調査研究報告書

SOFTIC_logo

2011.6.1

SOFTIC 22-1
調査研究報告書 ソフトウェア関連発明の特許保護に関する調査研究報告書―平成22年度―

概要 入手方法

●付託G3/08に対するEPO拡大審判部の意見(2010年5月12日言渡し)
 近年、EPO審判部による多様な審決により、コンピュータ・ソフトウェア関連発明の特許保護対象の範囲が不明確となっているとの理由に、2008年10月22日、当時のEPO長官によりEPO拡大審判部に対し、コンピュータ・ソフトウェア関連発明の保護適格性についての質問が付託された。
これに対し2010年5月12日に拡大審判部の意見が出され、本付託はEPC112条(1)(b)の要件を満たさず、付託適格を有しないとされた。しかし、付託の質問では問われていなかった進歩性の判断手法も含めて現在のケースローの立場について説明がなされ、T154/04に要約される現在の実務が全面的に追認され、その理論的根拠も明らかにされた。

●BILSKI v. KAPPOS事件判決(2010米国連邦最高裁)
 本件は、ビルスキー等によって、コモディティ(特にガス等のエネルギー資源)取引におけるリスク回避の方法について、1997年4月に米国特許商標庁に対してなされた特許出願(米国出願08/833,892)が拒絶査定とされ、審判でも原査定を支持する判断がなされたことから、出願人がCAFCに提訴した事案。
審決での理由は、本願は抽象的アイデアに過ぎず、技術的領域に係る発明ではないとして101条下で拒絶査定としたが、技術的領域テストで判断したのは誤りで、物理的な対象をある状態から別の状態へ変換するものであれば、特定の装置上で動作しなくとも特許法の保護対象たり得るが、本件の場合、金融上のリスクや法的責任といった非物理的なものを「変換」するに過ぎないので、特許法の保護対象たり得ないし、"useful, concrete and tangible result,"を生み出すものではないとの判断を示した。
 CAFCは、従来の判断基準である"useful, concrete and tangible result,"テストを否定し、特定の機械や装置と結び付けられているか、あるいは特定の対象物を異なる事物へと変換しているかの“machine-or-transformation テスト”が唯一の判断基準であるとした上で、特許法上の保護対象ではないとした審決の判断を支持した。
 最高裁では、結論は原審判決を支持したが、CAFCが唯一の判断基準であるとした“machine-or-transformation テスト”は、有用なテストの一つではあっても唯一の基準ではないとした。しかし、何が抽象的アイデアか否かの判断基準であるかまでは示されなかった。

●インターネットサーバーのアクセス管理およびモニタシステム事件判決(知財高判平成22年03月24日)
 控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)による、インターネットサーバーのアクセス管理等のサービス提供行為は、控訴人の有する特許権(請求項1)を侵害するとして、@特許法100条1項に基づく被控訴人サービスの差止め、A同条2項に基づく同サービスに供された「NLIA サーバー」及び「登録情報データベース」の除却、B民法709条に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。
第一審は、本件特許は、引用例に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから特許法104条の3により、控訴人が本件特許権を行使することはできないと判示して控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴した。
 第二審は、第一審判決を変更して、@被控訴人による対象サービス提供の差止め、A対象サービスに供された「NLIAサーバー」の除却及び「登録情報データベース」の消去、並びに、B一部の損害賠償及び遅延損害金の支払を命じた。

●中空ゴルフクラブヘッド事件判決(知財高判平成21年6月29日)
 控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)の製造販売するゴルフクラブヘッドが、控訴人の有する中空ゴルフクラブヘッドに係る特許権(請求項1)の技術的範囲に属するとして、出願公開後の警告から特許権の設定登録までの期間につき特許法65条1項による補償金の支払いを、設定登録以降の期間につき損害賠償の支払いを請求した。
 第一審(東京地判平成20年12月9日)は、文言侵害・均等侵害を共に否定した。これに対し控訴審は、文言侵害を否定するも均等の成立を認め、被告製品は本件発明の技術的範囲に属し、無効審判により無効とされるべきものとは認められないとの中間判決をし、その後の終局判決(知財高判平成22年5月27日)により、控訴人の請求が一部認容された。

●ウェブサイト上の譲渡の申出に関する国際裁判管轄に関する事件判決(知財高判平成22年9月15日)
 控訴人(一審原告)が被控訴人(一審被告)に対し、被控訴人がウェブサイトで被告物件の紹介を掲載していたことについて、控訴人の特許「モータ」に基づき、被告物件の譲渡申出の差止及び損害賠償を求め、我が国の国際裁判管轄権の有無について争われた。
第一審は、被控訴人が我が国において、被告物件の譲渡の申し出等を行ったとは認められないから、管轄権を有しないとして却下した。
第二審では、被控訴人のウェブサイトに被告物件を掲載し、販売問い合わせとして日本が掲示され、販売本部として日本の拠点の電話番号等を掲載し、日本でも被控訴人が営業活動をしていること等から、我が国における被告物件についての譲渡の申出の発信行為又はその受領という結果の発生を裏 付けることができ、差止請求及び損害賠償請求の国際裁判管轄を有しているとして、一審判決を取り消し、差し戻した。

・・・ その他の報告書一覧はこちら ・・・


HOME