1999年7月23日

担当:(株)日本総合研究所 筒井

富士通(株)      櫻本

 

コナミ(株) 対 スペックコンピュータ(株)事件 第二審

目次

1.事件の概要
2.大阪地裁の判旨
3.大阪高裁の判断
コメント
  

  1.事件の概要と大阪地裁の判断の詳細については、コナミ(株) 対 スペックコンピュータ(株) 事件を参照

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1.事件の概要


原告ビデオゲーム用メモリーカードの被告による輸入・販売が、原告が当該ビデオゲームについて有する著作者人格権及び著作権を侵害するかに関する第2審判決。

・原告(控訴人): コナミ株式会社
・被告(被控訴人): スペックコンピュータ株式会社

・第一審: 平成9年11月27日  大阪地方裁判所
・第二審: 平成11年4月27日  大阪高等裁判所


  

1.1 経緯

 原告は、以下のコンピュータビデオゲームソフト(「本件ゲームソフト」)を自己の著作物として公表・販売した。

−平成6年5月27日 ゲーム機「PCエンジン」版「ときめきメモリアル」
−平成7年10月13日 ゲーム機「プレイステーション」版「ときめきメモリアル〜forever with you〜」
−平成8年2月9日 ゲーム機「スーパーファミコン」版「ときめきメモリアル〜伝説の樹の下で〜」

 被告は平成7年12月頃から、メモリーカード「X−TERMINATOR PS版 第2号ときメモスペシャル」(「本件メモリーカード」)を輸入し、日本国内で販売した。

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 1.2 本件ゲームソフトの内容
 
プレイヤーが、架空の高校「きらめき高校」の高校生となって、設定された登場人物から選択した憧れの女生徒から、卒業式の日に愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指す、恋愛シミュレーションゲーム。
プレイヤーは、9種類(体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性、ストレス)のパラメータからなる能力を高校3年間の様々な出来事や行事を通して獲得し、その能力が満たされれば、ハッピーエンディングとなれる。
プレイヤーは、名前(姓・名・あだな)、誕生日、血液型を設定できる。
スタート時のパラメータ値は、低い数値であらかじめ設定されている。その後、プレイヤーは、どのように行動するかのコマンドを選択でき、その選択に応じて、能力のパラメータ数値が上下する。
本件ゲームソフトのプログラムの実行により、モニターには映像が、スピーカには音が出力され、プレイヤーのコマンドに従った場面が展開される。
 

1.3 本件メモリカード
 
本件ゲームソフトで使用される9種類のパラメータが1〜13までのブロック毎にデータとして収められている。プレイヤーは、任意のブロックからデータを選びだし、本件ゲームソフトを実行する際、プレイステーションのハードウェアに読み込んで使用できる。
本件メモリカードでは、プレイヤーの名前が「ときメモ」あだなが「コナミ」に設定されている。
本件メモリカードを使用するとスタート時点から高いパラメータ数値でゲームを進めらたり、スタート時点が卒業間際まで飛び、かつ、高いパラメータ数値で残りのゲームができる。

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2.大阪地裁の判旨

 2.1 判決 

被告は、原告に対し、金14万6000円(複製権侵害に対する損害賠償)及びこれに対する平成8年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを10分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。
この判決は、第1項に限り仮に執行する事ができる。


2.2 争点と判断

 2.2.1 争点1:同一性保持権を侵害するか

<原告の主張>
(1)以下は本件ゲームソフトのストーリーとして重要不可欠な骨格をなす。 

予め設定された低いパラメータ数値からスタートし、高校3年間の間にプレイヤ自身の能力を高めるためのプレイを行なうことで、その数値を上昇させていく。
高校3年間の間に、ハッピーエンディングになるパラメータ数値の水準まで、工夫をこらしてプレイする。


 (2)本件メモリカードの使用により、以下のようにストーリーの骨格部分が改変されるから、映画の著作物としての同一性保持権の侵害である。
  [ブロック1〜11のデータを使用した場合] 

スタート時点で高いパラメータ数値が与えられることで、「予め設定された低いパラメータ数値からスタートし、高校3年間の間にプレイヤー自身の能力を高めるためのプレイを行なうことで、その数値を上昇させていく。」という骨格部分が破壊される。
主人公の名前とあだ名が「ときメモ」「コナミ」と設定されることで、「感情移入度を高める等のために主人公の名前とあだ名をプレイヤーが決定する」という骨格にかかわる部分を改変している。
   [ブロック12,13のデータを使用した場合] 
(ブロック1〜11のデータを使用した場合と同様に)スタート時点で高いパラメータ数値が与えられることで、「予め設定された低いパラメータ数値からスタートし、高校3年間の間にプレイヤー自身の能力を高めるためのプレイを行なうことで、その数値を上昇させていく。」という骨格部分が破壊される。
スタート時点が高校卒業間際に飛ぶことで、「高校3年間の間にハッピーエンディングになるパラメータ数値の水準まで工夫をこらしてプレイすること。」というストーリーの最重要部分を完全に骨抜きにする。
 (3)本件メモリーカードのパッケージの説明箇所の記載からも、ストーリーを改変するものであることがあきらか。
  [記載内容] 
−「5.ひとつ、または複数のゲーム改造データが画面上に表示されます。」
−「7.これで改造されたゲームがプレイできます。」
−「X−TERMINATOR PS版内蔵の改造コードは、」
−「X−TERMINATOR PS版を読み込んで改造ゲームプレーを行ったあと、」
<被告の主張> 
本件メモリーカードに収められているのは単なるデータであって、本件ゲームソフトのプログラムそれ自体を改変するものではない(東京地裁平成7年7月14日判決)。
本件メモリーカードを使用しても正常にゲームが進行できるので、本件メモリーカードは本件ゲームソフトが本来的に許容する範囲内のデータを提供しているだけで、ストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものではない。
<裁判所の判断> 
本件ゲームソフトは、映画の著作物に準ずる著作物にあたる。
本件メモリーカードを使用しても、正常にゲームが進行するため、本件メモリーカードに収められているデータは、本件ゲームソフトの許容する範囲内である。
本件メモリーカードによるパラメータ数値の設定が、本来のゲーム展開にどのように影響するか本件全証拠からは不明でストーリーの改変と認めるに足る証拠はない。
プレイヤーの名前入力は、プレイヤー自身の選択に委ねられている(自ら入力し保存or他人によって保存されたデータ)。従って、本件メモリカードの使用により、プレイヤーの名前がすでに設定されていることにより、ストーリーを改変したとは言えない。
ハッピーエンディング直前のデータの入力は、本件メモリーカード(12,13ブロックのデータ)の使用により、ハッピーエンディング直前のデータが与えられるこ   とをもって、ストーリーを改変しているとは言えない。
結論:本件メモリカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものではない。
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2.2.2 争点2:同一性保持権の侵害があった場合、被告は侵害行為の主体であるか

<原告の主張> 

キャバレーの営業主とバンドの関係(中部観光事件 名古屋高裁昭和35年4月27日判決)のように、法律上の行為者は、その行為に支配権を有し、その行為により経済的利益が帰属するものと判断すべきである。
本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのストーリを改変することに支配権を有し、その製造・販売により経済的利益を受けているのは、本件メモリーカードの製作者である。したがって、同一性保持権を侵害しているのは、本件メモリーカードの製作者である。
被告は、同一性保持権を侵害するものを輸入、販売しているので、著作権法113条(侵害とみなす行為)の責任は免れない。
<被告の主張> 
侵害行為の主体はプレイヤーであり、被告ではない。
被告とプレーヤーの間には、支配従属・指揮監督の関係にないので、キャバレーの営業主とバンドの関係とは異なる。
<裁判所の判断> 
同一性保持権の侵害がないので、判断する必要なし。
  
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2.2.3 争点3:損害賠償の額等

 <原告の主張> 

ストーリーの改変による同一性保持権の侵害に関し、慰謝料として1000万円をくだらない額。
キャラクターのアイコンの複製に関し、使用料相当額(商品価格の7%)として14万6千円をくだらない額。
同一性保持権の侵害に関し、謝罪広告(新聞4社)
 <裁判所の判断> 
被告は、複製権の侵害行為に関し、不法行為として14万6千円を支払う。
同一性保持権の侵害はないので、慰謝料、謝罪広告はなし。

3.大阪高裁の判断

 3.1 判決 

原判決を次のとおり変更する。
1.被控訴人は、控訴人に対し、114万6000円(同一性保持権及び複製権侵害)及びこれに対する平成8年12月27日から完済まで年5分の割合による金員を支払え
2.控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一・ニ審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
この判決の第一項1は仮に執行することができる。
事案の概要

  以下に記載する以外は、原判決記載のとおり

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3.2.1 控訴人(原告)の主張

3.2.1.1 同一性保持権の侵害 

同一性保持権の侵害の有無は、表現形式の同一性ではなく、より広い表現内容の同一性で判断すべきで、「表現形式上の本質的特徴部分に関する改変」である必要はない。一字一句の訂正も改行もしてはならないのが原則である。
同一性保持権の保護対象は著作物の表現内容全部及びその題名であり、「表現形式上の本質的特徴部分」に限定するものでないことは明らかである。


3.2.1.2 本件ゲームソフトの著作物性 

本件ゲームソフトは著作権法10条の例示のいずれにも含まれない新たなジャンルの著作物、いわば「ゲームソフト著作物」とでも言うべき性格の著作物であり、「映画著作物」にゲームソフト固有の内容、(イ)「ゲームバランス」と(ロ)「インタラクティブ性」の二つをプラスしたものである(原審で本件ゲームソフトを「映画の著作物」と主張したものを変更)。
  従って、本件ゲームソフトの内容は、小説や映画や音楽のように予め一義的に固定されておらず、その展開の仕方に一定の幅があるため、そこに加えられた一見改変と見える行為が果たしてゲームソフト著作物の内容をなす「ゲーム展開の一定の幅」を逸脱したものか、その幅の範囲内に過ぎないものかを吟味しなければならない。
  
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3.2.1.3 本件における改変の具体的な内容

  【本件メモリーカードの1〜11】

   本件メモリーカード1〜11に収められているデータにより、本件ゲームソフト著作物の「主人公の人物設定に関する改変」「ゲームバランスに関する改変」「個々の出来事に関する改変」が認められる。
 
(1)主人公の人物設定に関する改変
九つのパラメータ数値の組み合わせは、主人公の人物の特徴を示す設定として機能しており、これを変更することは本件ゲームソフトの人物設定を改変するものである。
本件ゲーム制作者が苦労して決定した主人公の個性の設定を無意味にするような重大な改変に該当する。
(2)「ゲームバランス」というゲームソフトに固有の「ストーリー」の要素の改変
本件ゲームソフトには元々次の二つのゲームバランスが存在する
1.表パラメータ(主人公の内面を示す9のパラメータ)の値をまんべんなく上昇させるにあたってのゲームバランス(ゲームバランスA)
2.表パラメータと裏パラメータ(主人公が女性徒からどのように思われているかを示す3つの隠しパラメータ)の値を共に上昇させるにあたってのゲームバランス(ゲームバランスB)

本件メモリカードのブロック1〜11により原告が設定したゲームバランスAとBが改変されている。

「ゲームバランス」 

ゲームの進行に関するバランスのことで、ゲームソフトの面白さを決定する鍵とも言うべき核心的な要素である。
ゲームの進行・構成に関する制作者各人の表現上の工夫であり、直接目に見えない制作者の表現上の工夫という意味で、内面的表現形式の一つである。
ゲームの背骨である「ストーリー」の要素の一つであり、ゲームソフト固有の「ストーリー」の中核的な要素である。
→ 本件メモリカードによって「ストーリー」が改変された。
(3)個々の出来事に関する改変
主人公の人物設定に関する改変による「目で見て確かめられる改変」として「女生徒との最初の出会いの時期」の改変があげられる。

  【本件メモリーカードのブロック12,13】
  本件メモリーカードのブロック12,13に収められているデータにより、本件ゲームソフト著作物の「主人公の人物設定に関する改変」「ストーリーに関する改変」及び「インタラクティブに関する改変」が認められる。
 
(1)主人公の人物設定の改変
九つのパラメータの数値を巡る改変は、前述のとおり本件ゲームソフト著作物の主人公の人物設定を改変するものにほかならない。
(2)ストーリーの削除
本件メモリーカードブロック12,13により、いきなり卒業一週間前に飛んでしまい、ゲーム制作者が設定したゲームの「冒頭から卒業一週間前までのストーリー」を削除されることは著作物の基本的な内容に関する重大な改変にあたる。
映画においていきなりラストシーンから放映することが「ストーリー」に関する重大な改変であるとして同一性保持権の侵害であるのと同様、本件も「ストーリー」に関する同一性保持権の侵害である。
被告は、劇映画のストーリーが完全に固定されているのに対し、シュミレーションゲームは、プレイヤーの主体的な参加、選択が重要な要素になり、そこに多種多様な展開が予定されているとしてゲームソフトの場合はこれを否定するが、これは完全な誤解である。ここで原告が問題にしているのは高校三年間という「ストーリー」の時間のことであり、この時間は完全に固定されている。また、多種多様な展開が予定されているとしても、ゲーム制作者としてはいきなりラスト寸前からゲームが始まるような本件ゲームの面白さを骨抜きにする荒唐無稽な「展開」を予定した覚えは全くない。
  
(3)インタラクティブの削除
本件における「インタラクティブ」
ゲームソフトという著作物の鑑賞の仕方において、
・プレイヤーが選択しない限り、ゲームは前に進行しないこと、
・プレイヤーが選択した内容にしたがってゲームの進行の方向性が決まるということ、
を受けての積極的な参加を指す。著作者の立場から見ると、単にゲームソフトの鑑賞においてプレイヤーの入力行為という「双方向」のみならず、そのような「双方向性」の仕組をもったゲームソフトの内容をも意味する。
  「インタラクティブ」もまたゲームの進行・構成に関する制作者各人の表現上の工夫に他ならず、かつゲームの面白さを決定する鍵となる。そこに個々の制作者の個性的表現というものがもっとも発揮される。
  卒業一週間前の時点からゲームがスタートするということは、ゲームソフトの表現上の工夫として設定された本件の「インタラクティブを削除するものに他ならない。
  無断で削除することは、「著作物の内容の改変」にあたり、同一性保持権の侵害となる。

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3.2.2 被告の主張

 3.2.2.1 同一性保持権の侵害との主張について

  以下の理由から是認できない
  

(1) 原告の主張は、シュミレーションゲームの特質(ストーリーの展開が完全に固定されていない)を完全に無視している。
(2) 原告の主張する「予め予定されたゲーム展開の幅」は、どこにも記述されておらず、第三者が客観的に認識不可能であり、著作権による保護になじまない。
(3) 原告の主張は、プログラムそのものではなく、プログラムの実行に関して作成される単なるセーブデータ(単なるパラメータ=数字)にまで著作権性を認めることに他ならない。
3.2.2.2 本件ゲームソフトが映画の著作物であるか

  映画の著作物は以下の三つの要件が必要である。 

(1) 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること
(2) 物に固定されていること
(3) 著作物であること
 「映画の著作物」においてもっとも重要な本質的な創作行為は編集であり、その成果が「物に固定」され、「映画の著作物」としての表現形式上の本質的特徴が明らかになる。
 本件ゲームソフトはシュミレーションゲームであって、どの連続映像が、どのような順番で、どのような組み合わせで表示されるかは、プレイヤーの操作により変化する。
 本件ゲームソフトの場合、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」を用いて創作的になされた表現が「物に固定されている」とはいえない。
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3.3 大阪高裁の判断

 3.3.1 本件ゲームソフトの著作物としての性格

  原告が本件ゲームソフトについて著作者人格権及び著作権を有することは当事者間に争いがない(内容について争いあり)。

 著作権法10条7項の「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む(2条3項)本件ゲームソフトは、再生機器を用いてモニターに各場面に応じて変化する映像を映し出し、登場人物が当該場面に相応しい台詞を述べて一定のストーリーを展開している点で、「映画の著作物」に該当する。

 本件ゲームソフトのプログラムはコンピュータに対する指令を組みあわせたものとして表現したものを含むと認められるから、「プログラムの著作物」にも該当する。

 両者が相関連して「ゲーム映像」とでもいうべき複合的な性格の著作物を形成しているものと認めるのが相当である。

 本件ゲームソフトにおいては、「藤原詩織」やその他の女性等のキャラクターのみならず、主人公の人物設定も能力値によって表現された登場人物の一人として本件著作物の主要な構成要素にあたる。

  

3.3.2「ゲームバランス」「インタラクティブ性」が著作物として保護対象となるか

  「ゲームバランス」はゲームのアイデアであって、制作者として知的にもっとも苦労する場面であっても、直接著作物として保護対象となるとはいい難い。

 著作物として保護されるべき思想又は感情の創作的表現は、工夫された「ゲームバランス」に従って具体的にモニター画面に展開される、本件ゲームソフトに内包された(多数ではあるけれども限定的に設定された)ストーリー(バーチャルな恋愛模様の表現)とその映像にある。
 「インタラクティブ性」とは、シュミレーションゲームに独自の操作方法乃至は操作と反応との関係を抽象的に表した技術的な概念というにとどまり、それ自体をゲーム展開や登場人物に関する制作者の思想又は表現ということは困難である。

 プレイヤーによって作り出され蓄積されるセーブデータは、プログラムと別個独立に区別されて存在する単なる数値ではなく、制作者が初期設定の数値によって表した主人公の人物像(能力値)を変化させ、それに応じたゲーム展開を表現するための密接不可分な要素として構成されている。

 従って、その初期設定は勿論、コマンドの選択に関連付けられた各能力項目の数値の加減は、本件ゲームソフトの本質的構成部分となっているもので、これを改変し無力化することは、それによる表現内容の変容をもたらすものというのが相当であり、本件ゲームソフトの著作物としての同一性保持権を侵害するものと解せられる。

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3.3.3 本件メモリーカードによる改変

  本件メモリーカードに前もって保存してある外部データをゲーム機のRAMに書き込む方法によってのみ、九つのパラメータの殆どを高数値とすることが可能で、プレイヤーの主体的な操作のみでは達成することができない。

 本件メモリーカードを使用すると、プレイヤーの名前とあだ名が既に設定されているため、本件ゲームソフトうが予定しているプレイヤーに対する呼び掛けのインパクトが希薄化され、女性徒とプレイヤーとの対話の直接性が毀損されている。
 

3.3.4 ゲーム展開の変化と本件ゲームソフトの改変

 (1)人物設定の改変とそれによるストーリーの改変
  当初から主人公の能力値が置き換えられることにより、主人公の人物像が改変され、これにより入学当初から本来はありえない女性徒の登場等、ストーリーが改変される。

 (2)「ストーリー」の削除
   改変されるのは、数値が置き換えられた後の展開であって、それ以前のストーリーが削除改変されるものではない。

 (3)「ゲームバランス」「インタラクティブ性」の改変
  「ゲームバランス」や「インタラクティブ性」は、シュミレーションゲームの構想の側面で、それ自体著作物性を有するものではなくその変更自体は著作権侵害ではない。

 (4)被告の主張に対して
  ストーリーの始まりは固定されているということができ、ストーリーの選択に幅があるとはいえ、一定の条件下に一定の範囲内で展開するという限定が設けられている。

  主人公の能力値をありえない高得点に変更すれば、本来の条件を離れた特異なストーリーの展開を示すことになり、その点においてストーリーの改変に当たる。

 予め予定されたゲーム展開の幅が第三者に客観的に認識できなくても、著作権の成立を妨げるものではなく、本件メモリーカードの作成を許容する理由とはならない。

 本件メモリーカードを使用してもプログラムが停止したり暴走したりせず正常にゲームを進行できることも本件ゲームソフトが許容する範囲であることの根拠とはならない。

 本件プログラム中には一定以上の数値を読み込むことを禁止するチェックルーティンは組み込まれていないが、これが同一性保持権侵害の正否を左右するものでもない。

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3.3.5 侵害主体について

 本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権を侵害する行為を行っている者は個々のプレイヤーであるが、本件メモリーカードの制作者はその行為に
 主体的に加功していることは明らかであり、これを意図してその製作をした制作者は、プレイヤーを介し本件著作物の同一性保持権を侵害するものということができる。
 制作者はプレイヤーの本件メモリーカード使用の責任を負うべきものといえ、右改変をするメモリーカードの輸入、販売した被告も著作権法113条1項1号、2号より同一性保
 持権侵害の責任を免れない。

  

3.3.6 原告の損害

 原告の被った損害は、本件メモリーカードの内容、性格、侵害の態様などの事情を勘案すると、100万円と認めるのが相当である。
 名誉回復等の措置として謝罪広告までは必要とは認められない。
 複製権侵害については、原判決中の複製権侵害に関する部分を引用する。

  

コメント

 (1)著作物性に関して

   裁判所は、本件ゲームソフトを『「映画の著作物」と「プログラムの著作物」とが相関連して「ゲーム映像」とでも言うべき複合的な性格の著作物を形成している』という主旨の判断をしている。例えば、ミュージカルは音楽の著作物と舞踏の著作物が合わさったものと言えるし、漫画は、言語の著作物と絵画の著作物の合わさったものと言えるので、複合的な性格の著作物という観点はおかしくないが、その場合、映画の著作物として頒布権・上映権は発生するのであろうか。今回の判決では頒布権は争点とはなっていないが、ゲームが「映画の著作物」として頒布権を有するのかという点は、ゲームソフトの中古販売等、他の観点から議論のあるところと思う。ゲームは著作権法10条3項でいう映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているものとして映画の著作物としての性格を有するが、頒布権の立法主旨(映画の配給を前提)とゲームソフトの流通形態の違いや今回の改正により認められた譲渡権の消尽性を考え合わせると、頒布権を認めるべき性格のものとは思えない。(「映画の著作物の性格を有する」=「映画の著作物」ではないのでは?)(先日の中古ソフト問題の東京地裁判決では、シュミレーションゲームソフトについて、「画面上に表示される連続映像が一定の内容及び順序によるものとして予め定めら れているものではないから」映画の著作物に該当しない、と判断している。)  

(2)同一性保持権の侵害について 

a)   裁判所は、各パラメータの設定・変動によりゲームの進行が変化していく点を「(原告の言う)ゲームバランス」ととらえ、「ゲームバランス」はゲームの設計/アイデアであり、著作権の保護対象ではないとし、「ゲームバランス」にしたがって具体的にモニター画面に展開されるストーリーと映像を著作権で保護すべき表現であるとしている。
  その上で、パラメータ値を書きかえることで、そのストーリや展開される映像を改変させることを同一性保持権の侵害と認定した点は同意できる。(蛇足:当初は、「推理小説を結末から読むのと同じでは?」と考えたが、パラメータ値の変更により、単に最後に飛ぶだけでなく、想定していないストーリーがでてくる(ex.最初に出会う女の子の人数)ことから、同一に考えるべきではないと思い直した。)
b)   被告はなぜ、同一性保持権のみを主張し翻案権は主張しなかったのか疑問である。ストーリーの改変があるなら、翻案行為もあったと認定されるのではないだろうか。
  翻案権では、損害額が実施料相当額という認定になるから、原告は同一性保持権の侵害として請求したのであろうか?
  =>「もし、侵害行為の主体で争いになった場合、プレイヤーが侵害主体と判断されてしまうと、私的使用目的での翻案(30条)として、侵害行為が成り立たない。一方、同一性保持権については、30条の適用がないので、侵害行為が認められるからではないか」との意見がYW
c) Gの討議であがった。
(3)侵害主体は誰か

   大阪高裁は、カードを使用してゲームの同一性保持権を(実際の行為として)侵害しているのは個々のプレーヤーであるが、カード制作者は、その行為に主体的に加担しているので、同一性保持権を侵害していると認定している。しかしこの場合、侵害行為者はあくまでもプレイヤーではないか。
  侵害行為の主体は、その行為に支配権を有し、利益を得る者との考えに従うと、カード制作者とプレーヤーの関係は、出版者と印刷業者、あるいはキャバレーの営業主とバンドの関係とは異なるのではないか。出版者と印刷業者の関係では、侵害行為である複製行為を印刷業者が出版者の手足として行なっているが、本件では、カード制作者
 には、ゲームを改変する行為自体の意志(or必要性or利益?)はない。
  裁判所は、著作権法113条1項1号、2号により、被告も同一性保持権侵害の責を免れないとするが、本件メモリーカードそのものは侵害行為により作成された物ではなく、被告の行為は侵害行為により作成された物の輸入、頒布とはいえない。
 その意味では、カード制作者(またはそれを頒布者している被告)は、著作権侵害行為の幇助として、共同不法行為が問われるべきものではないか。もっとも本件の場合、プレイヤーの改変行為は、私的使用の目的として侵害にならない。
 そこで、これらを考えあわせると、本件のカードは、特許法101条のいわゆる間接侵害(侵害行為にのみ使用するもの)、あるいは、コピー防止機能解除装置と同じようなものと言えるのではないか。そうなると、本件のようなケースで権利者を保護する必要があるとすれば、立法による対応が必要となろう。

  <コピー防止解除装置と本件メモリカードの対応関係> 

目的を達成するために間接的に提供されるもの
−>コピー防止機能解除装置/メモリカード
目的達成に必要な行為
−> コピー防止機能を解除する/パラメータ値を使う
最終目的
−> 複製/ゲームのストーリを改変
  
(4)プログラムとアウトプットについて

  本件では、映画の著作物としての側面から、その侵害について判断しているが、この映像をプログラムのアウトプットとして考えた場合、映像を保護することによって、実質的には本来保護されないはずのプログラムの機能が保護されてしまうことになる。
 また、本件ゲームソフトの特性である、インタラクティブ性により、ある程度のストーリー展開の変更は予定されているといえる。ストーリーが固定されている小説などと異なり、人格権的な保護の必要性は薄いのではないか。であるとすれば、プログラムの機能が損なわれない限り、保護する必要はないのではないか。
  

以上

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