原告                      STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY

被告                      SIGNATURE FINANCIAL GROUP, INC.

民事訴訟番号      94-11344-PBS

マサチューセッツ州連邦地方裁判所

訴訟代理人: [*1]原告STATE STREET BANK & TRUST COMPANY側: William L. Patton, James L. Sigel, Sharon Baker Morin。以上、マサチューセッツ州ボストン、Ropes & Gray社。Maurice E. Gauthier。以上、マサチューセッツ州ボストン、Samuels, Gauthier & Stevens社。

被告SIGNATURE FINANCIAL GROUP, INC. 側: Philip G. Koenig, James J. Foster。以上、マサチューセッツ州ボストン、Wolf, Greenfield & Sacks社。Steven L. Friedman。以上、ペンシルヴェニア州フィラデルフィア、Dilworth, Paxson, Kalish & Kauffman社。

反訴人SIGNATURE FINANCIAL GROUP, INC. 側: Philip G. Koenig, James J. Foster。以上、マサチューセッツ州ボストン、Wolf, Greenfield & Sacks社。Steven L. Friedman。以上、ペンシルヴェニア州フィラデルフィア、Dilworth, Paxson, Kalish & Kauffman社。

応訴人SIGNATURE FINANCIAL GROUP, INC. 側: Philip G. Koenig, James J. Foster。以上、マサチューセッツ州ボストン、Wolf, Greenfield & Sacks社。Steven L. Friedman。以上、ペンシルヴェニア州フィラデルフィア、Dilworth, Paxson, Kalish & Kauffman社。

裁判官: 連邦地方裁判所裁判官 PATTI B. SARIS

意見書作成: PATTI B. SARIS

意見: 理由抜き命令

連邦地方裁判所裁判官 PATTI B. SARIS

I.        序文

原告 State Street Bank and Trust Company(「ステートストリート」という)は、被告 Signature Financial Group, Inc.(「シグネチャー」という)を相手取って本件訴訟を提起し、ミューチュアルファンド投資構造を運営するコンピュータ化された会計システム[*2]に関するシグネチャーの特許は、無効であり、法的強制力がないことの宣言的判決を求めた。審理n1の後、裁判所は、部分的な略式判決を求める原告の申立てを認め、被告の反訴を却下した。

脚注

n1 原告は、効力がないこと(訴因I)、侵害がないこと(訴因II)、不公平な行為により法的強制力がないこと(訴因III)、濫用により法的強制力がないこと(訴因IV)ついて宣言的判決を求めた。これに対して、シグネチャーは二件の反訴を提起した。一件目は、ステートストリートは市場占拠率を維持し、かつ原告を中傷することを企図して現在の宣言的判決を求める訴訟を提起することで、不公正かつ欺瞞による商取引を行い、マサチューセッツ州基本法第93条A項に違反していること(訴因I)、二件目は、ステートストリートの特許により保護されているとの申立てのあったデータ処理システムに関して、ステートストリートの代理人が、シグネチャーと拘束力のある実施権許諾契約を口頭で締結したことの宣言的判決(訴因II)である。

II.       背景

とりわけ、ステートストリートおよびシグネチャーは、ミューチュアルファンドの管理者[*3]であるとともに会計代理人として活動する会社である。シグネチャーは、1993年3月9日に発行され、発明者R. Todd Boeszから譲渡された「財務サービスにおけるハブ/スポーク構成に関するデータ処理システム」なる名称の米国特許第5,193,056号(「056号特許」という)を所有している。同特許によれば、クレーム記載の発明は「パートナーシップのポートフォリオとパートナーのファンド(ハブ/スポーク)を維持するために必要な情報の流れおよびデータを管理、記録し、また必要なすべての計算を実行するデータ処理システムおよび方法を提供する」ものである。クレーム記載の発明の範囲および性格を評価するために、まず、データ処理システムのサービスを受ける財務構成物について手短に述べることが必要である。

A.      ハブ/スポークの構成物

当該発明は新たに開発された財務投資の手段で、ステートストリートの言葉を借りれば、「多層化ファンド複合体」であり、これをステートストリート独自の商標名では、「ハブ/スポーク」構成と称する。本質的には、ハブとスポークの組合せは、ミューチュアルファンド(「スポーク」)のファンドを、パートナーシップとして編成された投資ポートフォリオ(「ハブ」)にプールする投資組織である。「この財務サービス[*4]構成は、連邦所得税上、パートナーシップとして取り扱われ、投資ポートフォリオを保有する法的主体、およびパートナーとしてパートナーシップのポートフォリオに投資されるファンドを対象とする」(056号特許第1欄)。このようにしてミューチュアルファンドの資産をプールできるようにすることで、ファンドの運営費用について規模の利益を生み出し、有利な課税結果をもたらすものである。

このような複合財務組織は、独自に設定した運用目標を定めている。パートナーシップとして、ハブのポートフォリオで、スポークのファンドに関するすべての経済的利益および損失を比例配分ベースで評価する。それぞれのスポーク自体が投資手段であり、個人の投資家がファンドを追加または引き揚げるたびに、また相場が動くごとに、絶えず変動するため、パートナーシップのハブのスポークにおける利益は常に変化する。かかる組織の運営には、収益、資本利得、諸費用、投資損失を毎日、配分する必要があり、日々の配分は、ハブのポートフォリオの総資産額におけるスポークのファンドの比率を基準に行われる。

B.      クレーム記載の発明

シグネチャーの発明は、このハブ/スポーク構成を管理するデータ[*5]処理システムに関するものである。発明の開示には、発明の主たる内容に関する詳細なフローチャートと詳しい説明が記載されている。このシステムの運転は、パソコン、および特許のクレームに記載され、発明の主たる内容に詳しく説明される様々な機能の実行を可能にするソフトウエア、ならびにフローチャートで行う。データ記憶装置とはフロッピーディスク等のことであり、ディスプレイとはアウトプット用紙およびコンピュータのスクリーンなどのことである。

特に、当該発明は次のものを表すデータを計算し、記憶する。各スポークのファンドがハブのポートフォリオに占める比率、ポートフォリオの資産に影響を及ぼす日々の活動、スポークの各構成メンバーの利益、損失、諸費用の分配、会計および収税を目的として、年度末の収入、利益、損失、諸費用の総額を決定するために使用されるデータの追跡および更新。

当該発明は、手段プラス機能文言で装置としてクレームされている。六つの特許権のクレームn2のうち、ひとつだけが独立している。

(1)     各パートナーが多数のファンドの一つを構成するパートナーシップとして設立されたポートフォリオを組み合わせた財務サービスを運営するデータ処理システムで、[*6]以下の要素からなる。

(a) データ処理用コンピュータ・プロセッサー、
(b) 記憶媒体にデータを記憶する記憶手段、(c) 記憶媒体を初期化する第一の手段、
(d) ポートフォリオの資産およびそれぞれのファンドに関する前日からのデータ、ならびに各ファンド、資産の増減、および各ファンドがポートフォリオに占める比率の配分に関するデータを処理する第二の手段、(e) ポートフォリオの日々の利益、経費、実現利益、損失の増分に関するデータ処理、およびかかるデータを各ファンドの間で配分する第三の手段、(f) ポートフォリオの日々の未実現利益または損失に関するデータ処理、およびかかるデータを各ファンド間で配分する第四の手段、および (g) ポートフォリオおよび各ファンドの年度末の収入、利益、諸費用、損失、資本利得、資本損失の総額に関するデータを処理する第五の手段。

発明明細書では、以下のような発明の固有の構造、回路設計、その他の装置が開示され、発明はこれらに基づいて作動する。

ポートフォリオ・ファンド会計士は、ソフトウエア50がプログラムされたパソコン44を使用する。ソフトウエア50のひとつの例が、「ハンズ」[*7](Signature Financial Group, Inc. のサービスマーク)コンピュータ・プログラムである。ポートフォリオ・ファンド会計士が使用するパソコン44は、アウトプット用紙46を打ち出して、データ用ディスク52に記憶することができる。尚、データ用ディスクはフロッピーディスクが望ましいが、他の種類の記憶媒体も使用可能である。

056号特許、第6行(数字は発明明細書のフローチャートに記載された数字である)

脚注

n2 手段プラス機能文言が使用されていれば、たとえ独立した装置または構造が特許のクレームに記載されていなくとも、手法(すなわち、方法)ではなく、装置(すなわち、機械)に関する特許のクレームとして解釈する。発明明細書で開示された器具または装置を説明することで、装置に関するクレームとしての構造が与えられる。合衆国法律集第35編第112条第6項参照。Donaldson事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ16巻P.1189, 1192-94(連邦巡回裁判, 1994)(全員法廷)参照。

これまでの特許審査を見れば、特許審査官が、法律で認められた主題であることを理由として、特許性を否定するべきか否かについて、思案をめぐらしたことが明らかだが、他の審査官と協議をした後[*8]、クレームされた本件発明は法的に認められた主題に関するものであると判断した。特許出願書には、もともと装置と方法に関する特許のクレームが記載されていたのである。六件の装置については、特許性があると判断する一方で、六つの方法については(上記に引用したクレームで使用された手段プラス機能文言がないことを除けば、装置に関する特許のクレームと同一の文言に基づき)却下された。勿論、本件特許のクレーム自体では装置としか述べていないものの、特許明細書を通して、「データ処理システムおよび方法」として発明に言及した箇所がいくつもある。056号特許4行目および5行目。記録には、方法のクレームが首尾よく遂行されなかった理由は明示されていない。

シグネチャーは、ステートストリートに対して、ハブとスポークの組合せで構成された多層化ファンドについて、帳簿上の貸借操作を実行するように設計されたデータ処理システムは、056号特許の侵害に当たる可能性が高いとする通知をなしたことを認めている。これに対する回答は12ページに記載する。ステートストリートは、数件の多層化ファンドの複合物の管理者であると共に会計代理人を勤めており、特許が付与されたデータ処理システムについて、シグネチャーと交渉を行ったが、不調に終わったため、このの略式判決[*9]を求める訴えを提起したものである。

III.      分析

ステートストリートは、シグネチャーの発明は最高裁の確立した判例によって定義される、特許性のない数学的アルゴリズムのクレームであるため、シグネチャーの特許は合衆国法律集第35編第101条に基づき法的に認められた該当しないとクレームした。これに対して、シグネチャーは、このデータ処理システムはコンピュータで実行する発明であり、最近の巡回裁判の判例および米国特許・商標局(「PTO」という)が発行した特許審査官向け指針に基づき、特許性を有するとクレームした。

略式裁判の主な争点は、本質的に、汎用(すなわち、パーソナル)コンピュータ上で数学的会計機能を実行し、作動するコンピュータのソフトウエアが、合衆国法律集第35編第101条に基づく特許性を具備しているか否かということである。「数学的ソフトウエアに基づいて作動するコンピュータ関連発明は、市場で連邦特許法による保護を受ける価値があるか否かという問題は、30年前にコンピュータが市場に投入されて以来、理論家、実務家の双方を悩ましてきた問題である。」John A. Burtis著「Alappat事件に見るコンピュータ関連発明の特許適格に関する合理的法制度」(ミネソタ法律時報第79編P.1129, [1995])。当裁判所はこのような泥沼化した法律問題の中へ飛び込まねばならない[*10]。

A.      略式裁判

この事件で提起された問題とは違い、略式裁判の基準はよく知られており、定義もはっきりしている。「略式裁判は、『訴答書、供述録取書、質問書に対する答弁、記録の承認、場合によっては宣誓供述書において、重要な事実に関する真正な争点がなく、かつ訴えを提起した当事者に法律問題で判決を受ける権利がある場合』に適当である」Barbour対Dynamics Research Corp. 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ63巻P.32, 36(第一審巡回控訴裁判, 1995)(連邦民事訴訟規則P. 56 [c])「『略式裁判の申立て』が認められるためには、訴えを提起した当事者は、提起していない側の当事者の立場を支持する証拠がないことを示す必要がある。」Rogers対Fair事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ902巻P.140, 143(第一審巡回控訴裁判, 1990)。同じく、Celotex Corp.対Catrett事件, 合衆国判例集第477巻P.317, 325, 合衆国最高裁判所判例集弁護士版第2次シリーズ第91巻P.265, 合衆国最高裁判所判例集第106巻P.2548(1986)参照。

「訴えを提起した当事者は、略式裁判の申立てについて適切に証拠をそろえれば、立証責任は訴えを提起していない側の当事者に移り、かかる当事者は『単なる訴答のクレームまたは否認で止まることが許されないばかりでなく、裁判の真正な争点を示す特定の事実を提示しなければならない。』」Barbour事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ63巻P.37(Anderson対Liberty Lobby, Inc.事件を引用。[*11]合衆国判例集第477巻P.242,256, 合衆国最高裁判所判例集弁護士版第2次シリーズ第91巻P.202, 合衆国最高裁判所判例集第106巻P.2505[1986])「陪審が訴えを起こしていない当事者に有利な評決を答申するためには、かかる当事者に有利な十分な証拠がなければならない。証拠が単に外見上だけのものであり、重大な証拠を提供していなければ、略式判決が下される。」Rogers事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ902巻P.143(Anderson事件, 合衆国判例集第477巻P.249-250を引用)(Anderson事件の引用文と脚注は割愛)。裁判所は、「訴えを提起していない側の当事者に最も有利なように事実を考察して、かかる当事者に有利な推論をすべて引き出さねばならない」Barbour事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ63巻 P.36。

この点において、略式裁判の基準は、裁判所が「特許の事件でも他の事件と同様に、略式裁判が適当である」場合に、伝統的に適用される基準と異なるものではない。Avia Group Int'l Inc. 対 L. A. Gear Calif. Inc. 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ853 巻 P.1557, 1561(連邦巡回裁判, 1995)。さらに、「特許のクレームが法定主題に関するものであるか否かは、法律問題であり」、このために様々な判断の判決が下されている。Arrthymia Research Technology, Inc. 対 Corazonix Corp.事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ958巻 P.1053, 1055(連邦巡回裁判, 1992  )。

ステートストリートが略式裁判の申立てで勝つためには、シグネチャーの056号特許[*12]の有効性を支持する法的推定を覆さねばならない。合衆国法律集第35編第282条(連邦巡回裁判, 1995)、Checkpoint Systems, Inc.対 United States Int'l Trade Comm'n 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ54巻 P.756, 761(連邦巡回裁判, 1995)(「特許は有効であると推定され、有効性が推定されたことで、進行の責任および説得責任は、無効をクレームする側の当事者にある」)参照。

B.      主題の特許性に関する一般原則

合衆国法律集第35編第111条は、以下のように規定する。

新しく、有益な方法、機械、製品もしくは組成物、またはそれらの改良物を発明または発見した者は、当法規の条件にしたがい特許権を受けることができる。

このように法律では、方法、機械、製品および組成物の四つの種類の主題を定め、これらは、他の特許性(すなわち、合衆国法律集第35編第102-103条に基づく新規性および非自明性)の要件を満たすことを条件として、特許による保護を受けることができると定めている。合衆国法律集第35編第111条は、「この世で人が作ったすべての物を含む」、Diamond 対 Chakrabarty事件, 合衆国判例集第477巻P.303, 309-10, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第2次シリーズ第65巻P.144, 合衆国最高裁判所判例集第100巻P.2204(1980)(1952年の法律再編の立法史を引用)と広く解釈されてきたが、「これは第111条が何の制約[*13]も課さず、すべての発見を含めることを示唆するものではない。」同じく、何かを[第111条に]含めることは他のものを除外することである。」Warmerdam 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1354, 1358(連邦巡回裁判, 1994)。

「アイデア自体に特許性はなく、アイデアを使用した実際に有用な新しい装置に対して特許が与えられるものである。」Rubber-Tip Pencil Co. 対Howard事件, 合衆国判例集第87巻P.498, 507, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第22巻P.410(1874)。長い間に、最高裁は主題の特許性に関する制約について更に説明を加えた。

自然法則、物理的現象および抽象的概念は特許性がないと判断されており、地球で発見された新しい鉱物や新しい野性植物は特許が与えられる主題ではない。同様に、アインシュタインは自らが発見した有名な法則、E=mc〈2〉の特許権を取ることはできなかったし、またニュートンは重力の法則に特許を受けることはできなかった。こうした発見は「自然の表象であり、すべての者が自由に使用でき、個人が排他的に所有するものではない。」

Chakrabary事件, 合衆国判例集第477巻P.309(Funk Bros.Seed Co. 対Kalo Inoculant Co. 事件, 合衆国判例集第333巻P.127, 130, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第92巻P.588(1948), 合衆国最高裁判所判例集第68巻P.440を引用)(引用文は割愛)。したがって、「科学的真理、またはその数学的表現は特許性のある発明ではないが、科学的真理を利用して作り出した新規性のある有用な構成物は特許の対象となる可能性がある。」[*14] Mackay Radio & Telegraph Co. Inc. 対 Radio Corp. of America 事件, 合衆国判例集第306巻P.86, 92-94, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第83巻P.506, 合衆国最高裁判所判例集第59巻P.427(1939)。

こうした原則の理由は単純で、「新しく発見された自然現象、心的方法、抽象的な知的概念は、科学的、技術的事物の基本的手段であるため、特許性はない。」Gottschalk対 Benson 事件, 合衆国判例集第409巻P.63, 67, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第2次シリーズ第34巻P.273, 合衆国最高裁判所判例集第93巻P.253(1972)。「その特定の実際的用途ではなく、科学的原理の利用に特許による独占権を付与することは、『科学的方法および有用な技術を促進するものではなく、むしろこれを阻害するものである』」合衆国憲法第1編第8章(特許・著作権条項)。

このように抽象的アイデアと特許性が認められる主題を区別することは言うに易く、行うに難い。一例を挙げれば、通信手段として使用される電子ローブの容量はそれ自体では特許性はないが、そのアイデアをモールス式電信機の中で特定の方法で表示したものは特許性があると認められた。O'Reilly対 Morse事件, 合衆国判例集第56巻P.62, 117, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第14巻P.601(1853)。同様に、数学の方程式自体に特許性はないが、コンピュータ化された合成ゴムの加硫方法は法律で認められた主題であるとされた。Diamond 対 Diehr事件, 合衆国判例集第450巻P.175, 185-88, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第2次シリーズ第67巻P.155, 合衆国最高裁判所判例集第101巻P.1048 [*15](1981)(特許性のあるコンピュータ化された合成ゴムの加硫方法は、発明者の「方法は広く知られた数学の方程式を使用していることが認められるが、[発明者は]この方程式の占有権を求めているのではなく、クレームに記載された方法の中の他の手段との関係で、他者がこの方程式を使用することを排除することを求めているだけである。」)参照。

コンピュータソフトウエアの特許性について判断を下すことは、コンピュータプログラムが数学的機能(すなわち、データ処理)を実行して、所期の結果を達成するものであるため、非常に困難である。Jur Strobos 著、「蔓延する掴み所のない特許適格を有するソフトウエア」ハーバード法律・技術ジャーナル第6号P.363, 377(1993)(「コンピュータプログラムは、電気スイッチと記憶装置からなる機械が実行する一連の数学的手段に過ぎない」)参照。David L. Stewart著、「ソフトウエアの特許性−−提案された指針と魔法の区分線は姿を消した」と比較。特許・商標局ジャーナル第77号P.681, 684-88(1995)(数学は、抽象的関係を表象した抽象的な言語に過ぎない)ランダムハウス大辞典P.1186(第二版, 1993)(数学を、「大きさ、数字と方式間の関係および記号的に表示された数量間の関係を総合的に処理すること」と定義した)。

C.      最高裁判所の三つの判決

最高裁は三つの判決は、コンピュータソフトウエアを特許で保護する範囲と取り組んだものである。一つ目が、Gottschalk対 Benson 事件, 合衆国判例集第409巻P.63, 65, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第2次シリーズ第34巻P.273, 合衆国最高裁判所判例集第93巻P.253(1972)であり、「信号を二進化十進数方式から純粋な二進数方式に変換する、汎用デジタル式コンピュータのプログラム方法に特許を受けようとした。」Benson事件における数学的手順は「新しい機械を必要とすることなく、長く使用されている既存のコンピュータ」で実行可能である。同判例集67ページ。こうした変換は、裁判所が「一定の数学的問題を解く方法」として定義する、裁判所の言葉を借りれば、アルゴリズムによって実現されたのである。裁判所は以下の理由からクレームに記載された方法は法的に認められないと判断した。

アイデアに特許を付与することはできないことは認める。しかし、実際問題として、この事件で公式に特許が与えられていても、結果は同じであったろう。ここで関係する数学の公式は、デジタル式コンピュータとの関係を除けば、大した実用性がなく……特許を与えれば、もっぱら数学[*17]の公式について占有権を与えたことになり、実際的には、アルゴリズム自体に特許性を認めることになる。

同判例集71ページから72ページ。一連の数字を他の数字に変換するだけのコンピュータプログラムに特許を与えれば、ソフトウエアが依拠する数学の公式を専有させることになるため、裁判所は特許を無効と判断した。

最高裁は、コンピュータソフトウエアのプログラムには特許性がないとするだけで、その判決を終了したわけではなく、事物を「異なる状態または物」に変換または転換させることが、特別な機械を含まない方法に関する発明のクレームに特許性を認めるカギであるとの判断を下した。同判例集256ページ。汎用コンピュータを使用して数学の方程式により数字を処理するだけでは、この要件を充たすには不十分である。

二番目の事件は、Parker対 Flook事件, 合衆国判例集第437巻P.584, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第2次シリーズ第57巻P.451, 合衆国最高裁判所判例集第98巻P.2522(1978)であり、最高裁は、同様に、炭化水素を触媒コンバーターで無害化する「警告レベル」を更新する方法は特許性がないと判断した。Benson事件とは異なり、この事件の特許は、特定の分解後の作業(すなわち、化学反応が不安定になる際に警告レベルを調整すること)に関連する数学の公式またはアルゴリズムを対象としていた。Flook 事件, 合衆国判例集第437巻P.586-87。最高裁の判断は以下のとおりである。

分解後の作業で[*18]、たとえそれ自体いかに一般的で、自明なものであったとしても、特許性のない法則が特許性のある方法に変換されるとの意見は実態を誇張したものである。有能な設計者であれば、分解活動後にある形式を付与してほぼ数学的な公式に変えることはできる。ピタゴラスの定理でも特許が与えられなかったであろうし、また特許出願書に、ピタゴラスの定理が解ければ、現行の測量術に利用することが可能であることを示す最終的手順が記載されていたとしても、特許は部分的にしか認められなかったであろう。

同判例集590ページ。使用分野に制限される場合でも、クレームに記載された発明は単なる数値の計算に過ぎない。関税・特許控訴裁判所(「C.C.P.A.」という)(連邦巡回裁判所の前の機関)の推論を採用すれば、裁判所は「特許のクレームが、本質的に数学の公式を利用した、一種の計算方法に関するものであれば、たとえその解答が特定の目的を持つものであったとしても、クレームに記載された方法は法的に認められない。」同判例集595ページ。(Richman 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ563 巻 P.1026, 1030[C.C.P.A. 1977]を引用)。「非常に率直に言えば、」と裁判所は述べる。「本日の我々の判決は、改良された計算方法に関する特許のクレームは、たとえ特定の使用目的があったとしても、合衆国法律集第35編第101条に基づく特許性はない[*19]ということである。」同判例集594ページ。n18

最高裁の三つの判決の最後は、Diamond 対 Diehr事件, 合衆国判例集第450巻P.175, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第2次シリーズ第67巻P.155, 合衆国最高裁判所判例集第101巻P.1048(1981)であり、最高裁は、コンピュータを使用した合成ゴムの加硫方法は特許性があると判断した。この方法は、鋳型の内部温度の継続的測定に広く知られた数学の公式を組み合わせたものであり、コンピュータが変化しつつある温度を計算して、適当な時点で、かつそれまでの技術では不可能だった正確さで、自動的に加硫工程を打ち切るものである。

最高裁は、Diehr事件でクレームに記載された方法は、単なる抽象的な数値を計算する以上のものであると述べて、Benson事件やFlook事件との違いを認めた。合衆国判例集第450巻P.188(警報レベルを計算する公式は「単なる数字」であるため、特許性はない)。これに対して、クレームに記載された方法は、「事物の変換、この場合、生で未加硫の合成ゴムを異なった状態または物に変換」するものである。同判例集184ページ。こうした物理的変換については、Benson事件で示唆されたものであり、これがDiehr事件では明言されたのである。

勿論、我々は、特許のクレームの中で数学の公式(または科学的方法もしくは[*20]自然現象)に何度も言及している場合、クレームが抽象的な公式に対して特許の保護を求めているのかどうかを審理しなければならない。こうした数学の公式にはわが国の特許法による保護は与えられておらず、特定の技術的環境下での公式の使用に制限しようとしても、この原則は回避することはできない……一方、数学の公式を含んだ特許のクレームがある構造または方法の中で公式を実行または適用したときに、全体として考えれば、特許法が保護を企図する機能を果たしている場合(すなわち、事物を異なる状態または物に変換または転換すること)、こうした特許のクレームは第101条の要件を満たしている。

合衆国判例集第450巻P.191-92(Benson事件およびFlook事件の引用は割愛、カッコは追記)。裁判所は、特許のクレームが特許の保護を受ける適格性に欠けるのは、単に数学的公式のあらゆる使用方法は占有されないためであると説明する。

これに対する反対意見して、Steven判事は、「コンピュータプログラムに特許による保護が与えられるべきか否かという問題は政策的判断が関係するため、最高裁にはこれを論じる権限[*21]が授権されていない」とする立場を取った。同判例集216-17ページ。Steven判事は、このように混乱した分野における自らの懸念は以下の判決が出されれば、払拭されるとクレームする。

(1) プログラムに関係したすべての発明は、コンピュータの利用に完全に依存していない技術に貢献しないかぎり、第101条に基づく特許性のある方法には当たらないとする明確な判決、および (2) 本件事件およびBensen事件、Flook事件で使用された「アルゴリズム」の語は、「コンピュータプログラム」と同義であるとする明確な判決。

合衆国判例集第450巻219ページ。こうした意見は、Bensen事件でDouglas 判事の意見と一致し、Steven判事は、多数意見に賛成して、書面で、議会に対してこの不明瞭な問題を立法によって明確化するように求めた。合衆国判例集第409巻P.72-73(特許制度大統領諮問委員会を引用[1966])。残念ながら、最高裁はDiehr事件以来、この問題を取り扱っておらず、議会も未だにこの分野の法律を定めていない。

批判家たちは、最高裁の三つの判決を、占有と物理的変換を立証することが、コンピュータソフトウエアに特許による保護を与えるための二つの基準であると解釈した。Lawrence Kass 著、「コンピュータソフトウエアの特許性と手段プラス機能の役割」[*22]、「コンピュータソフトウエアに関する特許のクレームの書式」ペース・ロー・リビュー第15号P.787(1995)(「最高裁は、Benson事件の中で、Parker対 Flook事件およびDiamond 対 Diehr事件における純粋な数学的アルゴリズムを生み出すものを排除することを詳しく述べており、これらは総合的に、数学的アルゴリズムを含む方法について、「物理性の要件」と呼びうるものの境界を示したものである」)。Strobos 著、上記書籍387ページ(ソフトウエアの特許性に関するこの二つの要件は……以下、それぞれ「占有」および「変換」の審理と称する……一つ目は、人間が「手と頭」でこうした方程式を占有的に使用することである。二つ目は、特定のクレームに記載された使用方法が、製品と組み合わされた方法であるか、またはインプットデータなどの特定の事物を、アイデアまたは『抽象的な公式の特許による保護』ではなく、異なった状態に変換もしくは転換するものであるか、ということである。)(Diehr事件, 合衆国判例集第450巻P.184, 187, 190)引用。

D.      Freeman-Walter-Abele 分析法とその後の連邦巡回裁判所判例

C.C.P.A.は二つの部分からなる分析方法を考案し、その後継機関である連邦巡回裁判所もこれに従って上記解明方法を実施した。Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1526, 1545(連邦巡回裁判, 1994 [*23])(この二つの部分からなる分析方法は、単にコンピュータが実行する発明に特許性があるか否かを判断する方法というだけではなく、有用な分析手段でもある)参照。三つの事件から寄せ集めた分析方法n3は、Freeman-Walter-Abele 分析法として知られ、連邦巡回裁判所は最近、次のように述べている。

まず、直接、間接を問わず、特許のクレームの中で数学的アルゴリズムに言及しているか否かを判断する。もしそうであれば、次に、クレームに記載された発明が全体として、単なるアルゴリズム以上のものであるか否か、すなわち、物理的要素または方法の手順に適用されない、または限定されない数学的アルゴリズムに関するものであるか否かを判断する。こうした特許のクレームは法的に認められない。但し、数学的アルゴリズムにその他の点で法的に認められた方法の要素がひとつ以上ある場合、第101条の要件は満たしている。

Schrader事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.290, 292(連邦巡回裁判, 1994)(Arrthymia事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ958巻 P.1058 を引用)。この分析法に基づき特許性が認められるためには、発明は「その他の点で、数学的アルゴリズムが物理的方法の手順に適用される法的に認められた方法で構成されている必要がある。」Arrthymia事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ958巻P.1059。

脚注

n3 Abele事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ684巻P.902(C.C.P.A. 1982)、Walter事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ618巻P.758(C.C.P.A. 1978)、Freeman事件、合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ573巻P. 1237(C.C.P.A. 1978)参照。

[*24]

シグネチャーはシグネチャーの特許のクレームは方法ではなく機械に関するものであり、機械は第101条に基づき法的に認められていることは明らかであるとクレームして、この分析法を適用しないように求めている。こうした立場に一致して、連邦巡回裁判所は、最近、コンピュータのソフトウエアを汎用コンピュータで作動させれば物理的装置に変わるとの判断を下した。Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1545(「我々は、プログラムのソフトウエアの指示にしたがって特定の機能を実行するようにプログラムされれば、汎用コンピュータが実質的に特定目的のコンピュータに変わるため、プログラミングにより新しい機械が作られると判断した。」)Lowry事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ32巻 P.1579, 1583(連邦巡回裁判, 1994)(コンピュータがもっと効率的に作動するように設計されたデータ構造は「メモリーに記憶された情報に物理的な秩序を与えている」)。よって、汎用コンピュータで作動するように構築されたコンピュータのソフトウエアは、手段プラス機能特許文言でクレームに記載された場合、特許の解釈としては、新しい機械または装置であると見なされる。

また連邦巡回裁判所は、この問題は確定的なものではないことも認めている。特許のクレームが方法として起草されるか、または装置として作成されるかにかかわらず、連邦巡回裁判所は第101条によって法的に認められた主題に関する数学的アルゴリズム[*25]および物理的変換についての分析法は、「真正な装置」にも適用されるとの判断を下した。Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1542。C.C.P.A.もこの見解を採用している。

識別は第101条に基づく審理の決定的要素ではない。「Benson事件においては、特許のクレームの書式は往々にして書類作成の練習台となるため、発明を装置または方法として、平等に出願している。」 Johnson事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ589巻 P.1070, 1077(C.C.P.A. 1995)「……さらに、クレームに記載されたコンピュータシステムが『語の通常の意味』における『機械』である可能性があるということは……関係がない。」

Maucorps事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ609巻 P.481, 485(C.C.P.A. 1995)。クレームに記載された主題の特許性の分析は、クレームが手段プラス機能文言で作成されているか否かによって決まる。n4

脚注

n4 この点の正しい理解を得るには短い説明で十分である。Benson事件でクレームに記載された方法の一部は、「二進化十進数の形式を二進数に変換する方法は次の手順からなり……(1) 二進化十進数をシフトレジスターの凹部に記憶する……」合衆国判例集第409巻P.73。手段プラス機能文言で書き直せば、同じ特許のクレームは次のようになる。「二進化十進数の信号を二進数に変換する[装置]は以下の物から構成される−−(1) 二進化十進数形式の信号を記憶する[手段]」。発明明細書では必要なデータの記憶手段としてシフトレジスターの凹部について説明している。シグネチャーの意見では、こうした単に意味論上の変更をするだけで、Benson事件におけるアルゴリズムには特許が下付されるとする。この点に関して、最高裁の判決は意味論上の相違点については触れておらず、当裁判所の判断も同じである。

[*26]

最高裁が三度繰り返し、さらに連邦巡回裁判所やC.C.P.A.も同じ意見を述べているように、特許性の最大のカギは数学的アルゴリズムおよび物理的変換にある。Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1540-45(クレームに記載された装置、「ラステライザー」は数学的アルゴリズムを利用して、発振器で波形データのサンプルをスクリーン上に表示するイルミネーションの出力データに変換できるようにするものであり、法的に認められる)、Arrthymia事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ958巻 P.1058-61(クレームに記載された方法および装置は、心拍活動を電子的に測定する改良手段に関するものであり、法的に認められる。また「出力結果は抽象的数字ではなく、患者の心拍活動に関する信号である」)、Iwahashi事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ888巻 P.1370(連邦巡回裁判, 1989)(人間の音声データを変換する装置は法的に認められると判断した)参照。この点について、連邦巡回裁判所が展開した判例は明確ではなく、この分析法n5は依然としてコンピュータソフトウエアの特許性を判定する最良の指針である。

脚注

n5 批評家の中には、この複雑な分野における主題の特許性の範囲について、連邦巡回裁判所が明確な定義付けをしなかったことを嘆く者もいる。Burtis著、上記書籍1152ページ(Alappat事件後、「この法律分野は、最高裁の判例に忠実で、これに矛盾する多くの下級裁判所の意見に不必要に拘束されない新しい取り組みが必要であることを訴えている」と述べる)、Ronald S. Laurie & Joseph K. Siino著「荒れる波に懸ける橋?−−コンピュータが実行する発明に関してPTOが提案した審査の指針、およびソフトウエアの特許性に関する連邦巡回裁判所の見解」415 PLI/Pat 103, 103(1995)([ソフトウエアの特許性を扱った連邦巡回裁判所の事件]は、総合的に法的見解の範囲を表したものであり、特許性に影響を及ぼす個々の事実は認めることができるものの、完全和解の試みをはねつけるものである。」)

[*27]

これにしたがって、Schrader事件において、連邦巡回裁判所は、営業上の問題の解決に使用するリニア式コンピュータプログラムに関して、特許による保護を与えることを拒否した。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻P.292。クレームに記載された発明は、隣接地の面積など、多数の関係品目について、競争入札の方法を指定することで競売を実施し、売り手の販売利益または収益の最大化をはかる新しい方法に関するものである。裁判所は、クレームに記載された発明に対して却下の判断を下した理由として、法的に認められていない数学的アルゴリズムに該当する点を挙げた。裁所は、Arrhythmia事件の「物理的活動または事物を構成または表象する主題の変換または転換を含む」主題と対比して、入札の付け値を記録することは法的に認められていない「データ収集」に当たり、販売収益が最大化されるように付け値を計算することは、単に一連の数字を処理して他の数字に置き換えたに過ぎないと判断した。Schrader事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.293、Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1526 に同調(「どうすればセールスマンが最善の方法で個々の顧客を取り扱うことができるかという問題を解決する営業の方法論は……合衆国法律集第35編第101条の範疇には入らない」と指摘)(Maucorps事件を引用)、合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ888巻 P.835, 840 [*28](連邦巡回裁判, 1989)(回答前のデータ収集段階は、数学的アルゴリズムをクレームする発明に対して特許性を付与するものでない)、Trovato事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ42巻 P.1376, 1380-83(連邦巡回裁判, 1994)(「物理的作業スペース」における二点間の最短距離を表す数値を計算する装置は法的に認められないと判断)と比較、判決の取消し、合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ60巻 P.807(連邦巡回裁判, 1995)(全員法廷)(新しい特許ガイドに鑑み再考)。

E.      PTO審査ガイドライン

最近、発表されたPTOの審査ガイドラインは、ソフトウエアの特許性に関する範例となるものである。1996年2月28日、連邦行政命令集にコンピュータ関連発明に関する審査ガイドライン(「ガイドライン」という)が発表され、1996年3月29日に正式に発効した。連邦行政命令集第61編P.7478(1996)。ガイドラインは、特許審査官が特許の審査に際して特許出願書を検討する上で助けとなるように作られ、最高裁および連邦巡回裁判所の判例に矛盾しないようになっている。同命令集7479ページ。

ガイドラインは連邦行政命令集に掲載されたが、「実体法を構成するものではなく、したがって法的効力はない。」連邦巡回裁判所は所属裁判官全員出席の上で、Trovato事件における調査委員会の決定を取り消す命令を下した[*29]が、最近になってガイドラインは説得力のある典拠となりうると指摘している。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ60巻 P.807。特許審査官の専門性が法的に認められていることを前提として(Interconnect Planning Corp. 対 Feil 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ774巻 P.1132, 1139[連邦巡回裁判, 1985]参照)n6、当裁判所はガイドラインについて手短に検討することが有益であると判断する。

脚注

n6 全員法廷での反対意見として、Nies判事とMichel判事は、Trovato事件は「委員会の意見は提案されたガイドラインを支持したもの」と解釈するべきではないと主張した。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ60巻 P.808。

境界的問題について、PTOは「方法を含む機械または製品」に関する特許のクレームを分析する、次のような枠組みを提示した。

クレームに記載された製品が方法を実行するコンピュータに関するものである場合、発明明細書に照らして、その基礎となる方法を基準に審査するべきである。

ガイドライン, 連邦行政命令集第61編 P.7482。換言すれば、コンピュータのソフトウエアに特許性があるか判断する場合、特に特許のクレームの文言が大ざっぱでクレームに記載された機能をコンピュータ上で実行するすべての手段が特許を構成する場合は、特許のクレーム方法[*30]自体が決定的要素ではない。PTOおよび当裁判所は、特許のクレームの作成方法に拘泥することなく、発明がどのような機能を果たすのか判断を下す必要がある。ソフトウエアによって実行され、基礎となる方法が、法的に認められない場合、同一の発明で特許のクレームに記載をされた機械は法的に認められないのである。同命令集、7482-83ページ。

ガイドラインでは、「単に抽象的アイデアを操作したもの、または単に数学的アルゴリズムを実行するものは、たとえ固有の有用性を内在していたとしても、法的には認められない」と規定する。同命令集、7484ページ。物理的変換の分析法について詳述したガイドラインは以下のように述べる。

クレームに記載された方法の「行為」が数字、抽象的概念、アイデア、またはそれらを表象する信号だけを操作するものであれば、かかる行為は適当な主題には該当しない。したがって、単なる数学的操作だけで構成される方法、すなわち、単に一連の数字を他の数字に置き換えたに過ぎないものは、適当な主題を取り扱ったものではなく、法的に認められた方法を構成しない。[*31]

同命令集(カッコは追記)。ガイドラインは、特許のクレームをした方法が「数学的操作だけで構成される場合は、コンピュータ上で実行されるか否かにかかわらず、法的に認められない」と指摘する。同命令集。但し、方法が、科学技術分野における抽象的アイデアまたは数学的アルゴリズムの実際的用途(すなわち、インプットデータにある種の物理的変換が伴う場合)に限定されるのであれば、法的保護が受けられるとする。同命令集。n7

脚注

n7 ガイドラインに示された例は一般原則を適用する難しさを表しているが、当裁判所としては個々の事例に言及する際に役に立った。

F.       056号特許の分析

以上を念頭においた上で、当裁判所は056号特許を分析して、シグネチャーがクレームした発明、データ処理システムは法的に認められた主題か否かについて判断する。

1.     第一段階:数学的アルゴリズムに関する分析

056号特許が法的に認められた主題であるかを判定する第一段階は、直接、間接を問わず、数学的アルゴリズムについて言及しているか否かを判断することである。これは、Benson事件で最高裁が「特定の数学的問題を解く手順」として述べたものである。合衆国判例集第409巻P.65、Schrader事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.293 、Arrthymia事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ958巻 P.1056 n3参照。この大雑把な定義に基づくと、連続した数学的操作または計算は数学的アルゴリズムを述べたものとなる。Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1542-43 nn. 18-20参照(最高裁の三つの判決を分析し、意見で用語は別の事件でも使用可能であると述べた)と比較。n8

脚注

n8 当裁判所は、Alappat事件で連邦巡回裁判所が数学的アルゴリズムの分析だけに頼らないように注意した点を認識している。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1542-43(数学的アルゴリズムの例外について、「特定の種類の数学的主題で、独立しており、かつ単なる抽象的アイデア以上を……表象するもの」として手短に述べられたものがある)。したがって、当裁判所は、数学的056号特許がアルゴリズムを述べているのかどうかを判断するだけでなく、「特許のクレームが……単に『抽象的アイデア』または『自然現象』の操作以上のものであるか」という点についても審理する。Warmerdam事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1360。数学的アルゴリズムの検査は本件審理の第一段階に過ぎない。

[*33]

056号特許のクレームは、数学の公式について直接言及していないが、データ処理システムについては特に数学的問題を解くことを企図した装置である。勿論、この点について本件の発明明細書は非常に明確である。「この発明は、パートナーシップのポートフォリオおよびパートナーのファンド(ハブ/スポーク)に関する複合的財務サービスを維持するために必要な情報の流れおよびデータを管理、記録し、すべての計算を実行するデータ処理システムおよび方法を提示するものである。」056号特許第4行(カッコは追記)。発明明細書には、多数のデータ処理手順を記載したフローチャートも数多く記載されている。最も重要なのは、特許のクレーム自体が機械の一機能として、データの計算を実行するとしている点である。同明細書、13-15行(特許のクレーム 3-6)。

とりわけ、こうした計算は−−(1) パートナーシップのポートフォリオに投資された二件以上のファンドを毎日、配分すること、(2) ポートフォリオの証券投資額の増加分および各ファンドの資産総額を考慮しながら、各ファンドのパートナーシップに占める比率を算定する、(3) ポートフォリオの日々の収益、諸費用、正味[*34]未実現利益または損失を各ファンドに配分する、(4) 年間の税額情報の計算に関する情報を追跡、記憶すること−−を含む。発明明細書に照らして解釈すれば、056号特許の発明のクレームは、一連の数学的問題を解く手段を述べたものである。

この結論は、Scharader 事件における連邦巡回裁判所の判決によって支持されている。同事件において、売り手の収入を最大化する目的で、競売の入札を分類する方法として特許権がクレームに記載された。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.291-92。裁判所は、「特許のクレームの文言は……入札の最適な組合せの決定という数学的問題を解き方を説明したものである」と判断した。同判例集 P.293。C.C.P.A.は、それ以前の事件についても同じ結論を下している。Maucorps事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ609巻 P.486参照(「Appellants事件でクレームに記載された発明は、全体として、ひとつの数字を連続した数字から計算する、一連の方程式の解法を実行する手段を構成したものである。」)、Gelnovatch事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ595巻 P.32, 41 n7(C.C.P.A. 1979)(「Appellants事件の方法は、全体として、一連の数字が他の連続した数字から計算される連続した方程式の解法を構成している」)。数字を入力、処理、出力する発明は、定義上、数学的操作を実行[*35]するものである。

2.     第二段階:物理的変換に関する分析

Freeman-Walter-Abele分析法の第二段階は、クレームに記載された発明が物理的要素もしくは方法の手順に該当または限定されるかを判定することである。本件発明が数学的操作を実行するものであるか否かにかかわらず、主題を異なった状態または事物に変換または転換するものであれば、第101条に基づき法的に認められる。決定的要素ではないが、カギは物理的変換である。当裁判所は、シグネチャーのデータ処理システムはこの物理性の分析を通らないと判断する。

056号特許でクレームに記載された発明は、連邦巡回裁判所が過去に法的に認められるとの判断を下したコンピュータが実行する発明とは異なる。Alappat事件では、数値を変換して、発振器上になめらかな波形データ表示する装置を法的に認められると判断した。コンピュータ上で実行可能な数学的操作を通じて、「ラステライザー」で発振器をそれまでは不可能だった方法で作動させるもので、「有用で、具体的、かつ有形の結果を生み出す特定の装置」であるとした。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1544。少なくとも大多数の意見の中で述べられているように、物理的変換(すなわち、具体的な波形データのサンプル[*36]をムラのない画素のイルミネーションデータに変換して、ディスプレイ上に表示すること)は、数学的構成物の操作以上のものである。但し、同判例集 P.1564 参照(Archer首席裁判官の反対意見)(「ラステライザーは単に特許を認めるべきでないデータを数学的に変換したに過ぎない」とクレーム)(カッコは原文のまま)。

同様に、Arrthymia事件では、ある種の人間の心拍活動を電子的に測定、処理および表示させる発明が関係した。数学的計算が方法の一部ではないものの、発明は「心拍電子記録器の信号を分析して、特定の心拍活動を測定する方法として見るのが適当である。」合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ958巻 P.1059。「得られた数字に数学的抽象性はなく、特定の心拍活動をマイクロボトルで測定したものであり、心室頻拍の危険性を表す指標である。」同判例集 P.1060。こうした変換は特許による保護が認められる十分な物理性を有している。同じく、Abele 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ684巻 P.908-909(X線のデータを物理的に変換して、CATスキャン上に表示する発明を法的に認められると判断した)、Taner 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ681巻 P.787, 90(C.C.P.A. 1995)(地質探査に関して、コンピュータが実行する方法[*37]を法的に認められると判断した)参照。n9

脚注

n9 Lowry事件では、合衆国法律集第35編第102条および103条における「データ構造」の特許性が関連し、裁判所の判断は、部分的に、こうした数学的構造はコンピュータ自体に依拠する「物理的」変化を生み出し、操作の効率を上げるという事実に基づいている。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ32巻 P.1583。この事件で、発明はデータ構造についてクレームに記載されたものではない。また、Lowry事件では問題の解決に役立たないため、第101条に基づく主題の特許性については検討されなかった。さらに、連邦巡回裁判所の別の委員会は、データ構造は第101条に基づき法的に認められるとの判断を下した。Warmerdam事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1360参照。

シグネチャーの発明にこの種の変換は含まれていない。むしろ、他の会計方法と同様に、数字を操作し、記録するように設計されている。Arrthymia事件における心拍電子記録器やAbele事件のCATスキャンとは異なり、シグネチャーのデータ処理システムには、物理的活動または事物を表象[*38]または構成する主題の変換または転換を伴わない。Schrader事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.294。Alappat事件のラステライザーとも違い、当該発明は、データを操作して全く異なった新しい形式に物理的に変換するものでもない。一連の数字を別の数字に変える以上のものではなく、特許による保護を与えるには不十分である。当該発明は現状以上のものではなく、数学的アルゴリズムを解くものであり、したがって特許性はない。Abele 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ684巻 P.904(発明は「現状および数学的アルゴリズムの解法以上のものであることを要する)。

当裁判所の決定に一致して、連邦巡回裁判所は最近、ビジネス上のデータを収集、処理および記憶する、コンピュータが実行する発明を法的に認められないと判断した。既述したとおり、Schrader事件において、特許出願書では競売人の販売利益を最大化する目的で、競売の入札を分類する方法がクレームに記載されたが、裁判所は「入札自体に物理性はないとして、入札の分類または再分類は物理的変化、効果または結果を構成することはできないと判断した。」合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.293-94。他の、収集した入札のデータを記録する段階は、「データを『記録』する段階で必然的に数学的アルゴリズムの適用を意味するため、特許性を具備するには不十分である。」同判例集 P.294。Flook事件における最高裁の判断およびGrams事件における連邦巡回裁判所の判断を引用して、裁判所は、回答前のデータ収集活動およびわずかな回答後活動(すなわち、データの記録)は、「数学的アルゴリズムの解法に関する特許のクレームに対して、特許性を付与することはできない」と述べた。Schrader事件,合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.294(Flook 事件, 合衆国判例集第437巻P.590、Grams事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ888巻 P.835, 840[連邦巡回裁判, 1989])。

C.C.P.A.も同一の事実に基づき同じ結論を引き出している。Maucorps事件における特許のクレームは、セールスマンが一定の期間に顧客を訪問する最適の回数を決定する装置に関するものだった。合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ609巻 P.484-85。こうした販売

モデルは、「クレームに記載された発明が、全体として、ひとつの数字が一連の数字から計算される、連続した方程式の回答方法を実行する手段を構成しているため」、法的に認められないと判断された。同判例集 P.486。Alappat事件で裁判所が述べたように、Maucorps事件におけるビジネスの方法論は第101条の範疇に入らないことは明らかである。Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1541。

同じく、シグネチャーの[*40]データ処理システムも、第101条における特許性が認められる主題には該当しない。Schrader事件やMaucorps事件におけるビジネス関連システムと同様に、056号特許は、本質的に、回答前活動で収集したデータに関する数学的計算を実行し、記憶し、結果を表示する発明に関するクレームである。Schrader事件の入札と同様、こうした数字はハブとスポークの組合せなどの財務上の構成物を表すものであるという事実は、シグネチャーの特許を保護するものではなく、特許のクレームは重大な回答前、回答後活動について言及していない。また、Arrthymia事件やAbele事件のように、物理的事物または現象を測定するものでもなければ、Alappat事件のように、データを異なった形式に物理的に変換するものでもない。

「『出願者が発明したものは何か?』−−この重大な問題に対して、とにかく答えを出さねばならない」Grams事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ888巻 P.839(Abele 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ684巻P.902, 907を引用)。実際問題として、当該発明は、一連の数学的機能を果たす手段としてクレームに記載された、ある種の財務上の投資手段に関する会計システムである。率直に言えば、数字の入力、数字の計算、数字の出力[*41]、数字の記憶以上の物理的変換または転換は含まれていない。たとえ効率は劣るとしても、同じ機能は紙と鉛筆、計算機、書類整理システムを所有する会計士でも果たすことができよう。「決定的な問題は、特許のクレームが、全体として、特許性のある主題を構成するために十分な物理的活動について言及しているか否かということである。合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.294 n9。当裁判所はシグネチャーのデータ処理システムは物理的活動に言及していないと判断する。

G.      営業的方法の除外

当裁判所の判決は、「営業的方法の除外」として知られる、主題の特許性に関する排除理論にも適合する。「数多くの特許に関する取決めは、必ずしも人間の審美的、芸術的または批判的対応に基づいているとは言えないが、「営業的『計画』および『システム』に特許性はないとする、以前に確立した原則について言及している。」Donald S. Chisum III著、「特許−−特許性の法則に関する取決め」「効力と侵害」@1.03 [5] P.1-75(1990)、同じく、Ernest Bainbridge Lipscomb著、「特許の散歩」@2.17 P.171[第三版, 1984]参照(「取引のシステム、方法は『技術』[すなわち、方法]ではなく、システムを実行する物理的手段を別にすれば、その他の特許性のある主題[*42]に指定されたものには該当しない」)、Peter D. Rosenberg著、「特許法の基礎」@6.02 [3] P.6-82(第二版, 1995)(「営業的機能を果たすことが可能な装置は特許性のある主題を構成する可能性があるのに、装置またはシステムによって生み出されるか否かを問わず、法律では依然として、営業的方法は特許性のある主題に該当しないとしている。」)

一連の古い判例で確立されているように、営業的方法は特許性のない抽象的アイデアである。Loew's Drive-InTheatres. Inc. 対 Park-In Theatres. Inc. 事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ174巻 P.547, 552(第一審巡回控訴裁判)(営業的方法は抽

象的アイデアの理論と同類と考える)裁量上訴却下, 合衆国最高裁判所判例集法律家版第94巻P.499, 合衆国最高裁判所判例集第70巻P.68(1949)、Hotel Checking Co.対 Lorraine Co., 合衆国控訴審裁判所判例集第160巻 P.467, 469(第二審巡回控訴裁判, 1908)(同上)。最近の判決は、明確にはこうした根拠に立脚していないものの、この原則が引き続き有効であることを認めている。Alappat事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ33巻 P.1541(「営業的方法論」は第101条における主題ではない)、Grams事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第2次シリーズ888巻 P.835, 837(「営業的方法」は特許性のない主題の範疇に入る)、Murrayの申立て, 合衆国特許公報第9号 2D(内務局)P.1819, 1820(PTO特許出願事務所 [*43], 1988)(銀行の会計システムを法的に認められないと判断)。これに対して、Paine, Webber, Jackson & Curtis, Inc. 対 Merrill Lynch. Pierce, Fenner & Smith. Inc.事件, 合衆国地方裁判所判例集第564巻 P.1358, 1369(デラウェア州地方裁判所, 1983)(人気のある財務サービスを組み合わせた、コンピュータ化されたシステムを、発明がBenson事件のアルゴリズムでないことを理由として、法的に認められると判断した)、Schrader事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ22巻 P.297(Newman判事は反対)(営業的方法除外の原則は「誤った判断を受けやすく、かつ冗長で、時代遅れである」とクレーム。)参照。

シグネチャーの発明に特許性が認められるならば、金融機関がハブとスポークを模した多層化ファンド複合体の提供を希望する場合、計画に着手する前にシグネチャーから許可を求めることが義務づけられることになる。これは、056号特許が、この種の財務組織の運営に必要な、コンピュータが実行する会計方法を、実質的にすべて占有するほど大ざっぱなクレームであるためである。勿論、実施権の協議期間中に、シグネチャーはステートストリートに対して、パートナーシップのポートフォリオの構成物に基づく多層化ファンドに関する帳簿上の貸借を実行するように設計されたデータ処理システムは、056号特許を侵害すると通知済であった。回答[*44]参照 P.12。

実際問題として、056号特許は、パートナーシップのポートフォリオの多層化投資構造のアイデアに対する占有権をシグネチャーに付与するものであり、ある種のビジネスを行うために必要な会計システムに特許を与えることは、ビジネス自体に特許を付与することと同じである。しかし、こうした抽象的アイデアに特許性はないため、ビジネスの方法または数学的アルゴリズムとして、056号特許に特許性は認められないのである。

IV.      シグネチャーの反訴

シグネチャーは、マサチューセッツ州基本法第93条A項に基づき、次の二件の反訴を提起した−−(1) ステートストリートが、シグネチャーの特許が無効であるとする、シグネチャーの言によればばかげた訴えおよび偽りの請求を提起したことに対する損害賠償の請求(訴因I)、および(2) ステートストリートは、データ処理システムの使用に関して、口頭で締結した実施権許諾契約に拘束されるとする宣言的判決である(訴因II)。

裁判所は、自発的に、訴訟物の管轄権の範囲に関する問題について判断を下すことができる。連邦民事訴訟規則第12条(h)項(3)号(「当事者またはそれ以外の者の指摘により、裁判所に訴訟物の管轄権がないことが判明した場合、裁判所は訴えを却下するものとする。」)参照。シグネチャーは、当裁判所が合衆国法律集第28編[*45]第1338条、1367条および2201条により管轄権を有するとクレームする。第2201条および1338条(b)項は、裁判所に、宣言的救済を与える権利を付与し、また特許法に基づき「実質的に関係するクレームと組み合わされた場合に」、不公正な競争に関する請求の管轄権を与える規定である。裁判所の補足的管轄権の行使に際しては、第1367条が適用される。

ステートストリートの略式判決の申立てを許す当裁判所の決定は、必然的にシグネチャーの第一の反訴に決着をつけるものである。いかなる不公正な取引慣行のクレームも、ステートストリートの宣言的判決の訴えの不真面目さに照らせば、ステートストリートの求める救済が与えられた場合、これを維持することはできない。よって、第一の反訴は却下する。

この判決は、当裁判所が第一審管轄権を有するすべての請求に適用される。事物管轄権は連邦問題に関する特許のクレームだけに基づき、両当事者がマサチューセッツ州に主たる営業場所を有する場合、管轄権に変化はない。よって、第二反訴は補足的管轄権の下においてのみ当裁判所の前に行われる。

第1367条には、当裁判所は「地方裁判所が第一審管轄権を有する請求を却下した場合[*46]、請求に対する補足的管轄権の行使を拒絶することができる」と定める。合衆国法律集第28編第1367条(c)項(3)号。

口頭の実施権許諾契約に関する有効性のクレームに基づき、シグネチャーに宣言的救済を与えるべきか否かは、州裁判所に提起することが最も適当な問題である。こうした訴訟手続の早い段階において、いずれの当事者も、こうした状態のクレームについて、訟事件摘要書による説明を受けておらず、また証拠の提示も受けていない場合、司法経済を考慮し、既得権を侵すことなく、反訴を却下する必要がある。Mcintosh対Antonino事件, 合衆国控訴審裁判所判例集第3次シリーズ71巻 P.29, 33 n3(第一審巡回控訴裁判)(地方裁判所が連邦問題に関する請求について、略式判決を与えることが適当な場合、相当の連邦問題が存在しないときは、残りの補足的請求を却下することができる)。n10

脚注

n10 いずれの当事者もこの問題について、訟事件摘要書による説明を受けていないため、裁判所は反訴の処理に関する再考の申立てであればこれを審理する。

V.      判決と命令

以上の理由から、当裁判所は、056号特許は合衆国法律集第35編第101条に基づき法的に認められた主題[*47]に関するものではなく、よって無効であると判断する。したがって、ステートストリートの部分的な略式判決(事件記録44-1)の申立てを認める。同じく、上記理由から、シグネチャーの反訴−−システムに関してクレームに記載された口頭の実施権許諾契約についての第二の反訴−−については、既得権を侵すことなく、ここに却下する。

PATTI B. SARIS

連邦地方裁判所裁判官