原告−上訴人:WMS GAMING INC.

被告−被上訴人:INTERNATIONAL GAME TECHNOLOGY

97-1307, 98-1053

合衆国連邦巡回区控訴裁判所

1999 U.S. App. LEXIS 16696

判決1999年7月20日

事前経過: [*1] イリノイ北部地区連邦地方裁判所、裁判官James F. Holderman, Jrからの上訴

処分: 一部維持、一部破棄、一部取消、差戻し

原告 − 上訴人側弁護士:Raphael V. Lupo, McDermott, Will & Emery法律事務所、ワシントンDC。摘要書協力者、Paul Devinsky。摘要書助言者、Kimball R. AndersonおよびDon J. Mizerk、Winston & Strawn法律事務所、イリノイ州シカゴ。Arthur M. HandlerおよびRobert S.Goodman、Bunrns Handler & Burns LLP法律事務所、ニューヨーク州ニューヨーク。助言者、Donna M. TanguayおよびMark G. Davis、McDermott, Will & Emery法律事務所。

被告 − 被上訴人側弁護士:G. Krupka、Kirkland & Ellis法律事務所、イリノイ州シカゴ。摘要書協力者、Barry F. Irwin。摘要書協力者、Jay I. Alexander、ワシントンDC。摘要書助言者、Marc D. Foodman、International Game Technology法律顧問補佐、ネバダ州レノ。Michael B. Allen、Laff, Whitesel, Conte & Saret法律事務所、イリノイ州シカゴ。

裁判官: RICH、RADERおよびSCHALL巡回判事

*Rich巡回判事は本訴訟で口頭弁論に立ち合ったが、1999年6月9日に死亡した。本訴訟はFed. Cir. Rule 47.11に基づき、残りの判事によって決定された。

[*2]

意見者: SCHALL

意見: SCHALL巡回判事

WMS GamingInc.(WMS)は、イリノイ北部地区連邦地方裁判所による、同社が合衆国特許第4,448,419号を故意に侵害し、この特許は無効ではないとの決定について上訴する。WMS Gaming Inc. v. International Gaming Tech., No. 94-C-3062(イリノイ北部地区、1997年3月7日)(WMS Gaming)参照。WMSはまた、新しく発見された証拠に基づく再審理を求める申立てを拒絶する地方裁判所の命令も上訴する。WMS Gaming Inc. v. International Gaming Tech., No. 94-C-3062(イリノイ北部地区、1997年10月1日)参照。本法廷は、一部維持し一部破棄し一部取消し差戻す。

背景

I.

「リール停止位置選択のために乱数発生器を用いる電子ゲーム装置」という表題の合衆国特許第4,448,419号は、1984年5月15日にInge S. Telnaesに発行され(Telnaes特許)、1988年にInternational Gaming Technology(IGT)に譲渡された。Telnaes特許は、標準的な機械的スロット・マシンの外観を保ちながら勝率を減らすスロット・マシンをクレームする。勝率が減れば支払いを増やすことができ、利用者を引き付けることになる [*3]。

一般に、標準的な機械的スロット・マシンは複数のリールをもち、リールの外周にはシンボルが描かれている。シンボルにはたとえば、チェリーやプラム等の果物、二重や三重の棒、数字の「7」、およびブランクがある。通常、リールの停止位置よりもリール上のシンボルの種類のほうが少ない。つまり幾つかのシンボルは、一つのリールに複数回登場する。たとえば20の停止位置に対して、チェリーは6つ、二重棒は5つ、三重棒は3つ、ブランクは5つ、そして「7」が1つ描かれる。シンボルが描かれる停止位置の数が、機械を動かしたときに表示される結果としての、そのシンボルの確率に影響する。上記の例では、チェリーは「7」よりも6倍、表示される可能性が大きい。

リールの数、および各リールの停止位置の数が、勝つための最低確率を決める。たとえば、リールごとに20の停止位置がある3リールのスロット・マシンでは、勝つための最低確率は、8000(= 20 ´ 20 ´ 20)分の1である。Telnaes発明以前は、勝つ確率を減らす通常の方法は、リールの数を増やすか [*4]、各リールの停止位置の数を増やすことであった。停止位置の数を増すと、通常はスロット・マシンのサイズを増すことになる。経験によれば、リールが3より多いかサイズが大きいマシンは、利用者を引き付けられない。

Telnaes特許は、標準的な機械的スロット・マシンの外観を保ちながら勝率を減らすことができるスロット・マシンを開示する。Telnaes特許col. 2, lines 10-27。全般的に言うと、Telnaes特許はリールが電子的にコントロールされるスロット・マシンを開示する。同上、col. 4, lines 19-21。機械が使われるごとに、コントロール回路が各リールの停止位置をランダムに決定し、ランダムに決定された位置にリールを停止させる。同上、col. 3, lines 1-4。リールは、ランダムに選ばれた結果を表示する機能だけをもつ。同上、col. 3, lines 10-12。いずれかのシンボルの表示確率を減らすには、コントロール回路は、停止位置の数よりも多い数の中から、数字をランダムに選択する。同上、col. 4, line 53 - [*5] col. 5, line 4。その数字の範囲は、停止位置に、非一様に写像される。たとえば、メーカーまたはオペレーターがプログラムする記憶された参照表が、数字の範囲を停止位置に写像するために使われる。1 リールごとに20の停止位置があるスロット・マシンでは、コントロール回路は乱数生成器を使い、たとえば1から40までの数字を選択する。40個の数字は、リール上の20個の停止位置に、非一様に対応させられる。たとえば、1つの数字だけがシンボル「7」に割り当てられ、6つの数字が「チェリー」に割り当てられるかもしれない。数字の非一様な写像により、停止位置の組合せの確率、そして勝率を、リールの外観を変えないで調整することができる。同上、col. 3, lines 13-16。Telnaes特許で開示された、現実のリールをもち勝率を操作できるスロット・マシンは、「仮想リール」スロット・マシンと呼ばれる。

注1 停止位置への数字の非一様な写像とは、幾つかの停止位置が、他の停止位置よりも多くの数字を割り当てられる、停止位置への数字の割り当てである。

[*6]

Telnaes特許でクレームされた仮想リール・スロット・マシンは、市場で広く受け入れられてきた。幾つかの競争相手がIGTから特許をライセンスし、多額の実施料を支払った。仮想リール・スロット・マシンは、世界で販売されているスロット・マシンの大部分を占め、スロット・マシンから得られるカジノの収入の割合は、仮想リール・スロット・マシンの導入以来、劇的に増加した。

II

1993年、WMSは、告発されたデバイスである、モデル400というスロット・マシンを導入した。WMS 400スロット・マシンは、勝率を操作できる、リール型のスロット・マシンである。WMS 400スロット・マシンは、Timothy J. Durham(Durham特許)に発行された「リール型スロット・マシンの支払いを決定する方法」という表題の、合衆国特許第5,456,465号で開示されたスロット・マシンの実施例である。両当事者は、Durham特許が係争対象のデバイスを説明していると合意したので、係争対象デバイスに関する本法廷の議論は、Durham特許に対するものとなる。

Durham特許は、支払いの計算に関して、Telnaes特許とは異なるアプローチを開示する。Telnaes特許では、リールの停止位置がまず決定され、その後に、停止位置に基づき [*7] 支払いが計算される。Durham特許では、支払いがまず計算され、それから、その支払いに対応する停止位置が選ばれる。Durham、col. 1, lines 40-54。Durham特許で開示されているように、乱数発生器が2つの乱数を選び、それらの数を2つの支払い乗数に写像する。同上、col. 3, lines 9-19。支払い額は、2つの支払い乗数を掛けることによって決定される。同上、col. 3, lines 3-37。それからリールの停止位置が、その支払い額に対応する停止位置のセットを、ランダムに選択することによって決定される。同上、col. 4, lines 1-7。

以下に再掲するDurham特許の図5-8を見ると、乱数発生器は、決まっている範囲の中から最初の数字(R1)を選び、選ばれた数字が最初の支払い乗数(X)に写像される。同上、図5。R1は1から632までの間からランダムに選ばれる。もしR1が1だったら支払い乗数Xは10になる。もしR1が182から632の間だったら、支払い乗数Xは0になる、等々。乱数発生器は次に、2番目の範囲から他の数字(R2)を選び、R2は2番めの支払い乗数(Y)に写像される。同上、図6。実際の [*8] 支払い額(Z)はXにYを掛けることによって決まる。同上、col. 3, lines 3-37。たとえばXが10でYも10だったら、支払い額は100である。あるいはXが10でYが0だったら、実際の支払い額はゼロになる。

いったん支払い額が決まったら、WMS 400スロット・マシンは乱数発生器を使って、その支払い額に相当する停止位置のセットを選択する。同上、col. 4, lines 1-7。たとえば8つの異なる停止位置のセットが支払い額100に対応しているかもしれない。同上、図7。もし支払い額が100だったら、乱数発生器は、1から8までの数字(図7に示されているように、支払い額100の表示は8通りあるので)の中から3番目の数字(R3)を選ぶ。そしてスロット・マシンは、その選ばれた数字に対応する停止位置のセットを表示する。同上、図8。

[原文の図5、6、7および8を参照]

WMS 400スロット・マシンにおいては、XもYも10で支払い額を100にするには、22の方法がある(R1は1、R2は2から23までの間になければならない)。同上、図5および6。さらに、今指摘したように、100の支払いに対応する停止位置のセットは8つある。同上、[*9] 図7および8。図7に見られるように、100の支払いは二重棒3つに相当する。また図8からわかるように、各リールに二重棒のシンボルが2つずつある。これは図8で、「1」がリールの最初の二重棒、「2」がリールの二番目の二重棒だからである。つまり、各リールの停止位置1と停止位置2が二重棒のシンボルを表示する。つまり二重棒の組合せは3つのリールでは8通りである。したがって、乱数生成器の3回目の作動では、1から8までの数(R3)が選ばれる。たとえばR3が1だったら、メモリー場所Aに記憶された停止位置のセット、(1、1、1)が表示される。もしR3が2だったら、メモリー場所Bの停止位置のセット、(1、1、2)が表示される、等々。同上、図8。

III

1994年5月5日、IGTはWMSに、WMS 400スロット・マシンはTelnaes特許を侵害しているとのIGTの考えを示した停止要求書簡を送った。WMSは1994年5月17日に、地方裁判所に、WMS 400スロット・マシンはTelnaes特許を侵害しておらず、Telnaes特許は無効であるとの確認判決を求める訴訟を起こすことによって対応した。IGTはWMSに対して、[*10] 故意の侵害の反訴を行った。

地方裁判所は、審理を責任の段階と損害賠償の段階に分離した。責任に関する3日間の非陪審審理の後、裁判所は、Telnaes特許は無効ではなく、WMSは故意に特許を侵害したと判断した。最初、裁判所は機械1台当り50ドルという妥当な実施料に基づく損害賠償額を認定した。しかし後にその認定を取り消し、IGTに、逸失利益と妥当な実施料の組合せに基づく損害賠償を認定した。故意侵害に対する裁判所の最終的な損害賠償額は3倍にされ、3000万ドルを越えるに至った。さらに裁判所は、WMSに、Telnaes特許の侵害を恒久的に禁じた。

WMSは審理において、Telnaes特許は自明性のために無効であるとの立場を裏付けるために、3つの特許を提示した。審理後WMSは、Telnaes特許の出願が登録される数年前に販売された、Merit Sweet Shawneeという、特許のないスロット・マシンを発見した。Merit Sweet Shawneeは、クレームされた発明に類似した態様で動作するとWMSは主張した。1997年3月14日、WMSはこの新しく発見された従来技術を理由として、Fed. R. Cir. P. 59に基づく再審理の申立てをした。地方裁判所はこの新証拠の開示 [*11] を認め、申立てを認めるか否か、および申立ての内容についての「混合」審理を行った。2日間の司法手続きの後、裁判所は再審理の申立てを却下した。その理由は、WMSはMerit Sweet Shawneeの開示において注意深くなく、また、この新証拠は訴訟の結論を変えないだろうというものであった。

WMSは責任についての判決、認定された損害賠償額および再審を拒絶した命令を上訴する。本法廷は28 U.S.C. §1295 (a) (1)(1994)に基づき裁判権をもつ。

議論

I

本法廷は侵害の問題から始める。侵害に関する決定は2段階の分析が必要である。第一に、本法廷は争点のクレームを解釈しなければならない。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576, 1581-82, 39 U.S.P.Q.2D (BNA) 1573, 1576(連邦巡回区、1996)参照。次に本法廷は、適切に解釈されたクレームが、係争対象装置で読み取れるかを判断しなければならない。同上参照。クレーム解釈は、本法廷が新たに検討する法律問題である。Cybor Corp. v. FAS Techs., Inc., 138 F.3d 1448, 1456, 46 U.S.P.Q.2D (BNA) 1169, 1174(連邦巡回区、1996)(大法廷);Markman v. Westview Instruments, Inc., 52 F.3d 967, 975, 34 U.S.P.Q.2D (BNA) 1321, 1329(連邦巡回区、1995)[*12](大法廷)、維持、517 U.S. 370, 38 U.S.P.Q.2D (BNA) 1461, 134 L. Ed. 2d 577, 116 S. Ct. 1384(1996)参照。適切に解釈されたクレームが、係争対象装置に読み取れるかの判断は、事実問題を提示し、本法廷は非陪審審理の後に、明確な誤りがあるか否か検討する。Charles Greiner & Co. v. Mari-Med Mfg., Inc., 962 F.2d 1031, 1034, 22 U.S.P.Q.2D (BNA) 1526, 1528(連邦巡回区、1992)参照。「認定を支持する証拠があっても、証拠全体を検討する裁判所が、誤りが犯されたとの明確かつ確固とした確信をもてるとき、その認定は明らかに誤っている。」In re Graves,69 F.3d 1147,1151,36 U.S.P.Q.2D (BNA) 1697, 1700(連邦巡回区、1995)United States v. United States Gypsum Co., 333 U.S. 364, 395, 92 L. Ed. 746, 68 S. Ct. 525(1948)を引用)。上訴におけるWMSの最初の主張は、地方裁判所はクレーム解釈において誤りを犯しており、WMS 400スロット・マシンは、適切に解釈されたクレームを侵害していないというものである。

Telnaes特許には10のクレームがあり、そのうちの4つ、1、8、9および10が独立クレームである。地方裁判所は、WMS 400スロット・マシンが、クレーム1、2、4、5、6および8を、[*13] 文言的にも均等論の下でも侵害しており、クレーム9および10を、均等論の下でのみ侵害していると認定した。上訴における両当事者の主張は、クレーム1の侵害問題の判断が、残りのクレームに関する侵害問題をコントロールするという認識を反映している。

クレーム1は以下の通りである。

1.       ゲーム装置であって、

所定の数の放射方向の位置を通して、軸の回りに回転するために取り付けられたリールと、

前記リールの前記軸の回りの回転を開始させる手段と、

前記リールの前記角度方向の回転位置を示すために前記リールに固定された表示と、

前記リールの前記角度方向の位置を表わす複数の数字を割り当て、幾つかの回転位置が複数の数字によって表わされるように、前記複数の数字が放射方向の前記予め決められた数を越える手段と、

前記複数の割り当てられた数字の1つをランダムに選択する手段および

前記選択された数字が表わす角度方向の位置に前記リールを停止させる手段とを含むゲーム装置。

Telnaes特許 col. 5, lines 38-53

クレーム1の最初の3つの限定が、係争対象装置の [*14] WMS 400スロット・マシンで読み取れることは争われていない。両当事者間の紛争は、35 U.S.C. §112, P 6(1994)に基づきミーンズ・プラス・ファンクション形式で書かれている、最後の3つの限定に関係する。その規定においては、「組合せに対するクレーム内の各要素は、指定された機能を実施するための手段または工程として、それをサポートする構造、材料または行為の説明なしで表現することができ、かかるクレームは、明細書に記されている対応する構造、材料または行為、およびその均等物を対象とすると解釈される」。本法廷は、「ミーンズ・プラス・ファンクション限定が、係争対象装置で[文言的に]読み取れるためには、係争対象装置は、特許明細書に記されている構造、材料または行為と同一の、またはそれと均等の手段を採用していなければならない。係争対象装置はまた、クレームに記されているものと同一の機能を行わなければならない」と述べた。Valmont Indus., Inc. v. Reinke Mfg. Co., 983 F.2d 1039, 1042, 25 U.S.P.Q.2D (BNA) 1451, 1454(連邦巡回区、1993)Pennwalt Corp. v. Durand-Wayland, Inc., 833 F.2d 931, 934, 4 U.S.P.Q.2D (BNA) 1737, 1739(連邦巡回区、1987)(大法廷)(「クレームの限定が文言的に満たされているか否かを判断するには、[*15] 述べられた機能を行うための手段としてその限定が表現されている場合、裁判所は係争対象の構造を開示された構造と比較し、均等な構造、およびその構造に対するクレームされた機能の同一性を見付けなければならない」)(強調原文)も参照。クレームされた機能、およびミーンズ・プラス・ファンクション形式で書かれたクレーム限定のための対応する構造を決定することは、いずれもクレーム解釈の問題である。したがって法律問題であり、本法廷は改めて検討する。Chiuminatta Concrete Concepts, Inc. v.Cardinal Indus., Inc., 145 F.3d 1303, 1308, 46 U.S.P.Q.2D (BNA) 1752, 1755-56(連邦巡回区、1998)を参照。

争われているクレーム1の限定の解釈

クレーム解釈に関する限り、本法廷の任務は、クレーム1の争われている3つの限定それぞれについて、クレームされた機能と対応する構造を特定することである。本法廷は、争点の3つの限定のうち最初のもの、「前記リールの前記角度方向の位置を表わす複数の数字を割り当て、幾つかの回転位置が複数の数字によって表わされるように、前記複数の数字が放射方向の前記予め決められた数を越える手段」から始める。この限定は [*16]、「角度方向の位置」、「放射方向の位置」および「回転位置」という用語を含む。地方裁判所は、これらの各用語が、リールの停止位置に言及していると解釈した。いずれの当事者もその解釈に異議をとなえていない。

「割り当て手段」という限定のクレームされている機能は、「前記リールの前記角度方向の位置を表わす複数の数字を割り当て、幾つかの回転位置が複数の数字によって表わされるように、前記複数の数字が放射方向の前記予め決められた数を越える」。つまり、クレームされた機能は、複数の数字を停止位置に割り当てることである。ただし、数字の数は停止位置の数を越え、幾つかの停止位置は複数の数字によって表わせされる。

「割り当て手段」という限定に対応する開示された構造に関しては、Telnaes特許は、リールの停止位置への数字の割り当てにおける機械の動作を含む、スロット・マシンの動作を制御するマイクロプロセッサーまたはコンピューターを開示しているとWMSとIGTは合意し、地方裁判所もその合意を受け入れた。2 停止位置への数字の割り当てを制御するアルゴリズムは [*17]、Telnaes特許の図6に開示されている。図6は、1) 数字の範囲は停止位置の数を越え、2) 各数字は、一つの停止位置にのみ割り当てられ、3) 各停止位置には少なくとも一つの数字が割り当てられ、4) 少なくとも1つの停止位置には複数の数字が割り当てられるような、複数の数字が停止位置に割り当てられるアルゴリズムを図示している。審査経過は、図6のこの説明を強化する。審査経過によれば、各数字は一つの停止位置に対応しなければならないが、幾つかの数字が同一の停止位置に対応してもよい。Telnaesはオフィス・アクションに答えて、「出願者は、標準的なメカニズムを利用するが、勝率は実質的に無限に変えられる機械を開示した。唯一の指針は、仮想メモリーの各シンボル表示に対して一つのシンボルがなければならないが、リールの各シンボルに対しては、仮想メモリーに多数の位置が存在してもよいということである」と述べた。

注2 本法廷はTelnaes特許の中に、「割り当てる手段」限定をマイクロプロセッサーまたはコンピューターに限定するものを何も見出ださなかったが、両当事者は地方裁判所が採用したクレーム解釈に合意しており、いずれの当事者も上訴でその解釈について争っていないので、本法廷は、両当事者が提示しなかった争点を自発的に提起することはしない。Seal-Flex, Inc. v. Athletic Track & Court Constr., 172 F.3d 836, 842, 50 U.S.P.Q.2D (BNA) 1225, 1228(連邦巡回区、1999)参照。

[*18]

地方裁判所は、クレーム1の「割り当て手段」という限定を、「[ランダムに選択された]数字と、リールの回転位置との対応を決定するための「表、公式またはアルゴリズム」を対象とする」と解釈した。WMSは、この解釈は広過ぎると主張する。「割り当て手段」という限定は、特許明細書で説明されている対応する構造、材料もしくは行為、またはその均等物によって定義されるべきであり、さらに審理経過によって限定されるべきであると論じる。IGTは、裁判所はクレームを正しく解釈したと答える。

本法廷は、地方裁判所による「割り当て手段」の解釈は広過ぎるというWMSに同意する。Telnaes特許の明細書での説明には、クレームのこの限定をサポートする構造が、まったくと言っていいほど欠けている。地方裁判所はこの開示の欠如を明確に取り上げ、説明された機能を実行するための手段としてこの限定を解釈すべきであることを示した。しかしこの解釈は35 U.S.C. §112の要件とは合致しない。Valmont Indus., 983 F.2d at 1042,25 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1454(112条P 6は [*19] クレームにおいてミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム表現を使うことを認めるが、そのクレームは、明細書で開示されている構造、材料または行為およびその均等物に限定されていなければならないと判断)を参照。

地方裁判所は、クレームされた機能を実行するために明細書で開示された構造は「コンピューターが実行するアルゴリズム」であったと判断した。この認定は両当事者の合意を正確に反映していたが、裁判所は、クレームを明細書で開示されたアルゴリズムに限定しなかったという点で誤りを犯した。アルゴリズムを実行するようにプログラムされたマイクロプロセッサーの構造は、開示されたアルゴリズムによって限定される。アルゴリズムを実行するようにプログラムされた汎用コンピューターまたはマイクロプロセッサーは、「新しい機械となる。汎用コンピューターは、プログラム・ソフトウェアからの命令に基づき特定の機能を行うようにプログラムされた場合、実質的に専用コンピューターになるからである」。In re Alappat,33 F.3d at 1526, 1545, 31 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1545, 1558(連邦巡回区、1994)(大法廷);In re Bernhart, 57 C.C.P.A. 737, 417 F.2d 1395, 1399-1400, 163 U.S.P.Q. (BNA) 611, 615-16(CCPA 1969)(「何らかの自明でない新しい形でプログラムされた場合、[*20]機械はそのプログラムなしの場合と物理的に異なる。そのメモリー要素の配列は異なっている」)を参照。アルゴリズムを実行するソフトウェア・プログラムの命令は、装置内に電気的経路を生み出すことによって、汎用コンピューターを電子的に変える。この電気的経路が、特定のアルゴリズムを実行するための専用コンピューターを生み出す。3

注3 マイクロプロセッサーは、電子的なスイッチとして動作する、互いに接続されたトランジスターを無数に含んでいる。Neil Randall, Dissecting the Heart of Your Computer, PC Magazine、1998年6月9日、at 254-55参照。ソフトウェア・プログラムの命令が、スイッチを開閉させる。同上参照。互いに接続されたスイッチの開閉が、マイクロプロセッサー内に、アルゴリズムを実行し、マイクロプロセッサーに命令が所望の機能を実行させる電気回路を生み出す。

開示された構造が、アルゴリズムを実行するようにプログラムされたコンピューターまたはマイクロプロセッサーであるミーンズ・プラス・ファンクション・クレームにおいては、[*21] 開示された構造は汎用コンピューターではなく、開示されたアルゴリズムを行うようにプログラムされた専用コンピューターである。Alappat, 33 F.3d at 1545, 31 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1558を参照。4 したがって、Telnaes特許のクレーム1の「割り当て手段」限定のために開示された構造は、図6に図示されたアルゴリズムを実行するようにプログラムされたマイクロプロセッサーである。つまり、開示された構造は、1) 数字の範囲は停止位置の数を越え、2) 各数字は、一つの停止位置にのみ割り当てられ、3) 各停止位置には少なくとも一つの数字が割り当てられ、4) 少なくとも1つの停止位置には複数の数字が割り当てられるような、複数の数字を停止位置に割り当てるようにプログラムされたマイクロプロセッサーである。

注4 State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc., 149 F.3d 1368,47 U.S.P.Q.2D (BNA) 1596(連邦巡回区、1998)、裁量上訴棄却、142 L. Ed. 2d 704, 119 S. Ct. 851(1999)においては、特許を受けた発明は一般に、管理者が、財務情報の流れをモニターし記録するのを可能にし、「パートナー・ファンド財務サービス構成」を維持するのに必要なすべての計算を行うシステムを説明した。149 F.3d at 1371, 47 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1598。本法廷は、112条P 6形式で書かれた特許のクレーム1は、「少なくとも、クレームに記されたミーンズ・プラス・ファンクション要素 (a) 〜 (g) に対応する、文書説明で開示された具体的な構造から構成される機械、つまり、パートナーシップとして設定されたポートフォリオの財務サービス構成を管理するデータ処理システム」をクレームしたと指摘した。同上、at 1372, 47 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1600。State Street特許のクレーム1に記されている、ミーンズ・プラス・ファンクション要素に対応する構造は、「CPUを含むパーソナル・コンピューター」(要素 (a))、「データ・ディスク」(要素 (b))、およびさまざまな機能を行うように構成された「算術論理回路」(要素 (c) 〜 (g))。同上、at 1371-72, 47 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1599

[*22]

本法廷は次に、「前記複数の割り当てられた数字の1つをランダムに選択する手段」という、クレーム1の2番目の争点の限定に移る。クレームの表現が明らかにしているように、この限定の役割は「前記複数の割り当てられた数字の1つのランダムな選択」である。つまりクレームされた機能は、今議論された「割り当て手段」限定によって、リールの停止位置に割り当てられた数字のうちの1つを、ランダムに選択することである。明細書で開示された対応する構造は、乱数発生を行うようにプログラムされたマイクロプロセッサーであると地方裁判所は結論付け、両当事者も合意する。乱数発生器は、「割り当て手段」限定によって割り当てられた数字の中から、1つの数字をランダムに選択する。Telnaes特許、col. 3, lines 1-9。前記の注2に記された理由により、本法廷は地方裁判所のクレーム解釈に手を触れない。

本法廷は最後に、「前記選択された数字が表わす角度方向の位置に前記リールを停止させる手段」という、クレーム1の3番目の争点の限定を検討する。5 クレームされた機能は、「ランダムに選択する手段」限定 [*23] によって選択された乱数に対応する停止位置に、リールを停止させることである。開示された構造はブレーキである。これらの点はいずれも、争われていない。

注5 この限定の解釈は実際には、今議論した2つのクレーム限定の解釈に依拠している意味でのみ、争われた。

今見たように、クレーム1の争点の3つの限定の機能は、1) 複数の数字の停止位置に割り当て。ただし数字の数は停止位置の数を越え、少なくとも1つの停止位置は複数の数字によって表わされる。2) 停止位置へ割り当てられた数字の1つのランダムな選択。および、3) 選択された数字に対応する停止位置へのリールの停止である。WMSは選択手段および停止手段の限定に言及して、「1つ」の数字の選択、および「前記選択された数字」が表わす停止位置へのリールの停止は、数字の組合せではなく、1つの数字の割り当ておよび選択に限定されていると主張する。しかし地方裁判所は [*24]、「生成される数字が1つの数字であると限定するものは、クレーム中には何もない」と結論付けた。WMS Gaming,slip op.at 26。この点に関して本法廷はWMSに同意する。「前記 ... 数字のうち1つの選択」の平易な意味は、数字の組合せではなく、1つの数字の選択である。Instituform Techs., Inc. v. Cat Contracting, Inc., 99 F.3d 1098, 1105, 40 U.S.P.Q.2D (BNA) 1602, 1607(連邦巡回区、1996)(「1つのカップ」というクレーム用語は、カップ1つのみの使用を示唆すると判断)を参照。さらに、クレームの最後の限定は、「前記選択された数字(単数形)」に言及している。単数の意味での「数字」へのこの言及は、「前記 ... 数字のうち1つの選択」は1つの数字の選択に限定されるという解釈を補強する。文書説明、図面および審査経過の何ものも、「前記 ... 数字のうち1つの選択」または「前記選択された数字」が、その通常の意味以外の何かを与えられるべきであるとは示唆しない。York Prods., Inc. v. Central Tractor Farm & Family Ctr., 99 F.3d 1568, 1572, 40 U.S.P.Q.2D (BNA) 1619, 1622(連邦巡回区、1996)(「クレーム用語に新しい意味を与えるという明示的な意図なければ、発明者のクレーム用語はその通常の意味をもつ」)を参照。[*25] したがって、クレーム1で使われている「数字」という用語は、数字の組合せではなく、1つの数字に言及しているのであり、クレーム1で説明される機能は、1つの数字を割り当て選択することに限定される。

クレーム1の文言侵害

クレームの解釈を議論したので、次にクレーム1の侵害に移る。まず文言侵害を扱う。「文言侵害を証明するには、特許権者は係争対象装置が、主張されているクレームのすべての限定を含むことを示さなければならない。限定が1つでもないか、クレームされている通りになっていなければ文言侵害はない」。Mas-Hamilton Group v. LaGard, Inc., 156 F.3d 1206, 1211, 48 U.S.P.Q.2D (BNA) 1010, 1014-15(連邦巡回区、1988)(引用省略)。上記のように、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの文言侵害を立証するには、特許権者は、係争対象装置が、特許で開示された構造と同一または均等な構造を採用していること、および係争対象装置が、クレームに記されているものと同一の機能を行うことを立証しなければならない。Valmont Indus., 983 F.2d at 1042, 25 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1454Pennwalt, 833 F.2d at 934, 4 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1739を参照。クレーム1の最初の3つの限定が、係争対象装置であるWMS 400スロット・マシンで満たされていることは [*26]、争われていない。したがって争点は、適切に解釈されたクレーム1の最後の3つの限定がWMS 400スロット・マシンに読み取れることを立証するという責任をIGTが果たしたか否かである。

予備的事項として、WMS 400スロット・マシンは、クレーム1の最後の3つの限定に関しては、Telnaes特許で開示されたものと同一の構造を含んでいない。Telnaes特許で開示されたマイクロプロセッサーはDurham特許で開示されたマイクロプロセッサーとは別のプログラムをもっているので、この2つの構造は同一ではない。別の言葉で言えば、2つの開示された機械は異なる、つまり同一ではない。すでに議論したように、Telnaes特許においては、クレーム1の「割り当て手段」限定に関して開示された構造は、1) 数字の範囲は停止位置の数を越え、2) 各数字は、1つの停止位置にのみ割り当てられ、3) 各停止位置には少なくとも1つの数字が割り当てられ、4) 少なくとも1つの停止位置には複数の数字が割り当てられるように、複数の数字を停止位置に割り当てるようにプログラムされたマイクロプロセッサーである。WMS 400スロット・マシン[*27]は、同一の態様ではプログラムされていない。このことは、この意見の「背景」の章の第I部での、Telnaes特許で開示されたスロット・マシンとWMS 400スロット・マシンの説明によって明らかにされる。2つの機械の構造は同一ではないので、構造の限定に関する限り、文言侵害の問題は、WMS 400スロット・マシンがクレームの、「複数の数字を割り当てる手段」と「前記割り当てられた複数の数字の1つをランダムに選択する手段」という限定に均等な構造をもつか否かに移る。

係争対象装置の構造が、112条P 6のクレームで説明されている構造と均等であるか否かを判断するための適切なテストは、係争対象装置の構造と、明細書で開示された構造との相違が実質的であるか否かである。Chiuminatta, 145 F.3d at 1309, 46 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1756Alpex Computer. v. Nintendo Co., 102 F.3d 1214, 1222, 40 U.S.P.Q.2D (BNA) 1667, 1673(連邦巡回区、1996)を参照。Telnaes特許で説明されている構造は開示されたアルゴリズムによって限定されているので、本法廷における構造上の均等性の分析は、必然的に [*28]、機能タイプの要素を含む、開示されたアルゴリズムを議論することになる。

すでに議論したように、WMS 400スロット・マシンは、2つの乱数(R1とR2)を選択し、それらの数字を2つの支払い乗数(XとY)に写像する。支払い額(Z)はXとYを掛けることによって計算される。第三の乱数(R3)は、支払い額に対応するリールの停止位置のセットに基づき、各リールの停止位置を選択する。つまり係争対象装置は、数字の組合せを各停止位置に割り当てる。

つまり本件では、均等な構造の問題は、WMS 400スロット・マシンのように数字の組合せをリールの停止位置に割り当てる機械が、単一の数字をリールの停止位置に割り当てる機械を説明するTelnaes特許で開示された構造と均等であるか否かという問題になる。

クレーム1の「割り当て手段」限定に関して、地方裁判所は次のように認定した。

当業者は、選択されたアルゴリズムまたはメモリーの制約に合わせるために必要な際に、...[1つの数字を]数字の組合せに置き換えるのは、実質的でない変更だとみなすだろう。したがって少なくとも、[*29] 数字の組合せ、またはランダムに選択された要素のその他のセットは、マイクロプロセッサーが選択する複数の数字と均等である。

WMS Gaming,slip op.at 26。「ランダムに選択する手段」の限定に関する限り地方裁判所は、WMS 400スロット・マシンのように、数字の組合せを選択するために乱数発生器アルゴリズムを数回使用することは、Telnaes特許のような1つの数字の選択と均等であると認定した。その認定に基づき地方裁判所は、WMS 400スロット・マシンは、Telnaes特許のクレーム1の最後の前の2つの限定に関して開示された構造と均等であると判断した。この結論に達する際に地方裁判所は、IGTの専門家Jonathan Fryの証言に明らかに依拠し、数字の組合せのランダムな割り当ておよび選択と、1つの数字の割り当ておよび選択との相違は些細であると証言した。

上訴においてWMSは、開示された構造の均等物は存在せず、地方裁判所は、均等な構造ではなく均等な結果に焦点を当てることによって誤った基準を適用したと主張する。本法廷は、地方裁判所による均等な構造の認定に明確な誤りは見出ださず [*30]、これらの主張を棄却する。

クレームされた発明において、リールの各停止位置には、1つまたは複数の数字が割り当てられる。係争対象装置においては、リールの各停止位置は、数字の1つまたは複数の組合せが割り当てられる。たとえば、支払い額が100で、乱数発生器の3回目の結果が1と4の間(メモリー位置A〜D)であった場合、WMS 400スロット・マシンの最初のリールは二重棒を表示する。Durham特許の図8を参照。つまりR1が1、R2が2と23の間、そしてR3が1と4の間である場合、最初のリールは最初の二重棒を表示する。同上、図5、6および8を参照。したがって、最初のリールの最初の二重棒は、実質的に、[1、2-23、1-4]のセット[R1、R2、R3]から構成される88の数字の組合せが割り当てられる。

WMS 400スロット・マシンにおいては、リールの停止位置へ割り当てられた数字の組合せの大部分は3つの数字を含む。しかし2つの数字しか含まないものもある。すでに議論したように、最初の二重棒に割り当てられた数字の組合せはR1、R2およびR3を含む。しかし支払い額を表示する方法が1つしかない場合、R3の選択は要求されず [*31]、その支払い額を表わす停止位置に割り当てられる数字の組合せは、2つの数字しか含まないかもしれない。たとえば各リールには「7」が1つしかなく、「777」が支払い額1000を表示する唯一の方法である。1000という支払い額は、R1が1(X=10)でR2が1(Y=100)という場合にのみ対応する。Durham特許、図5および6参照。したがって、各リールの「7」という記号は、[1、1]という組合せに割り当てられる。最後に、係争対象装置は、「選択する手段」限定によって要求される2つまたは3つの数字の組合せをランダムに選択する乱数発生器、および、「停止させる手段」の限定によって要求されるブレーキを含んでいる。

Telnaes特許で開示された機械とWMS 400スロット・マシンのいずれにおいても、各リールの停止位置は、単一の停止位置を定める「タグ」を割り当てられる。各「タグ」は、複数の数字から選択された1つの数字によって指定される。Telnaes特許の場合、各「タグ」は、複数の数字から選択された1つの数字によって指定される。係争対象装置の場合、各「タグ」は、複数の数字の組合せから選択された数字の組合せによって指定される。1つの数字によって指定された「タグ」の選択が [*32]、数字の組合せによって指定された「タグ」の選択と構造的に均等であるか否かは、きわどい問題である。Durham特許および、1つの数字の割り当ておよび選択と、数字の組合せの割り当ておよび選択との間の相違は実質的ではないというIGTの専門家Jonathan Fryの証言を問う形で、信頼できる証拠が十分に記録にあるという事実に鑑み、本法廷には、地方裁判所が均等な構造の認定において明確に誤りを犯したと判断する用意はない。

機能の同一性の問題に移ると、クレーム1の争点の3つの限定における機能上の限定は、係争対象装置上には文言的には読み取れない。クレーム1の最後の前の2つの限定は、「割り当て手段」および「選択手段」という限定である。本法廷は、クレーム解釈の問題として、これらの限定の役割はまとめて、数字の割り当ておよび選択であると判断した。WMS 400スロット・マシンは数字ではなく、数字の組合せを割り当て選択するので、Telnaes特許のクレーム1と同一の機能を実行しない。したがって、[*33] WMS 400スロット・マシンは均等な構造をもつが、クレームを文言的には侵害していない。6 したがって、この点に関する地方裁判所の判断は破棄される。

注6 地方裁判所は係争対象装置の第三の乱数(R3)の選択のみに基づき、文言侵害の別の認定をしたと、IGTは主張する。その主張を裏付けるためにIGTは、地方裁判所による、100の支払いに基づく侵害分析を指摘する。本法廷はこの分析を、R3のみの選択がクレーム1を侵害するとの判断とは解釈しない。地裁は分析において、具体的に、乱数1、2、3の割り当て、および乱数1、2、3の選択に言及する。さらにこの分析は、「乱数1と2のために選択された値の下で、乱数3によって」特定された停止位置へのリールの停止に言及する。つまり、IGTが依拠する部分の意見において、地方裁判所はR3のみではなく、Durham特許で開示されたアルゴリズム全体(つまりR1、R2およびR3の選択)の侵害を分析している。

[*34]

均等論の下でのクレーム1の侵害

係争対象装置上で文言的に読み取れないクレームでも、クレームと係争対象装置の相違が実質的でなければ、均等論の下で侵害とされることがある。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1521-22, 35 U.S.P.Q.2D (BNA) 1641, 1648(連邦巡回区、1995)(大法廷)、他の理由で破棄、Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S.17, 41 U.S.P.Q.2D (BNA) 1865, 137 L. Ed. 2d 146, 117 S. Ct. 1040(1997)参照。すでに指摘したように、均等論の下でWMS 400スロット・マシンはTelnaes特許のクレーム1を侵害したと地方裁判所は認定した。7 地方裁判所は、「[Telnaes]特許でクレームされた、より直接的で単純な停止位置の選択の代わりに、WMS Gamingの装置による、多段階プロセスにおける1つではなく、複数の乱数の使用は当業者にとっては実質的ではない相違である」と述べた。WMS Gaming,slip op.at 20。

注7 地方裁判所はクレームを不適切に解釈したが、それでも、均等論の下での侵害判断のための核心的な争点に達した。つまり、数字の組合せの割り当ておよび選択と、1つの数字の割り当ておよび選択との相違が、非実質的か否かである。

[*35]

最近、Chiuminatta Concrete Concepts, Inc. v.Cardinal Indus., Inc.判決において本法廷は、次のように述べた:

§112, P 6も均等論も、単なる見かけの相違または僅かな改良が、侵害から逃れることを阻止することによって、特許権者の権利の実質を保護する。前者では、開示された構造の均等物を機能的クレームの限定の文言範囲に組み入れ、また後者では、クレームの文言範囲を越える均等物を侵害として判断する。両者は、相違の非実質性について類似の分析を適用することによって行う。

145 F.3d at 1310, 46 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1758。そしてChiuminatta判決において本法廷は、「ミーンズ・プラス・ファンクション限定の下での均等な構造の欠如は、均等論に基づく均等性の認定を阻止することがある」と指摘した。同上。本法廷は、侵害として提訴されたが、ミーンズ・プラス・ファンクション限定を文言的には侵害していない異形のもの(variant)が、特許付与された後に開発された技術革新によるものでない限り均等性は認定されず、「特許でクレームされたものに対する、実質的ではない侵害であるとは判断されない [*36] 変更を構成する」と述べた。同上。

今、見たように、WMS 400スロット・マシンがTelnaes特許のクレーム1を文言侵害していないとの本法廷の判断は、係争対象装置に、特許で開示されたものと均等な構造が欠けているという認定に基づくものではない。逆に本法廷は、400スロット・マシンが均等な構造をもつという地方裁判所の認定を維持する。しかし本法廷は、機能の同一性の欠如に基づき、地方裁判所による文言侵害の判断を破棄する。その結果、Chiuminatta判決とは異なり、本訴訟において係争対象装置はそれでも、均等論の下で侵害しているかもしれない。Al-Site Corp. v. VSI Int'l, Inc., 174 F.3d 1308, 1320-21, 50 U.S.P.Q.2D (BNA) 1161, 1167-68(連邦巡回区、1999)(係争対象装置は、35 U.S.C. §112, P 6に基づく文言侵害なしで、均等論の下での侵害であり得る。この法理は、§112, P 6のように機能の同一性は要求せず、実質的に同じ機能のみを要求しているからである)参照。

したがって本法廷に与えられる問題は、WMS 400スロット・マシンとクレームされた発明との間の相違が実質的ではないとの認定において、地方裁判所が明確な誤りを犯したか否かである。WMSは地方裁判所の認定に異議を唱え [*37]、地方裁判所は限定ごとに均等性を分析しなかったと論じる。また係争対象装置は、結果を決めるのに数字を停止位置に割り当てるのではなく、停止位置を選択する前に結果を決めるので、クレームされた発明とは異なる方法で機能すると主張する。

本法廷はWMSの主張を棄却する。本法廷は、クレームされた発明と係争対象装置との間の相違が実質的でないという地方裁判所の認定に、明確な誤りを見出ださない。最初の主張に関しては、地方裁判所の意見を検討すれば、地方裁判所はクレーム1の文言侵害の問題に対処する際に(クレームされた発明の構造と係争対象装置との間の相違の実質性の判断を行い、均等な構造が認定された)、構成要素ごとの分析(element-by-element analysis)を適切に行ったことが明らかになる。WMS Gaming,slip op.at 10-12, 17-19を参照。

係争対象装置は数字を停止位置に割り当てないというWMSの第二の主張も誤っている。WMS 400スロット・マシンは停止位置の選択前に [*38] 支払い額の計算を行うが、クレームされていないこの余分の段階は、装置の基本的性質を変更しない。WMS 400スロット・マシンにおいては、各停止位置は少なくとも1つの数字の組合せに対応しており、乱数発生器を使って複数の数字を順番に選ぶことによって選択される。2つの乱数を選び、支払い額を決める数学的操作を行い、第三の乱数を選ぶことは、各停止位置が数字の組合せによって特定されるという事実を変更しない。したがって係争対象装置は、Telnaes特許のクレーム1で要求されるように、停止位置に数字を割り当てる。

まとめると、本法廷は、地方裁判所によるクレーム1の文言侵害の判断は破棄するが、均等論の下でのそのクレームの侵害判断は維持する。したがって本法廷は、地方裁判所によるクレーム2、4、5、6および8の文言侵害の判断は破棄するが、均等論の下でのそれらクレームの侵害の判断は維持する。本法廷は、地方裁判所による、均等論の下でのクレーム9および10の侵害の判断を維持する。

II

すでに指摘したように、地方裁判所は、WMSは [*39] Telnaes特許を故意に侵害したと判断し、したがって損害賠償額の裁定を3倍にした。地裁は、WMSはTelnaes特許を知っており、その侵害を避けるための注意義務を怠ったと認定した。WMS Gaming,slip op.at 43を参照。地裁はその認定に達する際に、WMSはTelnaes特許に気付いた後に、その技師が「まずTelnaesの発明を使わない、最高支払い額の低さを支払い頻度の高さで補う設計を開発した」。同上、at 21。地裁はさらに、WMSは、そのような設計はTelnaesの機械と競争することはできないと結論付け、Telnaes特許に基づくライセンスを得ようとしたが失敗したと指摘した。同上参照。地裁によれば、「Telnaes特許の仮想リールなしで競争力のあるリール型ゲーム機を設計することに失敗し、Telnaes特許に基づくライセンスも得られなかったWMSは、Telnaes ... 特許に基づくIGTの権利を故意に無視して、権利侵害している設計を進めることを選択した」。同上、at 21-22。

地方裁判所は故意侵害の認定において明確な誤りを犯したと、WMSは主張する。IGTの特許権を無視して行動したのではなく、Telnaes特許を迂回して設計するために善意の努力をしたのであると論じる。[*40] 地方裁判所による故意侵害の認定は明確には誤っていないとIGTは答える。地方裁判所はWMSの従業員の証言を聞きその態度を観察したと指摘し、WMSは明らかにTelnaes特許およびその意味に気付いており、地裁はWMSによる自身の行動の説明を信じなかったのだと論じた。

故意侵害を認定するには、地方裁判所は「状況全体に鑑みて、[WMS]は[Telnaes]特許を無視して行動し、自身がしたことをする権利をもっていると信じる合理的根拠がなかったと、明確かつ説得力のある証拠により認定することを要求される」。Amsted Indus., Inc. v. Buckeye Steel Castings Co., 24 F.3d 178, 181, 30 U.S.P.Q.2D (BNA) 1462, 1464(連邦巡回区、1994)。明らかな誤りに関する検討基準に基づき、本法廷が地方裁判所によるクレーム1の文言侵害の認定を維持するなら、本法廷は、地裁による故意侵害の認定に触れようとはしないだろう。しかし本法廷による文言侵害の否定は、状況を変える。「文言的ではない侵害は、損害賠償の増額を保証するほど責められるべきものではありえないというのは法律上の規則ではないが ...」、故意侵害の有無の判断において「文言侵害の回避は [*41] 考慮すべき事実である」。Hoechst Celanese Corp. v. BP Chems.Ltd., 78 F.3d 1575, 1583, 38 U.S.P.Q.2D (BNA) 1126, 1133(連邦巡回区、1996)。したがって本法廷は、地方裁判所に、文言侵害がないとの認定に鑑みて故意の問題を再検討するように差し戻す。地方裁判所が故意侵害の認定を再検討する際には、特許法は競争相手に、既存の特許を迂回した設計または発明を奨励していることを頭に入れておくべきである。Westvaco Corp. v. International Paper Co., 991 F.2d 735, 745, 26 U.S.P.Q.2D (BNA) 1353, 1361(連邦巡回区、1993)参照;State Indus., Inc. v. A.O.Smith Corp., 751 F.2d 1226, 1235-36, 224 U.S.P.Q. (BNA) 418, 424(連邦巡回区、1985)(既存の特許を迂回する設計は、消費者の利益になる競争を促進すると説明)も参照。

III

本法廷は次に、有効性の問題に移る。Telnaes特許は無効ではないとの判決において、地方裁判所は、争点のクレームは従来技術に鑑みて自明であるとのWMSの主張を却下した。

クレームされた発明は、その発明と従来技術との相違が、「主題全体が [*42]、当業者にとって、発明がなされた時点で自明であった」ならば、特許性はない。35 U.S.C. §103 (a)(1994);Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1, 13-14, 148 U.S.P.Q. (BNA) 459, 465, 15 L. Ed. 2d 545, 86 S. Ct. 684(1966)を参照。発明が自明か否かの最終的な判断は、以下の事項を含む、基礎となる事実調査に基づく法的結論である:(1) 従来技術の範囲と内容、(2) 当分野の通常の技術レベル、(3) クレームされた発明と従来技術との間の相違、および (4) 非自明性の客観的証拠。Graham, 383 U.S.at 17-18, 148 U.S.P.Q. (BNA) at 467Miles Labs., Inc. v. Shandon Inc., 997 F.2d 870, 877, 27 U.S.P.Q.2D (BNA) 1123, 1128(連邦巡回区、1993)参照。自明性の法的結論が根拠とする、基礎となる事実の判断が、明らかな誤りの有無に関して検討される。Kolmes v. World Fibers Corp., 107 F.3d 1534, 1541, 41 U.S.P.Q.2D (BNA) 1829,1833(連邦巡回区、1997)参照。特許は有効であると推定されるので、35 U.S.C. §282(1994)参照、無効を主張する当事者は、明確かつ説得力のある証拠によって無効性を示す [*43] 責任をもつ。Monarch Knitting Mach.Corp. v. Sulzer Morat GmbH, 139 F.3d 877, 881, 45 U.S.P.Q.2D (BNA) 1977, 1981(連邦巡回区、1998)参照。自明性を主張する当事者の責任は、その主張が基づく引用が審査中に審査官によって直接検討されなかった場合に、より容易に果たすことができる。Applied Materials, Inc. v. Advanced Semiconductor Materials Am., Inc., 98 F.3d 1563, 1569, 40 U.S.P.Q.2D (BNA) 1481, 1485(連邦巡回区、1996)参照。

自明性の判断が複数の引用の組合せに依拠している場合、それらを組合せるという示唆または動機がなければならない。In re Rouffet,149 F.3d 1350, 1355, 47 U.S.P.Q.2D (BNA) 1453, 1456(連邦巡回区、1998)参照。組合せの示唆は、引用自体内の明示的または黙示的な教示の中から、あるいはその当業者の通常の知識から、あるいは解決すべき問題の性質から、見付けられるかもしれない。同上、at 1357, 47 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1458参照。「2つの知られた要素を組合せてクレームされた発明の特許性を判断する際、「問題は、[*44] 従来技術全体の中に、組合せることの望ましさ、したがってその自明性を示唆する何かがあるか否か」である。」In re Beattie, 974 F.2d 1309, 1311-12, 24 U.S.P.Q.2D (BNA) 1040, 1042(連邦巡回区、1992)Lindemann Maschinenfabrik GmbH v. American Hoist & Derrick Co., 730 F.2d 1452, 1462, 221 U.S.P.Q. (BNA) 481, 488(連邦巡回区、1984)を引用)。

審理においてWMSは、自明性の主張を裏付けるために3つの従来技術の特許を提示した。1978年6月20日にJames Saxton他に発行された、「娯楽の装置および方法」という表題の合衆国特許第4,095,795号(Saxson特許)、1975年11月11日にHiroshi Nonaka他に発行された、「ランダムに選択された文字間の一致を試みるゲーム装置」という表題の合衆国特許第3,918,716号(Nonaka特許)、および1967年4月6日にAlbert Cohen他に発行された、「改良された電動ゲーム機」という表題のオーストラリア特許第280649号(Cohen特許)である。Saxson特許は審査中に審査官によって検討されたが、Nonaka特許とCohen特許はされていない。

上訴においてWMSは、地方裁判所で行ったものと同じ主張をする。つまり、Cohen特許またはNonaka特許 [*45] と組み合わされると、Saxson特許はクレームされた発明を自明なものにすると主張する。Saxson特許は、数字を停止位置に一様に写像するマイクロプロセッサーの制御に基づくリール型のスロット・マシンを教示しているとWMSは論じる。WMSはさらに、Cohen特許およびNonaka特許は、勝率を減らすために、停止位置への数字の非一様な写像(つまり停止位置の数を越えている複数の数字を停止位置に割り当てる)を教示または示唆していると論じる。これらの引用に基づき、Cohen特許またはNonaka特許の一様でない写像をSaxson特許のリール型スロット・マシンと組合せ、クレームされた発明にたどり着くのは、当業者にとって自明であるとWMSは主張する。地方裁判所による有効性の判決に対するWMSの異議を扱うのに、本法廷はGrahamの調査を順番に検討する。最初は従来技術の範囲と内容である。

Saxson特許は、マイクロプロセッサーで実行されるソフトウェア・プログラムによって制御されるリール型のスロット・マシンを教示していると地方裁判所は認定し、両当事者はそれに同意する。Saxson特許col. 3, lines 7-17、col. 5, lines 9-27。このソフトウェアには、現実の各リールの停止位置を選択する乱数生成アルゴリズムが含まれる。同上、[*46] col. 3, lines 38-42。各リールの場合、乱数発生器の選択対象となる数字の範囲はリールの停止位置の数に等しく、正確に1つの数字が各停止位置に割り当てられる。同上。Saxson特許は、現実のリール、リールを動かし止めるメカニズム、および現実のリールと電子制御回路のインターフェースについて教示する。同上、col. 3, lines 63 - col. 5, lines 8。 Saxson特許はさらに、現実のリールは、シンボル表示装置など電子的表示と置換可能であることも教示する。同上、col. 3, lines 8-10。Saxson特許は、停止位置の数を越える数字の範囲については教示しておらず、勝率を操作するための停止位置のこられの数字への非一様な写像も教示していない。Saxson特許においては、各停止位置は正確に1つの数字を割り当てられ、したがって、数字は停止位置に一様に(つまり1対1で)写像される。

Cohen特許は、既存のゲーム機は「その機能に関して、みな、ハンドルの動きから生じる機械的力に依存している」と説明し、Cohen特許p. 3, lines 18-19、機械的なゲーム機は、「支払いの組合せを得る機会を増すための [*47]」操作を受けていることがわかったと指摘する。同上、p. 3, lines 21-22。そして同特許は次のように述べる。

その機構の作動のために、操作用ハンドルを通じて伝達される機械的な力を利用せず、外部の影響からは独立の真の偶然によって、表示される組合せに到達するゲーム機を提示することがこの発明の目的である。

また、より耐久性があり動作が比較的静かなゲーム機を提示することも、この発明の目的である。

同上、p. 3, line 28 - p. 4, line 4。

上記の目的と合致してCohen特許は、現実のリールを使用しない電気機械式スロット・マシンを教示する。このマシンは各動作の結果を示すのに、シンボル表示装置を利用する。同上、p. 4, lines 5-30。各シンボル表示装置は、3つのウィンドウのうちの1つの上に照らされる、透明なプラスチックのウェーファー要素を使用する。同上。エース、キング、クィーン、ジャック、10および9のトランプのカードを表わす、6つのウェーファー要素が使用される。同上。Cohen特許では、ウィンドウごとに1つ、合計3つの、「ユニセレクター」と呼ばれる電気機械式乱数選択器を使う [*48]。同上、p. 8, lines 21-26。各ユニセレクターには、6つのカードのシンボルに配線されている25の接点がある。同上、図4。各シンボルに配線されている接点の数は一様ではない。つまり幾つかのシンボルは他のシンボルよりも多くの接点に配線されている。同上。スロット・マシンのハンドルが引かれると、ランダムにセットされたタイマーが25の接点を1つずつ停止させるまで、3つのユニセレクターが回転する。同上、p.5, line33-p.6, line6。各ユニセレクターの停止位置/接点が、その位置/接点に電気的につながったウェーファー要素を照らすことによって、カードのシンボルの1つを表示させる。同上、図4。合計3つのシンボルは水平線上に表示される。

Nonaka特許は、ディジタルの電子的スロット・マシンを開示する。結果はリールではなく、3つのシンボル表示装置を使って表示される。同上、col. 1, lines 35-39。要約には、クレームされた発明は、「チップをスロットに入れて動かすのと同様に [*49] プレーヤーがこの装置を動かすと、ランダムに選択された文字が複数の表示箇所に連続的に表示される、ディジタル回路をもつゲーム機」であるとされる。列記されている発明の目的の最初のものは、騒音や可動部の磨耗など、従来技術における機械的ゲーム機の本質的な欠陥がないゲーム機の提供である。Nonaka特許、col. 1, lines 26-32, lines 35-39。

Nonaka特許における各シンボル表示装置は、ウィンドウの後で照らされる、透明なアクリルまたはガラスの表示パネルを使う。同上、col.9, lines1-8。7つの表示パネルが使用され、それぞれが「!」、「*」、「#」、「x」、「y」、「z」および「?」を表わす。同上、図6。Nonaka特許は、各シンボル表示装置1つ、合計3つの電子的乱数発生器を使う。同上、図1。各乱数発生器には、7つの表示パネル/シンボルに配線されている16のカウンター出力を含む。同上、図6。各シンボルに配線される出力の数は一様ではない。同上。ゲームが始まると、3つの乱数発生器それぞれがランダムに出力の1つを選ぶ。同上、col. 2, lines 5-11。これにより、7つの表示シンボルのうちの1つが、その乱数発生器に対応するシンボル表示装置によって照らし出される。同上、col. 3, lines 42-47。

各乱数発生器は発振器、カウンター、[*50] タイマー、およびドライバー回路を含む。ゲームが始まると発振器がクロック信号をカウンターに送り、カウンターが16のカウンター出力を連続的にカウントし始める(カウンターが16に達すると、1に戻ってカウントを続ける)。設定時間の後に電子タイマーが、カウンターへのクロック入力を停止させる。クロックが停止したときにカウンターが達した出力が、ランダムに選択された結果となる。8 カウンターの出力はドライバー回路に接続され、表示装置を動かす。各カウンター出力はドライバー回路の出力端子1つに付随している。カウンター出力は、ドライバー回路の付随する出力端子を起動させることによって、表示シンボルの1つを表示し、その出力に付随するパネルが照らされる。このようにして合計3つのシンボルが水平線上に表示される。同上、col. 1, line 61 - col. 2, lines 11; col. 3, line 13-59。

注8 明示的に議論されていはいないが、回路のランダム性は、タイマーの誤差と比較しての発振器の周波数の高さによるものと思われる。つまり、ゲームごとにタイマーの間隔に僅かな違いがある。発振器の周波数が十分に高ければ、タイマーの間隔中のクロック・パルスの数はほとんどランダムに変化する。クロック・パルスの数がカウンターの出力を決めるので、出力はランダムに変化する。

[*51]

Grahamの調査の2番目に移る。両当事者は、クレームされた発明をTelnaesが考案した時期の、当業者の通常の技術のレベルについて合意した。その合意によれば、合意されたレベルの当業者とは、コンピューター科学または電子工学において、カレッジ・レベルのコースを少なくとも数コース修了しており、ゲーム機の設計、開発の分野で数年間雇用されており、確率理論、乱数およびコンピューター・プログラミングについての幾分かの知識をもつ。

Grahamの第三の調査は、クレームされた発明と従来技術との相違の審査である。Saxon特許が、勝率を下げるための停止位置への数字の非一様な写像を除き、クレームされた発明のすべての側面を教示していることについては、争いはない。つまり自明性の問題は、Cohen特許またはNonaka特許が発明のこの側面を教示しているか否か、およびCohen特許またはNonaka特許をSaxon特許と組合せる動機があるか否かということに還元される。

Cohen特許の教示に関しては、地方裁判所は以下のように認定した:

Cohen特許は回転する現実のリールを、結果を決定するための「ユニセレクター」[*52]、およびその結果を表示するための「ウェーファー」、つまり透明な要素と置き換えた。各ユニセレクターは、25の結果に対応して25の接点をもち、1つのユニセレクターは1つの表示に割り当てられる。したがって、機械的システムと同様に、あるシンボルを表示する最低確率は25分の1である。Cohen特許は、ユニセレクター上の複数の接点を同一のシンボルに対応させることによって、以前の機械的リールやその後のSaxon特許と同様に、幾つかのシンボルが25分の2、25分の3などの確率をもつことを可能にした。

WMS Gaming,slip op.at 35。つまり、地方裁判所は、Cohen特許のユニセレクターおよび表示シンボルは単に、現実のリールをシミュレートしただけだと認定した。

Nonaka特許に関しては、地方裁判所は以下のように認定した:

通常のスロット・マシンの回転する現実のリールは、結果を決定するための「電子的ドライバー回路」、およびその結果を表示するための「ウェーファー」と置き換わった。各ドライバー回路は3つの「表示部分」それぞれに割り当てられる。各シンボルの最低確率は、機械的システムと同様に16分の1である。Nonaka特許は、Saxon特許、Cohen特許あるいは以前の機械的リールと同様に、表示手段での出現数を増すことによって、幾つかのシンボルが16分の2、16分の3などの、[*53] より大きな確率をもつことを可能にした。

WMS Gaming,slip op.at 36。つまり地方裁判所は、Nonaka特許のドライバー回路 注9 および表示シンボルも、現実のリールをシミュレートしていると認定した。

注9 地方裁判所は誤って、乱数発生器をドライバー回路と呼んだ。Nonaka特許の範囲と内容に関する上記の議論からわかるように、実際にはドライバー回路は乱数発生器の構成要素の1つである。

WMSは地方裁判所の認定に異議をとなえる。Telnaes特許と同様に、Cohen特許もNonaka特許も、勝率を下げるという概念を教示していると主張する。Cohen特許もNonaka特許も乱数発生器を使用し、シンボルを表示するために数字を非一様に写像すると、WMSは述べる。「Cohen特許は、6種類の表示をもつ「スロット・マシンのシミュレーション装置」であった。表示の確率は6分の1ではない。そうではなく、[*54] 6種類の表示のうちの1つは、選択確率が25分の1であった」とWMSは主張する。同様に、WMSはNonaka特許を、「16の数字をゲームの7つのシンボルにのみ電子的に割り与える方法」であり、「幾つかのシンボルは複数の数字を割り当てられ、少なくとも1つのシンボルは1つの数字だけが割り当てられる」と説明する。つまりNonaka特許は、「各シンボルに割り当てられる数字の数を変えることによってシンボルの勝つ組合せの実現確率を下げる手段を教示する」とWMSは論じる。

IGTは、Cohen特許とNonaka特許のWMSによる説明に反対する。IGTによれば、Cohen特許はリールもリールの停止位置ももたず、したがって、「Telnaes特許でクレームされたが、リールの停止位置への複数の数字の割り当てという、Saxon特許では欠けているものを教示していない」。同様にIGTは、「Nonaka特許はシンボルの表示をするためにドライバー回路を使っており、数字もリールの停止位置も使っていない」と述べる。つまり、Cohen特許とNonaka特許はシンボルへの数字の写像を教示しており、現実のリールでの複数のシンボルの出現をシミュレートしているだけであると、IGTは主張する。

Cohen特許もNonaka特許も、勝率を下げるための非一様な写像は [*55] 教示しておらず、単に、現実のリールをシミュレートしてシンボルを表示するための数字の非一様な写像(ユニセレクターとドライバー回路の出力)を教示しているだけであると認定した点で、地方裁判所が明らかに誤ったとは、本法廷は考えない。本法廷に提示された記録に基づき、本法廷は、Cohen特許およびNonaka特許が従来のリール型スロット・マシンをシミュレートしているとの地方裁判所の結論を再考する用意はない。すでに見たように、従来の機械的なスロット・マシンの各リールは、複数の停止位置をもち、各停止位置にはシンボルがある。しかしシンボルの種類は通常、停止位置の数よりも少ない。20の停止位置をもつ現実のリールはたとえば、シンボル「7」には1つの停止位置、チェリーのシンボルには6つの停止位置、二重棒には5つの停止位置、三重棒には3つの停止位置、そしてブランク・シンボルには5つの停止位置をもつ。つまり幾つかのシンボルはリール上に複数回登場する。Cohen特許やNonaka特許のように複数の出力のシンボルへの写像は、現実のリールでのこれらのシンボルの複数回の出現をシミュレートする。たとえばNonaka特許の図6の最初の表示では、「!」に写像される出力は1つ、「*」に写像される出力は1つ、[*56]「#」に写像される出力は3つ、「x」に写像される出力は7つ、「y」に写像される出力は1つ、「z」に写像される出力は2つ、そして「?」に写像される出力は1つである。明らかにこの写像は、「!」が1つ、「*」が1つ、「#」が3つ、「x」が7つ、「y」が1つ、「z」が2つ、そして「?」が1つの、16の停止位置をもつリールをシミュレートしていると言うことができる。

Cohen特許およびNonaka特許が、単に標準的な機械的スロット・マシンをシミュレートしているだけであるという地方裁判所の認定を受け入れると、Cohen特許およびNonaka特許を、Telnaes特許がクレームしたように、リールの停止位置の数以上に数字の幅を増すことによって勝率を下げることを教示しているとは読まなかった点で、地裁が明らかに誤ったとは本法廷は考えない。この結論は、Cohen特許およびNonaka特許の記されている目的が、騒音や磨耗という機械的なリールの欠点の克服であるという事実によって強化される。

さらに、Cohen特許およびNonaka特許が、停止位置に数字を非一様に写像することにより、勝率を下げることを教示していたとしても、WMSはCohen特許およびNonaka特許の中に、それらの教示をSaxon特許と組合せる動機 [*57] を示唆するものを何も指摘していない。WMSはSaxon特許の中に、シンボル表示装置を現実のリールと置き換える動機を特定するが、Saxon特許col. 2, lines 41-44、Nonaka特許またはCohen特許における非一様な写像をSaxon特許と組合せる動機は特定しておらず、本法廷もそのような動機を見出せない。

自明性の判断における最後の基礎となる事実問題は、非自明性の客観的証拠、つまり二次的考察である。Graham,383 U.S.at 17-18, 148 U.S.P.Q. (BNA) at 467参照。特許権者が提示した客観的証拠の考察は、自明性の判断の必要な部分である。Rouffet, 149 F.3d at 1355, 47 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1456参照。非自明性の客観的証拠は、従来技術に基づき一応自明と思われるケースの反駁に使うことができるかもしれない。In re Oetiker, 977 F.2d 1443, 1445, 24 U.S.P.Q.2D (BNA) 1443, 1444(連邦巡回区、1992)参照。非自明性の客観的証拠には、商業的成功、長く感じられていたが未解決だった必要性、業界の敬意を示すライセンスが含まれる。Rouffet, 149 F.3d at 1355, 47 U.S.P.Q.2D (BNA) at 1456参照。特許権者は、発明のクレームされた特徴と、非自明性を示すために提示された客観的証拠との間に [*58]、関連が存在することを示す責任をもつ。Cable Elec. Prods, Inc. v. Genmark, Inc., 770 F.2d 1015, 1027, 226 U.S.P.Q. (BNA) 881, 888(連邦巡回区、1985)参照。

商業上の成功の証明としてIGTは、世界で販売されているスロット・マシンの大部分が仮想リール・スロット・マシンであるという証拠を提示した。長く感じられていた必要性を示すために、スロット・マシンからのカジノの収入の割合は、仮想リール・スロット・マシンの導入以来、劇的に増加したという証拠を提出した。さらにIGTは、幾つかの競争相手がTelnaes特許に対する権利のライセンスを得て、実施料として数百万ドルを支払ったという証拠を提示した。IGTの役員であるRaymond Pike氏の証言に基づき、地方裁判所は以下のように認定する:

Telnaes特許の対象である仮想リール・スロット・マシンは米国のUniversal、Summit Technology、Sigma GameおよびBally Gamingによって所有され、あるいは作られている。これらの会社はTelnaes特許に基づく権利をライセンスという手段によって購入したか、あるいはかって所有者であった。Ballyだけで、実施料としてIGTに200万ドル以上を支払った。Ballyはまた、その機械の [*59] 最高支払い額に対する限度に同意した。Telnaes特許に基づくこれらのライセンスは、この特許が自明でないことの強力な兆候である。

WMS Gaming,slip op.at 37-38。

地方裁判所においてと同様に、WMSは非自明性のこれらの証拠に反対して、仮想リール・スロット・マシンは1984年まではネバダ州で違法であり、したがってそのような機械を開発しあるいは販売する動機はなかったと主張する。仮想リール・スロット・マシンが1984年まで合法化されなかったのは、いかなるゲーム機も州の管轄当局が承認するまでは違法であり、そのような装置のゲーム用ライセンスは1984年までは要請されなかったからであるとIGTは反論する。WMSは、仮想リール・スロット・マシンのゲーム用ライセンスの申請がそれ以前になされたという証拠を提示しなかった。IGTが論じるように、ライセンス申請がなかったことは、ライセンスが必要であるために仮想リール・スロット・マシンの考案または販売が抑制された証拠というよりは、他の人がその発明を考案しなかったことを示唆すると思われる。したがって、非自明性の客観的情況証拠に関する地方裁判所の認定に、本法廷は明らかな誤りは見出ださない。

以上のことに基づき本法廷は、Telnaes特許のクレームは、記録にある従来技術に鑑みて自明ではなかったという [*60] 地方裁判所の結論を維持する。以下で議論するように、自明性の判断の目的では、Merit Sweet Shawneeは記録にはない。

IV

本法廷は次に、損害賠償金の問題に移る。IGTは10,753,550ドルの損害賠償金を得る権利があると地方裁判所は判断した。故意侵害に関して3倍とし、判決までの利子を加え、地裁の最終的な裁定は32,845,189ドルになった。すでに議論したように、WMS 400スロット・マシンは争点のクレームを文言侵害していないとの本法廷の判断に鑑みて、差戻し審において地方裁判所は故意侵害の認定を再検討する。WMSが故意に侵害していないと地裁が判断した場合には、もちろん3倍とされなくなるので、損害賠償額は減額されるだろう。本法廷はこの章では、故意侵害の問題に関係しない損害賠償の問題を扱う。

地方裁判所は初め、機械1台当り50ドルという妥当な実施料に基づき損害賠償額を計算した。地裁は、IGTはその金額のみを求めると示唆したと考えたので、そのようにした。しかし現実にはIGTは、少なくとも1台当り50ドルの補償を求めると [*61] 同意していたので、地裁はこの損害賠償額を取り消した。改訂された損害賠償額は、逸失利益および妥当な実施料に基づくものであった。地裁は、IGTのスロット・マシン市場における占有率は少なくとも75%であると認定した。地裁はIGTに、侵害がなければIGTが販売したはずの機械に対して1台当り2413ドルの逸失利益を、またWMSが販売した残りの機械に対して1台当り550ドルの妥当な実施料を認定した。すでに指摘したように、3倍とし判決前の利子を加える前の損害賠償額合計は10,753,550ドルであった。

損害賠償額を計算する地方裁判所の方法論は裁量の対象であり、裁定される損害賠償額の明らかな誤りの有無を審理する事実問題である。SmithKline Diagnostics, Inc. v. Helena Lab.Corp., 926 F.2d 1161, 1164, 17 U.S.P.Q.2D (BNA) 1922, 1925(連邦巡回区、1991)参照。本法廷は、地方裁判所の損害賠償金の計算方法における裁量権の乱用、および裁定された損害賠償額における明らかな誤りは見出だされない。

WMSは、IGTはスロット・マシンを生産も販売もしない持株会社なので、逸失利益を受ける権利はないと主張する。Trell v. Marlee Elecs.Corp., 912 F.2d 1443, 1445, 16 U.S.P.Q.2D (BNA) 1059, 1061(連邦巡回区、1990)参照。[*62] しかしWMSは審理前命令において、IGTはスロット・マシンを生産していると同意した。地方裁判所は、その合意を撤回するとのWMSの申立てを、審理の終わり頃、損害賠償段階で提出されたという理由で却下した。

地方裁判所は、合意を取り下げるとのWMSの申立てを却下した点で、その裁量権を乱用しなかった。IGTはスロット・マシンを生産し販売する子会社を所有している。IGTとその子会社は密接に結付いており連結記録をもっている。WMSはその連結記録にアクセスできた。したがってWMSは、IGTまたはその子会社の記録にアクセスできなかったので偏見をもったとは主張できない。さらに地方裁判所は、同意を撤回するとのWMSの申立てを認めたとしても、IGTに、子会社に加わる機会を与えるように強いられただろう。Kalman v. Berlyn Corp., 914 F.2d 1473, 1480, 16 U.S.P.Q.2D (BNA) 1093, 1098-99(連邦巡回区、1990)(原告に、関連被告を加えるための訴状の修正を認めないのは、被告およびその関連被告が1つとして扱われ、被告が先入観を与えられていないならば、裁量権の乱用であると判断)参照。WMSは、自身に部分的な過失があり [*63] 先入観を与えられていないならば、手続き上の誤りによるその責任を限定できない。本法廷は、損害賠償の裁定における誤りについての、WMSによるその他の主張も検討したが、説得力がないと判断する。

V

本法廷が検討すべき最後の問題は、再審理を拒絶した地方裁判所の命令の、WMSによる上訴である。再審理の申立ての拒絶は特許法に限らない手続き問題なので、本法廷は、本訴訟の地方裁判所からの上訴が通常扱われる巡回区の法律を適用する。Amstar Corp. v. Envirotech Corp., 823 F.2d 1538, 1550, 3 U.S.P.Q.2D (BNA) 1412, 1421(連邦巡回区、1987)を参照。本訴訟では、これは第7巡回区である。

審理の損害賠償段階の約2カ月後、WMSは、Telnaes特許の出願日より前に作られた、クレームされた発明に類似した態様で作動すると主張される、Merit Sweet Shaweeというスロット・マシンを見付けた。この新しく発見された従来技術に基づき、WMSは、Fed. R. Civ. P. 59の下での再審理を求めた。10 WMSは再審理を正当化するためには、特に、明確かつ説得力のある証拠によって、問題の証拠は適切な注意によっては発見できなかったものであり、審理の結果を変える可能性があることを示さなければならない。United States v. McGaughey, 977 F.2d 1067, 1075(第7巡回区、1992)。[*64] 再審理の申立ての許諾または却下の決定は地方裁判所の健全な裁量に基づきなされ、合理的な人なら誰もその決定に同意できない場合にのみ覆される。同上、参照。地方裁判所はWMSの申立てを却下した。本法廷は、この却下が裁量の乱用であったと言うことはできない。

注10 両当事者は、この申立てが適時に提出されたか、そして規則59または規則60 (b) (2) の申立てであると適切にみなされるかを争う。しかし第7巡回区の法律では、新たに発見された証拠に基づき救済を求める根拠の基準は、規則59または規則60 (b) (2) の場合と同一である。Peacock v. Board of Sch. Coomm'rs of Indianapolis, 721 F.2d 210, 213(第7巡回区、1983)参照;11 Charles Alan Wright他, Federal Practice and Procedure §2808(2d ed.1995)も参照。

WMSは、従来技術の発見におけるその弁護士の注意に関して、豊富な証拠を提示した。しかし地方裁判所は、WMSは自社の社員の注意を示さなかったと結論付けた。[*65] Merit Sweet Shaweeを発見したWMSの上級役員であるJohn Nicastroは、審理前も審理中も従来技術を発見しようとはしなかった。いったんNicastro氏が従来技術を探し始めると、彼は1カ月以内に、問題の従来技術を見付けることができた。従来技術は現実の装置であり特許でも出版物でもないので、WMSの社員はWMSの弁護士よりも、従来技術の発見にとって有利な立場にあると思われる。WMSの社員は、特許のないスロット・マシンの特徴や、もはや販売されていないスロット・マシンを見付ける場所について、より深い知識をもっていた。したがって、適切な注意の基準は企業とその弁護士双方に適用されると認定した地方裁判所が、その裁量権を乱用したとは本法廷は考えない。Taylor v. Texgas Corp., 831 F.2d 225, 228(第11巡回区、1987)(企業当事者が審理中に証拠を保有していた場合には、証拠は「新しく発見された」ことにはならないと判断)を参照。WMSが適切な注意を示せなかったことは、本法廷の見解は表明しない問題である新たな証拠の説得力とは無関係に、再審理の却下を維持する十分な根拠になる。

結論

地方裁判所の [*66] 判決は、一部維持、一部破棄、一部取消、そして差し戻す。本法廷は、(1) 文言侵害についての判断を破棄し、(2) 均等論の下での侵害の判断を維持し、(3) 故意侵害であるという判断を取り消し、(4) 引用された参照文献に鑑みてTelnaes特許は無効ではないという判断を維持し、(5) 現実的損害賠償の金額を維持するが、故意侵害に対する3倍に基づく限りでの損害賠償額の裁定を取り消す。再審理を棄却した命令は維持される。本訴訟は、故意侵害の問題に関連するさらなる訴訟手続き、およびその結果に基づく損害賠償金の最終裁定の登録のために、地方裁判所に差し戻される。

一部維持、一部破棄、一部取消、そして差し戻す

費用

各当事者が、自身の訴訟費用を負担する。