銀行あるいは郵便局のように列順を決めて複数のサービス場所の中の一つ一つのサービス場所において、顧客が特定のサービス場所を選択し、そこでサービスを受けることを所望する場合の選択の基準は、そのサービス場所が複数のサービス場所の中で目立たない場所であるとか、冷暖房等の状態が好ましいとか、特定の情報に接しやすい等そのサービス場所の位置的、物理的条件に着目する場合、継続的な用件について特定の担当者によるサービスの提供を求めるため等そのサービス場所の担当者に着目する場合と共に、複数のサービス場所がサービスする業務の種類(業種)を分担していて、サービスされることを望む業種に着目する場合があること、また、銀行や郵便局において、複数の窓口が全ての顧客の用件を取り扱うことができるように、処理する業種を問わないものとして設定されている場合だけでなく、個々の窓口で異なる業種を取り扱ったり、特定の復数の窓口で同じ業種を取り扱ったり、一つの窓口で複数の業種を取り扱ったりするなど、窓口と業種とは必要に応じて種々の関係に設定されていることが一般的に行われていることは当裁判所に顕著である。

 本件発明は、右のような状況を前提としているものと認められるから、構成要件 の「所望のサービス場所の選択」とは、顧客がサービス場所の位置的、物理的条件や担当者に着目して特定のサービス場所を選択する場合はもとより、業種に着目してサービス場所を選択する場合を含むものと解するのは当然である。

 そして、構成要件 の「所望のサービス場所の選択」の方法も、顧客が直接所望のサービス場所の窓口番号等を選択することに限られるものではなく、顧客が直接に選択するのは担当者名や業種(例えば、担当者名又は業種の表示された選択ボタンを押す。)である場合を含むものと認めるのが相当である。即ち、担当者名を選択することは、その担当者が担当しているサービス場所(窓口)を選択しているものであることは明らかであり、業種を選択する場合でも、複数のサービス場所がそれぞれ別の業種を分担する(一つのサービス場所が複数の業種を担当する場合を含む。)ように設定されておれば、業種を選択することは、その業種を担当しているサービス場所を選択しているものであることは明らかである。

 また、構成要件 の「前記複数のサービス場所から」選択し得るものとされる「所望のサービス場所」は、「選択」という文言の意味から、「前記の複数のサービス場所」よりも少数であるとは言えるが、一個のサービス場所に限定されるものではなく、サービス場所全体の数より少ない複数のサービス場所であれば足りるものと認められるから、一種類の業種を担当するサービス場所が複数あるように設定されている場合でも、業種を選択することにより、それらの複数のサービス場所のそれぞれを、所望のサービス場所として(勿論、最終的には、それらの中の一つのサービス場所でサービスされることを)選択しているものということができる。

 このように、本件発明は、窓口と業種とが種々の関係に設定された場合にも、顧客の用件である業種を考慮しつつ、順番割当ユニット4で割り当てられた順番数の順にサービスが行われるようにしたものと認められる。

 3 被告製品は、別紙物件目録記載のとおり、「サービス業種の選択ボタン四が設けられた番号カード発行手段一を有し、右選択ボタン四が押されたとき業種ごとの順番数を割り当てる」ものであるから、入力キー四四を設けられたテラーモニター四一を有し、これが窓口に対応しており、入力キーには、各テラーモニター四一で選択されている業種の番号だけを順番に呼び出す順番呼び出しキーが含まれており、また、制卸手段二一を有し、制御手段二一は、入力キー四四が押されたとき、発行済みの順番数を当該テラーモニターと特定の表示パネルに表示すべき指示をし、特定のスピーカー三五から呼出し音声を発生させる機能を有しているのである。

 したがって、各テラーモニター四一の設けられた窓口の存在が前提とされており、この窓口が本件発明のサービス場所に相当するものである。そして被告製品においても、客がサービスを希望する業種の選択ボタン四を押すことによって、当該業種を選択したテラーモニター四一の設けられた一つ又は複数の窓口のそれぞれを所望のサービス場所として選択しているものであり、この点において、本件発明の「所望のサービス場所の選択」と同様の所望のサービス場所の選択が行われているものと認められる。

 三 争点2について

  1 本件公報の請求の範囲の項には、次の記載があることが認められる(甲二)。

   「サービスされることを望む各顧客に順番数を割り当てるための順番割当ユニット4」と複数のターミナルと情報ユニットとを有する複数のサービス場所で顧客にサービスの列順を決定するためのシステムにおいて(構成要件 参照)、

   「前記順番割当ユニット4とともに順番数表示装置1内に設けられ、顧客が前記複数のサービス場所からの所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット5と」(構成要件 )、  

   「選択した望ましいサービス場所における割り当てられた順番数の順序を記憶し、」かつ前記複数のターミナルの各々からの顧客へのサービスに対して空いている特定のサービス場所であるという確認信号を受け、「空いているサービス場所でサービスされるべき特定の順番数を決定し、」また前記情報ユニット2に空のサービス場所と特定の順番数の確認信号を出力するコンピュータ手段6とからなり(構成要件 参照)、

   「前記サービスされるベき特定の順番数が、望ましくないサービス場所の選択に対しあるいは望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択に対し、割り当てられた順番数の記憶された順序内で代わる代わる次のものとなるようにした」(構成要件 )、

   「特定の列順で顧客にサービスするためのシステム」(構成要件 )。

 2 右請求の範囲の記載によれば、本件発明は、順番割当ユニットと複数のターミナルと情報ユニットとコンピュータ手段とからなる複数のサービス場所で顧客にサービスの列順を決定し、特定の列順で顧客にサービスするためのシステムであること、右順番割当ユニットは、サービスされることを望む各顧客に順番数を割り当てるためのものであり、選択ユニットは、順番割当ユニットとともに順番数表示装置内に設けられ、顧客が複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択し得るものであり、コンピュータ手段は、選択した望ましいサービス場所における割り当てられた順番数の順序を記憶する、空いているサービス場所でサービスされるべき特定の順番数を決定する等右 の作用を有するものであり、そのサービスされるべき特定の順番数の決定が、右 の方法で行われるものであることが示されている。

 しかしながら、サービスされるべき特定の順番数の決定方法についての右 記載の意味は、「望ましくないサービス場所の選択」という事柄が突然に出てくること、「・・・の選択に対し・・・代わる代わる次のものとなるようにした」という表現がどのようなことを指しているかわからないことのために、請求の範囲の記載自体からは不明であるというほかはない。

 また、各顧客が必ず所望のサービス場所を選択する必要があるか否か、各顧客に割り当てられる順番数が所望のサービス場所の選択の有無を問わず一の順番であるのか、所望のサービス場所毎の順番であるのかも、請求の範囲の記載からは明らかでない。

 3 本件公報の明細書(発明の詳紬な説明)の項には、本件発明についての一般的説明として、「本発明の目的は・・・複数のサービス場所で一般的に行われている数字的な順番による列順決定システムを存在させつつも、例えば銀行や郵便局において、顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるようにすることにある。」との記載がある(前記一2)外、前記一1、3、4の記載があるのみである。

 また、実施例についての記載として、「このシステムは顧客自身が前記選訳ユニット5を介して、好ましくは順番数を受ける前に選択の指示を可能とし、この指示は押ボタン8の形式をなす選択制御装置の手動操作によって行われ」(5欄三四行から三八行)、「(第6図の)前記左側コラムの一番上にあるたとえば数字10の順番数はどこかのサービス場所が空いたときにサービスを受ける次の順番であることを示し、たとえば、サービス場所選択2を備えた順番数12は、それが右側コラム48に達し、サービス場所2が空いたときにサービスを受ける次の順番であることを示す。もしも、サービス場所2が、そのときに塞がっていると、顧客はパスされ、その顧客が特別のサービス場所を選択することを指示していないと、次の順番数たとえば、サービス場所13-4が与えられる。サービス場所2が空いているときのみ、ディスプレーパネル11および12上に番号12ー2が与えられる。」(9欄八行から二一行)、「顧客が順番数スリップ21を受けたときに、装置1の指示によって、たとえば特定のサービス場所を望むならばそれを指示するよう要求され、その指示はたとえば望ましいサービス場所上の指示符号9に相当する押ボタン8を押すことによって行なわれる。」(9欄三九行から四四行)との記載がある。

 更に、本件公報の実施例についての図面である第6図には、サービスされることを待つ顧客の順序を示しているコラム47に、10、11、12、13と順番数の順に並んでおり、その内12が望ましいサービス場所2を選択し、順番数10、11、13は望ましいサービス場所を選択していない状態が示されている。

 本件公報の明細書の項及び図面には、本件発明が、顧客にサービス場所毎に一列の順番数を与えられ、全体の顧客に一列の順番数が与えられないこと、すなわち、順番数がサービス場所毎の順番数であること、又は、顧客は必ずサービス場所の選択を要求されることを示す記載はない(以上甲二)。

 4 右3認定の、明細書の項及び図面の記載によれば、明細書及び図面に開示された発明は、「数字的な順番による列順決定システムを存在させつつも、顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるようにすること」を目的とするものであり、実施例として唯一開示されているものも、顧客全員がスリップによって一列の順番数の割当を受け、そのとき、特定のサービス場所を望むならば、たとえば望ましいサービス場所の指示符号に相当する押ボタンを押すことによって望ましい特定のサービス場所を指示し、コンピュータプログラムによってサービスを受ける顧客の列順を決定する方法は、どこかのサービス場所が空いたときに、サービスを待つ顧客の中の先順位の順番数の顧客がサービスを受けることになるが、その顧客が望ましいサービス場所を選択していて、その選択されたサービス場所が、そのときに空いたサービス場所でない場合には、その顧客はパスされ、次の順番数の顧客が特別のサービス場所を選択していない(又はその空いたサービス場所を選択している)と、その次の順番数の顧客がサービスを受けることが決定され、特定のサービス場所を選択した顧客は、その選択したサービス場所が空いたときに、その場所でサービスを受けることが決定される、という方法によっているものである。

 5 本件特許出願は、特許協力条約に基づく国際出願として、スウェーデンにおいて我が国を指定国の一つに指定してされたものであるところ、その公表特許公報(昭五八−五〇一一四九号)記載の請求の範囲、明細書、図面の内容は、国内書面として提出された翻訳文と同一であると認められるが、その内容として、次の事実が認められる(甲一八)。

   請求の範囲の第1項として、「銀行あるいは郵便局内のサービス場所のような複数のサービス場所等において特定の列順で顧客にサービスするための方法において、顧客が順番数を割当てられているときに望ましいサービス場所の選択を指示するならば、その指示は記憶ユニット に登録され、顧客が空いているサービス場所で数字順でサービスされ、選択を行ったどんな顧客も好ましくは正確な順番が釆て、所望のサービス場所が空いたときに所望のサービス場所においてサービスされることを特徴とする方法。」(一枚目左下欄三行から一一行)との記載がある。

   明細書の項に、発明の一般的説明として、「本発明は、銀行あるいは郵便局のサービス場所のような複数のサービス場所等において特定の列順で顧客にサービスするための方法およびこの方法を実施するためのシステムに関する。本発明の主目的は、先ず、上述の種類の方法を提供するにあり、この種方法は順番に顧客を取扱い複数のサービス場所に共通する順番システムが存在するにも拘わらず、顧客が、例えば、銀行や郵便局で自分たちがサービスを受けることを望む特定のサービス場所を選択することを可能とする。もう一つの目的は、かかる方法を実施するのに適するシステムを提供することにある。」(二枚目左下欄五行から一五行)との記載がある。

   明細書の項の記載を、本件公報の明細書の項と比較すると、前記一1、2に対応する右 の部分、前記一3に対応する右 の請求の範囲の記載の大部分を引用する部分以外の図面の説明、実施例の説明は、ごく一部に字句の補正がある以外は、本件公報の明細書の項の記載とほぼ同一であり、図面は両者全く同一である(甲二、甲一八)。

 右公表特許公報記載の翻訳文には、顧客に割当てられる順番数が、全体の顧客に一列の順番数ではなく、サービス場所毎に一列の順番数を与えられること、顧客は必ずサービス場所の選択を要求されることを示す記載はない。

 6 右5の事実によれば、本件特許発明の出願過程において、国内書面として提出された翻訳文に記載された発明は、「順番に顧客を取扱い複数のサービス場所に共通する順番システムが存在するにも拘らず、顧客がサービスを受けることを望む特定のサービス場所を選択することを可能とする。」ことを主目的として、そのために、5 のような構成を採用し、顧客が「順番数を割当てられているときに」「望ましいサービス場所の選択を指示するならば」その指示は記憶ユニットに登録され、顧客は「空いているサービス場所で数字順でサービスされ、」所望のサービス場所の選択を行った顧客は好ましくは「正確な順番が来て、所望のサービス場所が空いたときに所望のサービス場所においてサービスされること」を特徴とするものである。したがって、翻訳文に記載された発明の順番数は「複数のサービス場所に共通する順番システム」により、すなわち、全体の顧客に一列の順番数が与えられるものであり、顧客が「望ましいサービス場所の選択を指示するならば」その指示が記憶されるもので、必ずサービス場所の選択を要求されるものではなく、サービスの列順の決定方法は、顧客は空いているサービス場所で「数字順でサービスされ、」所望のサービス場所の選択を行った顧客は好ましくは数字順による正当な順番が来て、かつ、所望のサービス場所が空いたときに所望のサービス場所においてサービスされるというものである。

 7 右3、4に認定判断した本件公報の明細書中の本件発明についての記載に、唯一の実施例についての説明及び図面をあわせ考え、かつ、本件公報の請求の範囲及び明細書の記載は右5、6に認定判断した内容の国内書面として提出された翻訳文記載の請求の範囲及び明細書が適法に補正されたものとして特許登録に至ったものであることを参酌すれば、本件発明の請求の範囲に記載された文言の意味は、次のとおりであると認められる。

 すなわち、本件発明の構成要件 の各顧客に割り当てられる「順番数」及び構成要件 の「割り当てられた順番数」は、全ての顧客に一列の順番を与える順番数であり、サービス場所毎に一列の順番を与えるものではなく、構成要件 の「所望のサービス場所を選択しうる選択ユニット」とは、顧客が順番数を割り当てられているときに、望ましいサービス場所の選択をするならば所望のサービス場所を選択し得る選択ユニットであって、顧客が必ずどこかのサービス場所を選択する必要のあるものではないと認めることができる。

 また、構成要件 の「望ましくないサービス場所の選択」とは、「望ましいサービス場所が特定の空のサービス場所であるという選択」と対立するものとされているのであるから、文言上の表現からはいささか離れるが、望ましいサービス場所の選択をしないことを意味し、また、「サービスされるべき特定の順番数が、望ましくないサービス場所の選択に対しあるいは望ましいサービス場所が特定のサービス場所であるという選択に対し、割り当てられた順番数の記憶された順序内で代わる代わる次のものになるようとした」とは、空いているサービス場所でサービスされる特定の順番数が、全ての顧客に一列の順番を与えるように割り当てられた順番数の順序内で、その順番数の顧客が望ましいサービス場所の選択をしないかまたは望ましいサービス場所が特定のサービス場所であるという選択をしたかに対応して決定されることを意味するものと認められる。したがって、本件発明は、複数のサービス場所から望ましいサービス場所を選択する顧客及び選択しない顧客の双方が併存している状態で列順を決定するものであって、順番割当ユニット4で顧客に割り当てた順番数は全ての顧客が一列の列順となるように記憶され、複数のサービス場所から望ましいサービス場所を選択しない顧客のサービスを受ける場所は、全体のサービス場所での進捗状況によって左右され、順番割当ユニット4により順番数が割り当てられた時点では決定されず、特定のサービス場所が空いたとき、その空いているサービス場所でサービスされるべき特定の順番数がコンピュータ手段6により右認定の構成要件 の方法で決定されるときに定まるものである。すなわち、本件発明においては、各サービス場所でサービスを受ける顧客は、そのサービス場所が空いた時点でコンピュータ手段6による順番数の決定で特定の顧客が割り当てられるもので、予め各サービス場所ごとにサービスを受けるべき顧客の列順が構成されるものではないと認められる。

 8 他方、被告製品は、別紙物件目録記載のとおり、「制御手段二一が、(サービス業種の)選択ボタン四が押されたとき業種ごとの順番数を割り当て」るのであるから、選択ボタンが押された時点で業種ごとの列順が決定されるものであることが認められ、選択ボタンが押されたとき業種ごとの順番数が割り当てられるのであるから、選択ボタンを押さなけれは順番数は割り当てられず、業種を選択しないことはできず、また、どの業種でもよいという選択も行われないものと認められる。

 9 したがって、被告製品は、本件発明の構成要件 において各顧客に割り当られる「順番数」、構成要件 の「割り当てられた順番数」を具備しない。

 また、被告製品は、別紙物件目録にあるとおり、その制御手段二一が、「(サービス業種の)選択ボタン四が押されたとき業種ごとの順番数を割りて、当該入力キー四四が押されたとき、すでに発行済みの順番数を当該テラーモニター四一に表示すべき指示をするとともに、特定の右表示パネル三一にも表示すべき指示をし」、テラーモニター四一には、「各テラーモニター四一で選択されている業種の番号だけをそのテラーモニターで順番に呼び出す順番呼び出しキー」が設けられているのであるから、特定のテラーモ二夕−が設けられたサービス窓口が空いた場合には、そのサービス窓口の担当する業種を選択した顧客に、その業種ごとに割り当てられた順番数をその順番に呼び出してそのサービス窓口でサービスを受けるものと決定するのであるから、本件発明の構成要件 の前記認定のような空いている特定のサービス場所でサービスされるべき特定の順番数の決定方法を充足しない。

 そして、本件発明では、順番割当ユニット4で全体の顧客に一列の順番を与える順番数を割り当て、特定のサービス場所が空いたときに、そのサービス場所でサービスされるべき顧客が、その順番内で、その順番数の願客が望ましいサービス場所の選択をしないかまたは望ましいサービス場所が特定のサービス場所であるという選択をしたかに対応して決定されるものであるのに対し、被告製品は、選択ボタンが押された時点で、ある業種を選択して顧客に当該業種ごとの順番数が割り当てられ、特定のサービス窓口が空いたときに、そのサービス窓口でサービスされるべき顧客が、そのサービス窓口の担当する業種ごとの順番に決定されるのであるから、両者は顧客へのサービスの列順の構成の仕方が基本的に異なっているといわざるをえない。

 四 争点3について

 右三7のとおり、本件発明の構成要件 の「所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット」は、顧客が順番数を割り当てられているときに望ましいサービス場所の選択をするならば所望のサービス場所を選択し得る選択ユニットであって、顧客が必ずどこかのサービス場所を選択する必要のあるものではない。

 これに対し、被告製品は、右三8のとおり、選択ボタン四を押して業種を選択することを行わないことはできず、顧客は選択ボタン四を押してどれかの業種を選択する必要があるものである。したがって、被告製品の選択ボタン四は本件発明の構成要件 の選択ユニットに該当せず、被告製品は、本件発明の構成要件 も充定しない。

 五 結論

 以上のとおり、被告製品は本件発明の構成要件 、 、 を充足しないから、その余の構成要件について検討するまでもなく本件発明の技術的範囲に含まれない。よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。

    東京地方裁判所民事第二九部

              裁判長裁判官 

                    裁判官 高部眞規子

                    裁判官 


        物 件 目 録

 添付図面に示されているように、番号カード発行手段一と、制御手段二一と、スピーカー三五が備えられた表示パネル三一と、テラーモニター四一と、役席モニター五一とを有するシステムであって、

 右番号カード発行手段一には、サービス業種の選択ボタン四と、右制御手段二一からデータを受信することにより業種別に受付け番号を印字するほか集計データ等をを印字することのできるプリンター三とが設けられ、

 右制御手段二一は、右番号カード発行手段一に備えられた右選択ボタン四及び右各テラーモニターー四一に備えられた入力キー四四を監視し、右選択ボタン四が押されたとき業種ごとの順番数を割り当て、当該入力キー四四が押されたとき、すでに発行済みの順番数を当該テラーモニター四一に表示すべき指示をするとともに、特定の右表示パネル三一にも表示すべき指示をし、音声合成部に対して必要な制御を行って右表示パネル三一における特定のスピーカー三五から呼出し音声を発生させる機能を有し、   

 右表示パネル三一には、CPU(コンピューター)三二と、インターフェース三三と、単に各サービス窓口での順番数を表示する表示部三四とが備えられ、当該CPU三二は、右インターフェース三三とバスライン一〇〇を介して右制御手段二一から表示データを受信し、当該表示データを右表示部三四に表示する機能を有し、

 右テラーモニター四一には、CPU四二と、インターフェース四三と、各テラーモニター四一で選択されている業種の番号だけをそのテラーモニターで順番に呼び出す順番呼び出しキー及びその窓口での処理を休止する場合に押されるクローズドキーを含む入力キー四四とが設けられ、右CPU四二は右インターフェース四三とバスライン一〇〇を介して右入力キー四四の状況を右制御手段二一に通知する技能を有し、

 客が右番号カード発行手段に設けられている選択ボタン四を押すと、同発行手段に設けられている待人数表示部五に当該客を含む現在の待ち人数が表示される一方、同発行手段に設けられているRAM(ランダム・アクセス・メモリ)に記憶されている持ち人数が増やされ、右テラーモ二ター四一のモニター操作によって呼び出しを行うと、右RAMに記憶されている待ち人数が減らされるように構成された、

 自動窓口受付システム。