ディスプレイ画面の著作物性 ―積算くん事件―
平成12年3月30日大阪地裁 平成10年(ワ)第13577号
著作権侵害差止等請求事件
平成14年9月3日
大日本印刷株式会社
近藤 純子
1.当事者
原 告:株式会社アイシー・企画ソフトウェアハウス(同代表者代表取締役【A】)
被  告:株式会社コムテック(同代表者代表取締役【B】)
    有限会社ジーネット(同代表者代表取締役【C】)
    【C】

2.事実の概要
(1) 原告は、コンピューターのソフトウェアの開発、販売及び賃貸業等を主たる目的とする株式会社であり、意匠内外装総合積算システムを含む各種建築積算システムがパッケージされたウィンドウズ95又は98に対応したアプリケーションソフト「積算くん」(以下「積算くん」という)の著作権者である。
(2)被告株式会社コムテック(以下「被告コムテック」という)は、OA機器の販売を主たる目的とする株式会社であり、従前、積算くんの販売代理店として活動していたことがあった。
(3)被告有限会社ジーネット(以下「被告ジーネット」という)は、意匠内外装積算を行うウィンドウズ95又は98に対応したアプリケーションソフト「WARP」(以下「WARP」という)を作成し、被告コムテックはこれを販売している。
  WARPには、本件訴え提起当時に販売されていたバージョン一・〇三と、本件訴え提起後にバージョンアップされた二・〇〇、二・〇二がある。(以下、各バージョンをまとめていう場合は単に「WARP」という)
(4)積算くんの意匠内外装総合積算システムを作動させるとディスプレイ表示画面(以下、単に「表示画面」という)が表示され、WARPも同様である。
(5)原告は、被告らがWARPとその基本マニュアルを販売し、頒布する行為は、積算くんの表示画面、操作説明書及び出力(印刷)結果に対し原告が有する著作権(複製権及び同一性保持権)を侵害するとして、その行為の差止め及び謝罪広告を求めている。

3.主な争点
A「積算くん」の表示画面は、著作物に該当するか。
B「積算くん」の出力(印刷)結果は、著作物に該当するか。
C 本件請求のうち、「WARP」バージョン一・〇三及び二・〇〇を対象とする販売及び頒布の差止請求は、その必要性があるか。
D「WARP」の表示画面は、著作物たる「積算くん」の表示画面と実質的に同一か。

4.争点に関する当事者の主張及び裁判所の判断
(1)争点A(表示画面の著作物性)について
【原告の主張】
1)積算くんの表示画面は、見る者の審美的感情に訴える要素を有している「文芸、学術、学術又は音楽の範囲に属するもの」である。
2)建築積算業界では、多種多様な積算方法に基づく積算ソフトが存在しており、その着想ないしアイディアの相違に基づいて積算方法が全く異なるため、それぞれのソフトの表示画面は異なっている。従って、積算くんの表示画面には創作性が認められる。
積算くんは、ウィンドウズ95ないしウィンドウズ98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトであり、画面解像度、画面の配列、表示色等に物理的制約があるとはいえない。

【被告らの主張】
1)積算くんは、技術に属する実用品ないし工業製品であり、その表示画面は「文学、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではない。
2)積算くんの表示画面は、建築積算の書式にすぎず、「思想又は感情の表現」ではない。
3)積算くんは、建築積算を目的とするビジネスソフトであり、ビジネスソフトの表示画面は物理的制約、学習や操作容易性による制約があり、より効率の良い操作方法へと向かう一方向性を有しており、「創作性」を有し得ない。
積算くんの表示画面は、建築積算業界で使用されている各種書式等に依拠した初歩的、典型的なものであり、本質的に創作性がなく、原告の主張はアイディアと表現を混同した議論であり失当である。

【裁判所の判断】⇒ 積算くんの表示画面の著作物性を肯定
1)「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とは、その表現内容が、技術的、実用的なものであるとしても、その表現自体が知的、文化的精神活動の所産といえるものであれば要件を充足する。積算くんの表示画面は、著作者の知的精神活動の所産であり、学術的な性質を有する図面、図表の類というべきである。
2)「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められるためには、著作者の精神活動が、個性的に表現されていなければならないが、積算くんの表示画面が書式であることをもって、当該要件を否定することはできない。
ウィンドウズ95又は98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトにおける表示画面の物理的制約は、表現の創作性を検討する観点からは、無制限といってよい程度のものにすぎない。
また、利用者の学習・操作容易性の観点から、著作者の個性が表れない表現が用いられる傾向があるであろうことは理解できるが、積算くんがビジネスソフトであることをもって、直ちに、その表示画面に創作性がないということはできない。

(2)争点B(出力(印刷)結果の著作物性)について
【原告の主張】
積算くんの出力(印刷)結果は、積算くんの開発者である原告の思想を具体的に表現したものであり、著作物である。

【被告らの主張】
積算くんの出力(印刷)結果は、積算くんの表示画面に比べ、より一層書式としての性格が明確かつ強度であり、著作物たり得ない。

【裁判所の判断】⇒ 出力(印刷)結果の著作物性を否定
1)積算くんを用いて積算を行った後の出力(印刷)結果である、部屋別計算表、積算集計表、部屋別集計表及び工種項目別の部屋別集計表の大部分は、積算くんを使用する者が、あるデータを入力して初めて印刷されるものであって、積算くんの著作者は、右各表のような表現を入力できるような機能を積算くんに具備しているにすぎず、いまだ積算くんの著作者の表現行為があったとは認められない。
2)部屋別計算表、積算集計表、部屋別集計表及び工種項目別の部屋別集計表において、積算くんの著作者が表現していると認められるのは、同各表の特定に必要なデータの名称や、各欄のデータ名称であり、著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは認められない。
3)以上より、積算くんを用いて積算を行った後の出力(印刷)結果である、部屋別計算表、積算集計表、部屋別集計表及び工種項目別の部屋別集計表は、著作物とは認められない。

(3)争点C(差止請求の必要性)について
【原告の主張】
被告らは、WARPをバージョンアップしたとして、旧バージョンのWARPに関する差止請求の必要性を否定するが、仮に被告らがWARPをバージョンアップしていたとしても、旧バージョンのWARPを保存しておかずに廃棄するということは考えられないから、なお差止請求が認められる。

【被告らの主張】
  被告ジーネットは、WARPをバージョン一・〇三からバージョン二・〇〇及びバージョン二・〇二にバージョンアップした際、それぞれ旧バージョンのソースプログラムを書き換える方法によりバージョンアップし、旧バージョンが保存された媒体を廃棄しているので、被告らが今後旧バージョンであるWARP一・〇三及び二・〇〇を販売、頒布するおそれはないのであるから、同バージョンの販売、頒布の差止めを求める必要性はない。

【裁判所の判断】⇒ 旧バージョンについては、差止請求の必要性を否定
WARPバージョン一・〇三から同バージョン二・〇〇への変更に当たっては、本件訴訟対策の意味合いもあった可能性は否定できないが、被告らがWARPを旧バージョンに戻したり、バージョンアップした製品と旧バージョンを並行して販売、頒布するとは考え難いので、原告の請求のうち、WARPバージョン一・〇三及び二・〇〇を対象とする請求は、その余の争点について検討するまでもなく理由がない。

(4)争点D(WARPの表示画面と積算くんの表示画面の実質的同一性)について
【原告の主張】
WARPバージョン一・〇三、WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二に関する九項目の各表示画面と、項目名称、配列、略号、記号、選択ボタン、入力項目、登録目録、表示方法等が実質的に同一である。
  
【被告らの主張】
積算くんとWARPの個々の書式は、画面内の各書式の配置・構成・色彩配分など一見して印象を異にし、その縦横比、体裁、項目の表記方法、レイアウト等につき枚挙にいとまがないほどの差異が存在する。
WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二については、積算くんの九項目の表示画面について、基調となる全体的色彩、工種名称の表示位置、並べ方、項目数、用語、項目欄の位置・構成、展開方法等が異なる。

【裁判所の判断】
 ⇒ 積算くんの表示画面と、WARPの表示画面の共通点を抽出し、逐一、検討*。
その結果、両表示画面において表現が共通する部分について、創作性を否定。
*「複製権侵害が認められるためには、少なくとも、両表示画面の共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていなければならない。積算くんの表示画面において、思想又は感情が創作的に表現されているかどうかは、WARPの表示画面から積算くんの創作的表現形式を直接覚知、感得することができるかどうかを検討するに当たって、両表示画面の共通する表現形式を抽出した後に、当該共通する表現について検討することとする。」

1)積算くん画面目録4掲載の表示画面について
(ア) WARPバージョン一・〇三画面目録2掲載の表示画面について
(共通点とその検討)
●「工事名称一覧表」を設ける点
→アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護されない。
●工事名称及びその配列順序
→積算くんの著作者の思想又は感情の創作的な表現ではない。
●画面下半分の項目入力欄及びその配列順序
→積算くんの著作者の思想又は感情の創作的な表現ではない。
(イ) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録2掲載の表示画面について
(共通点とその検討)
●「工事名称一覧表」を設ける点
●工事名称及びその配列順序
●画面下半分の項目入力欄及びその配列順序
→いずれも、?同様、積算くんの著作者の思想又は感情の創作的な表現ではない。

2)積算くん画面目録5?1掲載の表示画面について(
 (ア)WARPバージョン一・〇三画面目録3-1掲載の表示画面について
(共通点とその検討)
● 表示画面に部屋の平面図を設けている点
→アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。
平面図の具体的表現形式も積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
●「巾木高削除」、「床」、「壁」等のチェックボックスを設けている点
→アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。
チェックボックスの表現形式も積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に
表現されていると見ることはできない。
●「隅柱」、「中間柱」及び「独立柱」の区分
→アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。表現形式にも積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
●柱の入力欄、平面図の入力項目
→表現形式に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
●各共通点を一つのまとまりとしてみても、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
(イ) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録2掲載の表示画面について
(共通点とその検討)
●「見付」及び「見込」という入力欄が設けられている点
   →積算くんの著作者の思想感情が創作的に表現されているとは認められない。

3)積算くん画面目録5?2掲載の表示画面について
(ア)WARPバージョン一・〇三画面目録3-2掲載の表示画面について
(共通点とその検討)
●部屋の平面図の掲載、部屋の基準寸法の入力項目、「巾木高削除」及び「壁」のチェックボックス
   →積算くんの著作者の思想感情が創作的に表現されているとは認められない。
●入力する梁の分類
→アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。
●梁の入力欄の表現形式や入力項目
→積算くんの著作者の思想感情が創作的に表現されているとは認められない。
●各共通点を一つのまとまりとしてみても、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
(イ) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3?2掲載の表示画面について
(共通点とその検討)
●「巾」、「成」及び「長さ」を設けている点
   →原告の創作的表現が表れていると見ることができない。

4) 積算くん画面目録5?3掲載の表示画面について
(ア) WARPバージョン一・〇三画面目録3-3掲載の表示画面について
 ●「巾」のチェックボックスが設けられている点
    →積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていない。
 ●凹凸と建具とを同一の画面で登録させていること。
    →アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。
 ●積算くんの該当画面の表現形式
    →積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていない。
 ●各共通点を一つのまとまりとしてみても、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
(イ) WARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録3-3掲載の表示画面について
 (共通点とその検討)
 ●「巾」、及び「成」が表示されている点
    →原告の創作的表現が表れていると見ることができない。

5) 積算くん画面目録3-2掲載の表示画面とWARPバージョン一・〇三画面目録4掲載の表示画面並びにWARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録4掲載の各表示画面について(
 (共通点とその検討)
 ●計算行を数値、演算記号、計算結果等の計算式の各項目を各要素ごとに別個のセルに配置できるように表を構成している点
 →積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていない。

6)積算くん画面目録6及び6-1掲載の表示画面とWARPバージョン一・〇三画面目録5掲載の表示画面並びにWARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録5掲載の各表示画面について
 (共通点とその検討)
 ●部屋の一覧表の表示画面において、部屋を選択する部屋別のセルが縦×横の表形式で配置されている点
 ●部屋別の計算表の一覧表の表示画面において、部屋番号、部屋名称、入力する部位及び部屋数を入力することができる点
 →原告が主張する共通点は、縦横にセルがある単純な表として画面表示されているにすぎないから、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。

7) 積算くん画面目録7掲載の表示画面とWARPバージョン一・〇三画面目録6及び7掲載の表示画面並びにWARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録6及び7掲載の各表示画面について
 (共通点とその検討)
 ●データの保管場所をディレクトリ名やツリー形式で表示する点
    →原告としてはデータの保管場所をディレクトリ名やツリー形式で表示できる機能を付しているに過ぎず、原告が積算くんの表示画面で具体的に表現されるディレクト名やツリー形式を表現しているわけではない。そのような表示は、ウィンドウズ95又は98をオペレーティングシステムとするアプリケーションソフトにおいて一般的に用いられるものである。
     したがって、当該表示に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。

8) 積算くん画面目録8掲載の表示画面とWARPバージョン一・〇三画面目録7掲載の表示画面及びWARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録7掲載の各表示画面について
 (共通点とその検討)
 ●建物の概要を特定するための項目
 →ありふれたものであり、その項目の表現自体も、極めて一般的であって、何ら祖作的な表現ということはできない。
建物概要の表示画面を設けること自体は、アイディアに属することであり、そのようなことは著作権法によって保護されるものではない。

9) 積算くん画面目録9掲載の表示画面とWARPバージョン一・〇三画面目録8掲載の表示画面及びWARPバージョン二・〇〇及び二・〇二画面目録8掲載の各表示画面について
 →共通する表現があるとは認めらない。

10)以上によれば、積算くんの表示画面とWARPの表示画面との間には、表現が共通する部分が存在するものの、異なる表現も多々存在するのであり、しかも、両表示画面において共通する部分に、積算くんの著作者の思想又は感情の創作的な表現があるとみることはできない。


5.その他
(1) WARPの基本入力マニュアルの販売、頒布の差止めを求めた原告の請求
→WARPの基本入力マニュアルの表現が、積算くんの操作説明書の表現形式を直 接覚知、感得するものであるとはいえないし、当該マニュアルに印刷されているWARPの表示画面が積算くんの表示画面に関する複製権侵害と認められない以上理由がない。
(2)著作者人格権に関する原告の請求
 →理由がないことは既に判示したところから明らか。

6.結論
(1) 原告の請求はいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

7.コメント
 本判決は、ソフトウェアのディスプレイ画面について、「学術的な性質を有する図面、図表の類」として著作物性を認定した点が注目される。
積算くんとWARPの各表示画面の共通点を抽出し、その表現部分を逐一検討した上でWARPによる積算くんの表示画面の著作権侵害を否定した本判決の結論は妥当であると考えるが、実務の観点からは、どの程度の創作性を具備すればビジネスソフトウェアのユーザーインターフェースの保護が可能となるのか、今後の更なる判例の集積が待たれる。                                 以 上

このファイルトップへ