基調講演:

「電子商取引に向けての真の課題」

(加藤幹之ILPF議長)


 人類は情報化革命の時代に入りつつある。その経済的側面が電子商取引である。

 電子商取引の経済的影響として、例えば著作権分野においては、複製コストが飛躍的に引き下げられること、いわゆるデジタル・コンテンツの流通の場合の流通コストが殆どゼロに近くなること、が指摘できる。

 また、法律システムに対する影響として、コピーの概念が根本的に変化してしまったことから、今までの知的財産権法が役に立たなくなったのではないか、例えば、著作権を強化して違法コピーを作りにくくする必要がある、というものである。これについては、現在の知的財産権法は時間をかけて開発者へのインセンティブと利用者のインタレストとを注意深くバランスしたものであって、これを簡単に変更すべではないと考える。さらに契約法の問題がある。例えば、契約の成立に関する電子署名や認証の問題、国際取引におけるジュリスディクションの問題である。

 こうした問題の考え方として、電子商取引の発展が人類にとって必須の発展であるとしても様々な障害、すなわちチャレンジがある。それは、第一に社会的、文化的なもの、第二に経済的、技術的なもの、第三に法律的、制度的なものである。

 第一について。日本におけるインターネットの利用率の低さである。そしてその最大の理由はタイプライターを使う文化がなくこのことがコンピューターに馴染めないでいると思われる。また、ウェッブサイトが英語中心であるということも言える。開発途上国においても社会的、文化的側面が電子商取引普及の大きな障害になっていると思われる。文化の違いを尊重し合った上で、それぞれの国のスピードに合わせて普及させていく必要がある。

 第二について。いわゆるデジタルデバイドの問題である。特に途上国において深刻だが先進国内部でも発生している問題である。この問題は各国の社会問題や新たな南北問題を引き起こす原因になると考えられる。

 第三について。法律は何ができるか、何を目的としているか、そのために政府の役割は何か、を再確認する必要がある。それは、

  1. 民間部門や市場の競争原理が電子商取引の発展をリードするべきで、そのためにどういう制度が良いかを考えるべき。
  2. 民間部門の自主的な制度作りやその運用をもっと促進し国際的に広げていく、そうすることが効果的である。
  3. 現在の法律や規制が、実は電子商取引の制約となっていないか点検すべき。

 技術が進んでコンテンツのコントロールが完全になれば、権利関係は知的財産権ではなく契約で処理できるという見方も出てくると思われる。規制の役割を点検することが重要である。また、当然政府の役割も重要で、特にデジタルデバイドの問題等、今後、競争法や独禁法の運用が政府の重要課題となる。

 電子商取引の時代になるからといって、あまりに性急に法制度を変更し、その結果、利害のバランスを崩さないことが重要である。また、法律はなるべく一般的に規定し、電子署名や認証の技術は、競争の中で良いものを開発させるべきである。さらに、比較法的に法を分析する場合は、法制度をシステム全体として十分に理解することが必要で、例えばその国の民間部門の自主規制の普及度合いも考慮に入れて制度の検討を行うことが重要である。