Session 2:

電子商取引と著作権問題――日米欧の検討状況


プレゼンテーション


〔Keplinger氏:アメリカ・デジタル・ミレニアム著作権法

DMCA(デジタルミレニウム著作権法)は従来の著作権法を改正し、WIPOの二つのインターネット条約を実施した。主な改正点は(1)効果的な技術的保護手段の回避の禁止、(2)著作権管理情報の保護、(3)オンラインサービスプロバイダの著作権侵害責任の制限である。

1201(a)条は、著作物へのアクセスをコントロールする効果的な技術的保護手段の回避を禁止し、1201(b)条で著作物にかかわる排他的権利の行使をコントロールする技術的保護手段の回避に関する個別の条項を記載している。1201(a)条は、著作物へのアクセスをコントロールする効果的な技術的保護手段の回避を禁止し、1201(b)条で著作物にかかわる排他的権利の行使をコントロールする技術的保護手段の回避に関する個別の条項が記載している。1201(a)(3)条は、技術的手段の回避、迂回、除去、無効化、もしくは損壊も回避であるとし、著作物へのアクセスの効果的なコントロールとは、著作権者の許諾を得て情報を入力し、または手続きもしくは処理を行うことを必要とする場合としている。また、1201(b)(2)条は当該技術的手段がその動作の通常の過程において排他的権利の行使を妨害し、限定し、またはその他制限するのであれば、いかなる技術も対象となるとしている。

WIPOのインターネット条約起草の過程で新しい問題が浮上した。サービス・プロバイダーの潜在的責任である。DMCAの第2編において、次の三つの基本的要件を満たせば、サービス・プロバイダーは第三者の著作権責任を免除されることになった。(1)反復して侵害を行なう物のアカウントまたは加入権を解除する方針を採用し、実行していること(2)加入者及びアカウント保持者に対してこの方針を通知していること、(3)標準的な技術的手段を導入してこれを阻害しないこと、である。また、特定の状況を除き、オンライン・サービス・プロバイダーは差止救済の責任を負わないとしている。

1201(a)条は、同条の影響により特定の著作物が阻害されるか否か、議会図書館による調査結果を受けて発効する。オンライン・サービス・プロバイダーの責任に関する条項はすでに発効しており、当初の目的を十分達成している。アメリカはWIPOのインターネット条約を1999年9月18日に批准した。この条約はアメリカのみならず、電子商取引の世界において最も適切なものと考える。


〔Vinje弁護士〕

基本的な問題はオンライン仲介者が、どの程度ユーザーの侵害責任を追うべきか。ヨーロッパでは、ドイツに電気通信法があり、広範な責任限定をオンライン仲介者に与えている。スウェーデンの電子掲示板法は、ある状況下における監視義務を仲介者に求めている。その他の国にも矛盾する判例がいろいろ出ている。

EUの電子商取引指令案は、単なる通信回線の場合、ネットワーク・オペレーターとアクセス・プロバイダーは賠償責任から完全に除外される。キャッシング行為についても、ある種の条件を満たせば賠償責任から除外される。ホスト・サービス・プロバイダーについても、実際に侵害の事実を認識していた場合以外は賠償責任が限定される。但し差止命令による救済手段の請求は引き続き可能である。また、EU指令案15条はサービス・プロバイダーに不法な素材の監視義務はないとしている。

EU指令案の結果、サービス・プロバイダーは通知があればすぐに素材を除去することが予想される。DMCAのような再掲載の制度や適法な素材を引き続き提供できる環境がなければ、公正な競争や表現の自由が侵される。そこで素材をインターネットから除去する場合、言論の自由や考えうるべきすべての利害関係を考慮し、DMCAと同様の再掲載の制度を創設することを提案したい。しかしながら電子商取引指令案はおそらく12月7日に通過するため、私の提案は聞いてもらえないだろう。

WIPOの著作権条約外交会議では一時的複製について議論があった。EU著作権指令案は、2条で一時的複製も複製に入るとし、第5条の1で一過性の副次的な複製を例外としている。著作権業界と電気通信、インターネット・サービス提供業者、装置メーカー、ユーザとで意見が分かれているが、加盟国でも5対5くらいで意見が分かれている。

最後に技術的保護手段についてどのような保護を提供するか。問題は、技術的保護手段は著作権の範疇に入らない、あるいは例外になっているものもコントロール可能なことである。著作権が認めている、例えばソフトウェアのリバースエンジニアリングを技術的保護手段で不可能にしてもよいのか。従来の著作権法が有した保護と利用のバランスから乖離し、今日できることができなくなってしまう可能性がある。DMCA1201(a)条は著作権のバランスの脅威となりうるため、いかに解釈すべきかが問題となるであろう。


〔吉田氏〕

1999年は日本で著作権法が制定施行されてから100年という年であり、著作権法では本日のテーマの電子商取引に大きく関連する改正を行った。1996年にWIPO著作権条約とWIPO実演・レコード条約という二つの条約ができ、日本は1997年、インタラクティブ送信に関する公衆送信権、あるいは送信可能化権といった二つの権利を作りWIPOの新しい条約に対応する新しい権利を整備した。今年行った改正は1997年の改正で残された課題で、WIPOの新条約加盟のために必要な技術的保護手段の保護と電子的権利管理情報の保護についてである。

技術的保護手段に関する著作権法改正は、米国でDMCAが達成した、あるいは現在EUで検討されている技術的保護手段を回避する装置、あるいは回避するためのプログラムの頒布、あるいは頒布目的の製造について、法律上の規制を行うものである。頒布や製造のほか、輸入、あるいは送信、サービスの提供についても、刑事罰で規制を行う。

もう一つは電子的権利管理情報の改変等に関する規制である。WIPO新条約の定める電子的権利管理情報を除去・改変する行為、あるいは権利管理情報が除去・改変された著作物を頒布する行為に加えて、改正法は虚偽の情報を電子的権利管理情報として付加する行為、あるいは虚偽の情報が付加された著作物を頒布する行為も併せて著作権侵害とみなし保護の実効性を上げようとしている。来年の通常国会で条約締結の承認が検討される予定である。

今後の課題として、インターネット上で違法行為が行われた場合のインターネット・サービス・プロバイダーが負う責任の範囲、システムキャッシング、放送事業者がインターネットで放送する場合の放送事業者の権利の保護といったことについても改めて検討を進める必要があると考える。


〔Ginsburg教授〕

技術的手段を保護する新しい回避防止条項は果たしてどのような脅威を与えるか。1201条により著作物に対するアクセスをコントロールする権利が創設された。新しい権利の性質について二つの疑問を提起し、それが提示する問題についてお話ししたい。

まずアクセス権は従来の著作権の延長と考えてよいか。デジタル形式の著作物にアクセスする場合、RAMコピーを必ず伴うため複製権と関連する。またアクセスは、公衆の構成員が同じあるいは異なる場所で、同時あるいは違った時間に供与する公の実演権、あるいはEUやWIPO条約でいう公衆への伝達、あるいは公衆利用可能(making available)権と関係する。つまりアクセス権は何らかの基礎を著作権法に持っているが、それ自体が独自の権利といえる側面を持つ。そこで、アクセス権を従来の著作権法の世界だけで考えるのではなく、経済的な観点からも考察したい。

オンライン・アクセスの世界では、利用の性質によって価格を変えるシステムが可能である。ただし、それは著作物へのアクセスのコントロールだけでなく、アクセス後の無許諾複製のコントロールを可能にする技術的な保護システムが前提となっており、著作物を流通させるための不可欠要素となっている。それでは、アクセスコントロールあるいはアクセス後の無許諾複製のコントロールを回避する装置を解除する製品を製造あるいは流通させる人をどうするか。ここで過剰保護の問題が2つ考えられる。

1201条は、著作権のかからない著作物にも保護を拡大する恐れがある。さらに、1201(b)条はフェア・ユースを認めているが、機械はユーザーの回避目的が例えばコメンタリーのための使用か、それとも違法コピー作成のためなのかわからない。機械自体はフェアユースにも海賊行為にも使うことができる。

著作権者がマーキングすることにより機械は保護装置が著作物にかかっているのか、それとも著作権のないものにかかっているのか、知ることができる。また回避装置を禁止すればフェア・ユースが死滅するという主張は、著作物が供与される形態がアクセスを保護された、あるいは著作権によって保護された形態のみだという前提に立っているが、それは少なくとも近い将来は真実ではない。議会図書館が11月24日に著作権局の通知を受けて1201条に基く調査を開始した。フェアユースや非侵害目的の著作物の利用が不可能であるという脅威は、単なる不便宜を超える以上の何かがあるか調査する。調査は始まったばかりで、現時点では潜在的な脅威がどれくらいのものか不明である。


〔Hugenholtz教授〕

契約法と技術的な保護の組み合わせは著作権制度の代替的措置となりうる。現在世界各国で、様々な電子的な著作権管理システム(ECMS)実験がなされている。京都では北川先生が非常に面白いプロジェクトを実施しいるし、またヨーロッパではIMPRIMATURプロジェクトが終了している。

ヨーロッパの観点から契約法による保護の可能性について考えてみたい。ワールド・ワイド・ウェブは契約関係を成立させそれを発展させる理想的な環境を提供している。テキストをベースとしたインターフェース及び双方向性は理想的な環境を提供する基本的要因として存在している。

しかしながら全てが契約で規定される世界では、消費者あるいは弱い立場にある当事者は、支配力のある強者によって従属させられ、当事者の基本的な自由が危険に晒される恐れがある。アナログ環境では、著作権法が情報の利用者に対し何がよくて何がいけないのかを明確にしていたが、新しいオンライン・ライセンシング、オンライン・デリバリーでは、契約が情報のユーザーに何がよくて何がいけないかを明確に規定することになる。

契約は著作権法をどこまでオーバーライドできるのか。これはWIPOの条約では十分対応しきれていない問題である。ソフトウェア指令は契約によってオーバーライドされない著作権を明確にした。いわゆるデコンパイレーション、リバース・エンジニアリングに関しても同様に強制的(mandatory)である。データベース指令においても強制的適用除外がある。正当な使用者は、通常の使用に固有の行為を行なうことができ、また、データベースの実質的でない部分を再利用する権利は専占されない。

以上のように、ヨーロッパでは例外規定を契約で禁止することはできないと明確に打ち出している。しかしながら、著作権指令案に関しては契約と著作権の問題について全く触れられていないという指摘がなされている。加えて、著作権指令案の例外規定はどんどん長くなっており、各国裁判所がケース・バイ・ケースで特定の制限が強制力を持つか、あるいは契約によって破棄されるかを判断することになる。

各国の国内法で契約にオーバーライドされない例外を明確に規定すれば、事態に対応することができる。その場合各国裁判所は、権利制限の合理性を判断していく必要があるが、法律では制限の目的を解説していないことが多い。私個人としては、プライバシー、言論の自由、あるいは情報の自由は本質的な基本的権利であるため、決して契約で禁じてはならないものだと考える。各国裁判所、各国国内法がどう対応していくか、きわめて興味のあるところである。


〔小泉教授〕

わが国における技術的手段の保護に関する新しい法改正について、著作権法はいわゆるコピー・コントロールの回避の役務あるいはデバイスの提供行為などについて罰則によって規制し、民事的な救済については規定していない。しかしながら日本は不正競争防止法も改正しており、アクセス・コントロール、コピー・コントロールの回避機器などの提供行為について、民事的な規制を与えている。規制の全体像はやや複雑だが、日本の保護が全体としてWIPOの基準に照らし実効的なものであることを期待する。

次に、著作権法はアイデア、創作性のない表現を保護対象からはずし、権利制限規定を置いて情報の公正な流通に留意しているが、アクセス・コントロールがかけられたコンテンツあるいは情報の取引契約においても、このようなバランスがどこまで保たれるべきか。さらに、両当事者の力関係によって優越的な地位の濫用のような状況で契約が強制された場合、契約自体を無効とすべき場合が出てくるかもしれない。日本ではこのような点についての検討は遅れている。インターオペラブルな電子商取引のルールという観点からもアメリカあるいはEUのルールが参照されるべきである。

検討の方向性として二つ課題を挙げたい。ひとつは権利制限規定自体をデジタル社会に合ったものに見直すこと、もうひとつは権利制限規定をオーバーライドする契約についての規律を行うことである。アメリカ、EUのアプローチが参考になるが、権利制限規定は任意規定だとする日本の考え方を見直すのもひとつの方向である。知的財産法、あるいは民法や独禁法との協力による情報の公正な利用の確保に期待したい。


〔Perlmutter氏〕

WIPOとしては各国の法律を完全に統一する必要性はなく、インターオペラビリティーが重要だということを強調したい。回避防止という問題を例に取ると、条約の文言はかなりのフレキシビリティーを各国に残しており、どのような対応で達成するかは各国の裁量に任されている。午後のプレゼンテーションを伺ったところによると、回避防止条項は日米欧の各地域の法体系に適切なかたちで整備されつつある。

サービス・プロバイダーの責任問題は、二つのインターネット条約に関する外交会議で1996年に討議されたが、条約としては未解決のまま残された。しかし国内レベルあるいは地域レベルではこの問題に対応する動きが出てきている。一番大きな問題は、サービス・プロバイダーの責任限定を違法なコンテンツ全てに対して付与すべきか、あるいは著作権侵害に限定すべきか。アメリカのDMCAは著作権のみを扱い、シンガポールの改正法も著作権について規定しているが、欧州指令及びドイツ、スゥエーデンではすべての不法なコンテンツに対して規定している。

国際的な観点から、各国が取っているアプローチの互換性が果たして本当にあるのか。何らかの行動を起こして互換性を担保する必要性はないのか。こうした問題はWIPOの将来の検討課題に含まれていて、1999年12月9日と10日にジュネーブで開かれるWIPOの会議で討論されることになっている。