Session 3:

電子商取引と特許問題−保護範囲の事例研究


プレゼンテーション:ビジネス方法は特許の対象となるか


〔Betten弁理士〕

現在、欧州特許条約第52条の(2)と(3)、及びEPC締約国の各国内特許法では、ビジネス方法及びコンピュータ・プログラム自体は、特許保護から除外される。しかし、最近公表された「IBM/コンピュータ・プログラム・プロダクトI」事件において、EPO技術審判部は、立法者はすべてのコンピュータ・プログラムの特許性を排除しようとしているのではなく、技術的特徴(technical character)を持つコンピュータ・プログラムは、特許性のある発明とみなされるとした。

同審判部は、そのような技術的特徴を持つコンピューター・プログラムと持たないコンピューター・プログラムの判断基準は、コンピュータ・プログラムの命令の実行から生じるさらなる技術的効果(technical effect)に認めることができ、この更なる技術的効果に技術的特徴がある場合、あるいはそのソフトウェアが技術的課題を解決する場合に、特許性がある、とした。従って、更なる技術的効果が生み出せる場合に、すべてのコンピュータ・プログラムには特許性があるということになる。

ビジネス方法がヨーロッパ特許として認められたものに、「ホテルの部屋予約方法」(EP484362)、「ワラント債取引システム」(EP762304)、「Web用ショッピング・カート」(EP784276)がある。また最近、興味深い判決がドイツ特許裁判所から出された。これは「自動販売管理」として、例えばコカコーラやチョコレートなどの販売を自動的に管理するという出願についてのものである。

裁判所は、補助請求には更なる技術的特徴があり、進歩性があるとして、再審査の要ありとして審査部に差し戻した。これは今後のEPOの審査実務の方向を示していると言えよう。すなわち、EPOの将来の審査は、「技術的特徴」の問題については寛大に判断し、新規性・進歩性で判断することになるだろう。


〔水谷弁護士〕

最近、コンピュータシステムを利用することではじめて提供可能となるサービスが、金融その他の分野で増大している。

従来ビジネス方法は、商業的な経験則や経済法則を主として利用しており、特許法第2条1項の自然法則の利用性がないという理由で、特許法上の発明ではないとの意見が多数であった。

しかし、1997年公表の審査基準では、ハードウェア資源に対する制御、物理的又は技術的性質に基づく情報処理及びハードウェア資源を用いた処理の何れかに該当する場合は自然法則の利用性がある、とされていて、ビジネス方法は、経済的、商業的有用性に特徴を有していることが多いものの、コンピュータシステムを利用してその提供が可能になっている以上、ハードウェア資源を用いた処理に該当し得るので自然法則の利用性を肯定し得るとして、対象となり得るビジネス方法の具体例を挙げている。

わが国の特許出願実務がこの審査基準に従って行われてきたことから考えれば、ビジネス方法ないしはビジネスモデルが発明に該当すると肯定されることは十分にあり得ると考えられる。

しかし、仮に出願の技術が発明であったとしても、さらに進歩性の要件が必要となる。これについてどのような基準で判断していくかが今後の問題となる。すなわち、問題となる発明と過去の公知な技術との相違点が商業的な有用性の点のみに存在する場合、進歩性を肯定できるかの問題である。

新規性、進歩性の問題について、技術的側面の問題であると割り切って否定するのも一つの考え方だが、ビジネス方法の特徴が商業的ないし経済的有用性にあることを認めた上で、これが特許法上の発明であることを肯定する以上、コンピュータシステムの利用で得られる商業的有用性を一律に否定してしまって良いかどうか。ケースバイケースで認められる場合があっていいように思われる。ただし、ビジネス方法に特許権を認めることで、過度な独占を招くことのないような慎重さが要求される。


〔Boehm氏〕

ステートストリート・バンク対ファイナンシャル・シグネチャー事件は、アメリカにおけるビジネス方法特許に門戸を開いた。CAFC判決では、ドルを表示しているデータの転送が、機械での計算により最終的な株価になることは、数学的アルゴリズムの実践的な応用であり、これは記録及び報告する目的のための有用(useful)で具体的(concrete)かつ現実的(tangible)な結果をもたらすので特許対象であるとして、ビジネス方法の例外ルールによる地裁の拒絶を覆した。「有用で具体的かつ現実的な結果」が現在のテストとなっている。

この判決は、ビジネス方法に関する議論を集結させるどころか、むしろ幅広い議論を誘発した。すなわち、ビジネスとは何か、どのようなビジネス方法に特許保護が与えられるべきかという問題である。そしてこの問題はオンラインによる販売、投資などの様々なオンライン業務に影響を与えかねない。例えば、ウォーカー・コーポレーシンが、航空券のリバースオークションについて特許侵害でマイクロソフトを提訴した事件がある。

デジタル世界が進む中で、インターネット・ビジネスのビジネス方法特許を保有することは多大な利益と優位性をもたらす。他方、一握りの者がインターネット・ビジネスの活動から他社を排除することを許容することはネットワークの発展を阻害することになる、ビジネス方法は経済競争の基本的ツールであり特許されるべきではない、という議論がある。さらに、ビジネス方法は文献化されておらず、審査官が先行技術を調査、発見することは難しいという示唆もある。

連邦議会は、先使用者に対するビジネス方法特許の権利行使に関する法案を作成した(H.R.1907とS.1798)。これは、ある者が発明の出願の少なくとも1年前に、製造あるいは商業的に利用可能で有用なものを作成、販売していたとき侵害防御の抗弁となるというものである。その場合は特許権者の特許は消尽することになる。


〔Rader判事〕

ステートストリートバンク事件について連邦巡回区控訴裁判所は、技術的なプロセス、すなわちビジネス方法は、具体的かつ有用で現実的な結果を得ることができる場合に特許適格性を有するとし、単にビジネスに使われるから、あるいは商業的環境に使われるからという理由だけで拒絶することはないと判示した。残る要件は自明性の判断であり、先行技術との差異が今後の問題となる。

ビジネス方法の分野においては、先行技術はトレード・シークレットとして非公開であるのが通常である。しかしトレード・シークレットは先行技術とは見なされないので、大きな問題となっている。

その対応としては、PTO及び米国企業が今まで以上に努力して、先行技術が何であるかを明確にし、それを公開することである。また、最近、出願の1年前に当該ビジネス方法を使用していたユーザーは、特許権者に対抗できるという内容の法案が承認された。これによって抗弁するためにはその企業のトレード・シークレットを公開することになるので先行技術が明確になる。

米国では、ソフトウェアの特許保護に先だって、農業技術あるいは種苗技術の特許適格が認められている。これらの産業は特許制度によって大きなメリットを受けている。同じように、ビジネス方法を特許保護することによって更に新しい非自明性を備えたビジネス発明が生まれ、このことが社会に大きな利便をもたらすことになるだろう。

裁判所としても何をもって先行技術とするか、自明性の判断について検討していきたい。


〔小泉教授〕

ソフトウェアあるいはビジネス方法が発明であり得るということについて、各国の取り扱いがかなり近づいてきたという印象をもつ。三国に共通するポリシーは、抽象的なアイディア自体は特許対象としないが、特定の分野にも応用された技術である以上保護対象からカテゴリカルに排除することはないということだと思う。

日本の現行審査基準の下では、ハードウェア資源をどう用いるかをクレームすれば経済法則等を使った発明でも認められるということだが、自然法則の利用の要件までもはずしてしまえば、抽象的なアイディア自体が特許されるという危険がある。確かに前提としているサイエンスとテクノロジーの区別をそのまま維持することはできないかも知れないが、自然法則あるいはアイディアとその利用度、切り分けというポリシーは、特許法が特許法であるかぎり今後も指針になると考える。

技術的思想の要件についてはかなりの疑問を持っている。ビジネス方法においては改良ということが考えにくい分野であると言われている。このような分野に特許のインセンティブがそもそも必要かということをもう少し議論した方がよいのではないかと思う。仮にビジネス方法自体の進歩性に踏み込んでみると、その特定の課題を解決する技術的手段を改良したということではなく、アイディア自体の進歩性にも入って行かざるを得なくなる。そのようなものを特許対象としてどこまで取り込んでいくかということについて、少し止まって議論すべきである。


事例研究


ここでは、事例毎に議論が行われた結論部分のみをまとめることとする。詳細は、会議資料及び後日発行の議事録を参照していただきたい。

【質問1−(1)】

特許権者は、A社、a社、αコンビニエンスストアに対して、共同でクレーム1の特許権を侵害しているとして、その差止、損害賠償を請求できるか(ここでは、特定の法人が、イ号システム全体を単独で運用している場合には、イ号システムは、クレーム1、クレーム2を文言上侵害していることを前提として議論していただいて差支えありません)。 この場合に、特許侵害の成否は、A社、a社、αコンビニエンスストア間の相互の意思の結合、その他の要因に依存することがあるか。 また、ここでは複数者による特許権の共同の直接侵害が問題となっているが、上記請求のうち一方のみ(例えば損害賠償請求)が認められ、他方の請求(例えば差止請求)が認められない場合があり得るか。もしあり得るとすると、それはどのような理由によるものか。

〈クレーム1の共同直接侵害の成否、差止/損害賠償〉

○共同の意思(joint intent)があれば成立する。共同の意思とは、特許権侵害であることを知っていることである。成立すれば三者に差止及び損害賠償請求が可能。

○判例はまだないと思うが、刑法の共同正犯と同様に三者に主観的な共同実行の意思と客観的な共同実行の事実があれば共同直接侵害となる場合があると考えられる。侵害が認められれば、差止請求、損害賠償請求が三者に可能。侵害していることの認識までは必要ないと思われる。

○三者は、共同してクレーム1のシステムの全ての構成要件を提供している(各々が互いに相手の役割を認識して使用している)ので、共同直接侵害が認められる。共同侵害が認められるためには、双方に共同の意思があることが必要。侵害であれば、差止と損害賠償請求が認められる。

○共同の意思とは、必ずしも互いに契約を結ぶということではないが、少なくとも他の当事者が全部が構成要素を提供することによって侵害システムを構成していることを知っているかどうかである。この場合には米国法では共同侵害があったと認定される。

〈三者で共同実行しているか〉

○プログラマーとして考えると、事例のようなシステムを構成するにあたっては、プロトコルなど互いに共同して作業したことは明白だと思う。

○このような判例はまだないので推測になるが、クライアントシステムはカタログ・サーバーとショップ・サーバーがなければこのシステムが成立しないことは当然に知っていたはずである。その意味では十分な共同実行行為があり、共同責任を問う状況が示唆されていると言える。米国では、侵害の成立要件として侵害の意図は必要ない。しかし共同侵害の場合には他の当事者と共同行為にかかわっていることが要件であり、したがって、ここでの三者は一緒に行っていて共同の意思があるということになり、共同侵害になる。

○確かにショップ・サーバーの分岐、カタログ・サーバー経由か否かの判断があるということは、当然カタログ・サーバーを前提にしている処理手順である。一定のつながりがあると考えられる。しかし、こういう場合には法律的な契約関係が前提になっているということも見ていく必要がある。

〈家庭内における個人の使用の場合〉

○個人ユーザーの場合は、取引の継続的な関係が持たれることはあまり考えられず、そのようなスポット的な取引に共同実行の意思が認められる場合がどれほどあるかは疑問。また、家庭内における個人ユーザーの場合は、事業としての使用にあたらない。

○個人ユーザーが非営利の場合であれば、EPC条約27条(a)によって侵害とはならない。

○個人ユーザーであっても共同の意図は存在するので、共同侵害である。なぜなら、ユーザーはカタログ・サーバーにログ・インするという選択をすることによって十分にこのシステムに参加しているのであり、これは商業活動だからである。

【質問1−(2)】

A社、a社、αコンビニエンスストアは、それぞれ単独で、クレーム1、クレーム2の特許侵害の責任を負う場合があるか。 特許侵害の責任を負う場合があるとすれば、それはどのような場合で、どのような条件が満たされた場合か(直接侵害、間接侵害等)。 αが家庭内の個人であった場合はどうか。

〈カタログ・サーバーの間接侵害の成否〉

○間接侵害の成立は提供、販売及び申出が行われた場合のみ。したがって各社は何れにも該当しない。カタログ・サーバーは間接侵害にはならず、X社が間接侵害に問われる。

○カタログ・サーバーはクレーム1の装置の一部分だが、カタログ・サーバー自体は使用しているだけで生産はしていないので、間接侵害は成立しない。カタログ・サーバーを製造しているX社に間接侵害の問題が発生する。

○米国の場合、寄与侵害と侵害教唆の問題に分かれる。本件では、カタログ・サーバーが残りのシステムに特許侵害をさせるような形で機能しているので、侵害の教唆に当たる。

○カタログ・サーバーは、クライアントが侵害することに関して細かな指示を与えている、あるいはクライアント端末にその情報を提供しているので侵害の教唆になる。また、特許があること(侵害するシステムの構成要素であること)を知りながら継続的に機能していたとすれば、寄与侵害も成立する。

○システムの構成要素を提供しているかどうかについては、その構成要素を実際に行為として販売していることが必要なわけで、そのことから言うと、このカタログ・サーバーを使用するように誘引することが販売行為とみなすことができるかどうか明らかではない。見なすこともできるし販売ではないとの解釈も成り立つ。

○侵害の教唆、寄与侵害の成立には、直接侵害の存在が必要。この事例では、明らかにユーザーが特許された装置全体を使用しているので、直接侵害が存在する。

○カタログ・サーバーが、コンビニやショップ・サーバーに対して全体のシステムの中で必須の部分を提供あるいは販売の申出をしているという前提において、寄与侵害になる。なお、ドイツの間接侵害では、直接侵害は必要ではない。

○イ号システムが、カタログ・サーバー、ショップ・サーバー及びクライアント・サーバーの3つがどのように合わさってシステムが成立しているかによるだろう。結論としては間接侵害の成立は難しい。日本法101条は、間接侵害を成立させるための主観的要件ではなく客観的要件だけで結論を出す構造になっている。

○おそらく日本では、間接侵害の成立は難しいだろう。しかも、ユーザーのシステム利用がクレーム1全体を実施しているとは言い難いので、直接侵害も難しい。

〈ショップ・サーバーの間接侵害の成否〉

○間接侵害は本質的な要素を提供したり販売の申出をした場合なので、ショップ・サーバーには適用されない(ドイツ特許法10条)。ショップ・サーバーは、通信するだけでシステムの中で最も本質的な構成要素を提供等していない。最も本質的な要素は、データベースであるカタログ・サーバーである。

○事例のS121に書かれているように、ショップ・サーバーは、カタログ・サーバーを経由しないクライアントからの信号のやり取りも受け付けるため、101条の「のみ」の要件を満たさず、したがって間接侵害は成立しないことになる。また、間接侵害は生産、譲渡の場合に成立するので、それからするとショップ・サーバーは使用しているだけなので、このことからも間接侵害は否定される。

○ショップ・サーバーだけに焦点を当てれば、S121にあるように、侵害しない用途もあるので、非侵害となる。しかし、実際は特許権者はカタログ・サーバーの直接侵害を追求するだろう。

〈ショップ・サーバーの間接侵害成立のための証拠開示〉

○ショップ・サーバーのログを調べ、カタログ・サーバーを経ずに何度もアクセスがあるということになれば、クレームされている以外の機能があるとして間接侵害不成立の有効な証拠になるだろう。また、ログ記録がなく、侵害を逃れるために単に機能を付加しているという場合には、間接侵害認定の可能性もある。

○ショップ・サーバーの中のプログラムコードで、カタログ・サーバーと通信するしか用途がなく、これがクレームのキーステップであれば、これは侵害しない用途がないことになる。単に他の機能を付加していても、それだけで侵害を免れることはできないだろう。

〈コンビニエンス・ストアの間接侵害の成否〉

○クレームの全ての構成要素を使用していれば個別に直接侵害の可能性があるが、この場合はカタログ・サーバーと通信はしていても、それを構成要素としては使っていないので、直接侵害は成立しない。間接侵害については、ショップ・サーバーと同様、本質的構成要素を提供等していないので不成立。

○ショップ・サーバーの場合と同様、侵害の用途のみをコンビニエンス・ストアの端末が有しているかどうかによる。

○ショップ・サーバーの場合と全く同じ。それは、クライアント端末は、侵害しない用途でショップ・サーバーを使用し得るということが一つある。しかし、ショップ・サーバー、カタログ・サーバー及びコンビニエンス・ストアは、三者共同で直接侵害しているので、これら三者をそれぞれ単独で取り出してみても、全ての教唆や寄与侵害に必要なパーツを提供していることにはならない。

〈家庭内における個人ユーザーの間接侵害の成否〉

○間接侵害も業としての要件に当たらない。

○欧州特許条約27条により、個人の非営利の行為には適用されない。

○家庭で行われようと、コンビニエンス・ストアで行われようと、直接侵害になる。少なくとも米国においては、この事例において個人でビールを注文することもシステム全体のコマーシャル・ユースである。

○個人ユーザーの使用が、クローズドな環境ではなくて業として提供されているシステムの中に入れ込んで使っているということはあるかも知れないが、このことが日本法の立場において、システム全体を使用していると言えるかどうかは疑問である。

〈ユーザーがコンビニの中で遠隔操作でカタログ・サーバーにアクセスしている場合〉

○この問題の例として、最高裁の著作権の事件だが、カラオケで歌を歌うのは客であって、客は非営利で歌っているから客自身は侵害者ではない。利益を得ているのは店だから店が歌を歌わせているのだ、という判決があった。法律構成として場合によってはコンビニによる道具としてのユーザーの利用が考えられるかも知れない。

○この場合コンビニは、ストアにある端末だけを使わせているのか、システム全体を使わせているのかという問題がある。後者の場合を考えると、イエスという答えを出すためにはリモート・コントロールでコンビニエンス・ストアに来店したお客さんが、すべてのシステムを単独で使っているという結論を出さなければならない。

【質問1−(3)】

X社、Y社は、それぞれクレーム1ないしクレーム3の特許侵害の責任を負う場合があるか。 特許侵害の責任を負う場合があるとすれば、それはどのような場合で、どのような根拠に基づく場合か。

○カタログ・サーバーはクレーム1の一つの部品に当たり、X社はその部品を生産し、譲渡しているので、X社は、日本特許法101条の間接侵害になる。この場合カタログ・サーバーは他の実用的目的に使われるとは考えにくい。Y社については、ショップ・サーバーがクライアントとの直接の取引にも使われるとなると、他の実用的用途があるので、Y社の間接侵害は否定される。

○カタログ・サーバーは、このシステムのクレーム1でもクレーム2でも本質的要素となるので、X社がドイツ特許法10条により間接侵害となる。ショップ・サーバーは本質的要素ではないと思われるので、Y社が間接侵害に問われることはない。

○間接侵害の問題としてクレーム1に限定して、X社とY社が特許の通知を受けているとすれば、X社は間接侵害となり、Y社は間接侵害とはならない。

【質問2】

特許権者が、A社、a社、αコンビニエンスストア等に対して、特許権行使を行なおうとする場合の前提として、イ号システムに関する情報収集、特許侵害の立証手段の収集確保のために、貴国ではどのような方法ないし法制度が用意されていますか。

○平成11年に改正された特許法104条の2により、特許権者が具体的な対象物件又は方法の具体的態様を主張した場合、相当の理由を言わない限り相手側は具体的態様を明らかにする義務が生じることになった。さらに特許法105条1項が新設され、当事者の申し出により、裁判所が必要な書類の提出を命じることができるようになった。しかし営業秘密との調整の問題がある。相手側は営業秘密に関する文書であっても直ちに提出を拒むことはできず、文書の所持人が提出することにより受ける不利益と、提出しないことにより訴訟当事者が受ける不利益とを比較考量して、個別に正当理由の判断がなされることになると思われる。また、105条2項によって、裁判所は正当理由の判断のためにインカメラ手続により文書提出命令の対象となる書類を見ることができるようになった。

○ドイツにはディスカバリー制度はない。しかし、ドイツには特許の専門裁判所があって高度に専門化した判事がいるので、対応する事実関係を探し出すのはそんなに難しくはない。また、仮想事例のような場合には、コンビニやカタログ・サーバーに通信しているユーザーの所に行って情報を取ったり、プログラムを走らせてどのように機能しているかを把握することもできると考えられる。

○米国には保護命令手続がある。この手続により、裁判所に提出された営業秘密の文書は、当事者の弁護士だけが訴訟に使うことができるので、企業機密は保つことができる。

○侵害立証のための証拠収集で、事例にある第4図のイ号図面までいければ大成功だろうという話があったが、現在は、インターネットに関する様々なツールがあって、インターネットの技術者であれば簡単にこのイ号図面まで到達することができる。あるいはそれ以上の詳細なことまでできるかも知れない。ディスカバリーまで使わなくとも有力な立証手段を確保できるだろう。

【質問3】

上記質問1−‡Bで、X社、Y社の行為が、特許侵害を成立させる場合を前提としてください。 この場合に、X社、Y社が、それぞれカタログサーバ、ショップサーバ用に開発したイ号システムの一部を構成するソフトウェアを、それぞれカタログサーバ、ショップサーバに対してネットワーク上で送信した場合に、貴国において、この送信行為自体が特許侵害を構成することがあるか(ソフトウェアの送信行為それ自体が、特許侵害行為を構成することがあるか)。 あるとすれば、その根拠は何か。

〈X社の場合〉

○X社はカタログ・サーバーを開発し、このカタログ・サーバーが全体システムの本質的部分で、これを供給あるいは流通に載せるわけだから、相手方のカタログ・サーバーが送信されたソフトウェアを受け取った時にX社は間接侵害になる。

○X社の場合、関係するクレームは1と3である。クレーム3との関係では、X社がカタログ・サーバーを開発した時点でカタログ・サーバーの生産行為があった、すなわち直接侵害があった、また、クレーム1で言えば、X社がカタログ・サーバーを開発した段階で間接侵害があったという可能性がある。しかし、ソフトウェアの送信で考えると、カタログ・サーバーのうちのソフトウェア部分だけをネットワークで送信していることになり、これはクレームの全てを満たすものではない。したがって、クレーム1と3の何れの場合においても間接侵害が問題になる。この場合、日本法の解釈では、機能のかたまりであるソフトウェアが「物」に当たるか否か。また、特許法101条には生産あるいは譲渡が間接侵害を構成するとあって送信は出てこないので、送信が譲渡に当たるかどうかという問題が出てくる。この問題について現在議論が分かれている。

○X社がX社の中でカタログ・サーバーの中にソフトウェアをインストールしたうえで譲渡する行為が、生産と譲渡行為になることには異論がないと思われる。送信の場合、X社が先にカタログ・サーバーを譲渡して後にソフトウェアを送信しインストールさせる行為も、全体的に見ると生産してかつ譲渡する行為と見ることができると思われる。

○ソフトウェアの送信が、販売あるいは販売の申出とともに行われたとすれば間接侵害になる。特にクレーム3でそう言える。送信行為が販売あるいは販売の申出以外の形態で行われた場合どうなるかについては、現在米国で議論が沸騰している。このような場合には、X社が責任を負うかではなく、X社のために送信したキャリアに責任があるかを考えた方が良いのではないか。媒体上のソフトウェアとして記載するBeauregard形式のクレームは、コンピューターという記載ではなく、機能を遂行させるプログラム可能な手段という記載になっているので、ハードウェアと組み合わせる必要もなく、違法なプログラムを送信している場合に適用できる。

【質問4】

クレーム3において、仮に最後の構成要件(element)中の「情報を送信する手段」の部分を「注文欄を送信する手段」と変更した場合に、イ号システム中のカタログサーバは注文欄を送信していないため、イ号システムにおいては(ショップサーバが注文欄を送信している)、カタログサーバは、クレーム3を文言上侵害しないことが考えられます。この場合に、貴国では、どのような条件が満たされれば、均等論の適用その他の法理により特許侵害を認めることが可能になりますか。

○当業者が、保護される発明の本質を考慮して自分の技術的知識に鑑み、発明で扱われている課題を解決しようとする際に、争われている実施例で使用されている手段を導き出し、かかる手段が同一の効果をもつと結論付けられる場合に、保護された発明が使用されていると認定される。均等の技術的効果をもつことを立証しただけでは、係争中の特許で保護される発明が使用されているとの十分な証拠にはならない。クレーム3の最後を変更したとしても、イ号システムはショップ・サーバーが注文欄を送信するわけだから、均等は成立しない。均等な効果の立証だけでは成り立たない。このような場合について、ヨーロッパではサブコンビネーションの侵害が議論されている。しかし、ドイツ連邦最高裁ではサブコンビネーションの保護には消極的である。

○平成10年2月24日のボールスプライン事件最高裁判決で、(1)対象製品と特許発明のクレームと異なる部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)異なる部分を対象製品におけるものと置き換えてみても特許発明の目的を達することができて同一の作用効果を奏するものであって、(3)特許発明に属する通常の技術を有する者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、(5)対象製品が特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき、の5要件が満たされる時に均等論が認められるした。

設問で「注文欄を送信する手段」と変更した場合、特許発明のカタログ・サーバーの注文欄を送信する手段に代わる手段をイ号システムにおけるカタログ・サーバーは備えていないため、同一の作用効果を奏しておらず、上記の2番目の要件を欠いているので、均等論による侵害は成立しない。

○米国では二種類の均等を検討する必要がある。先ず、請求された発明と実質的に同一の結果を達成するために、実質的に同一の方法で、実質的に同一の機能を果たすのであれば、クレーム文言に一致していない製品でも均等による侵害が成立する。

次に、ミーンズ・プラス・ファンクション形式の場合に、そのクレーム限定を文言上侵害するには、イ号製品は特許明細書に開示された構造、材料又は行為あるいはそれらと均等な構造、材料又は行為を使って機能を実施しなければならない。

クレーム3については、ミーンズ・プラス・ファンクションだが、カタログ・サーバーは完全に除かれているので、均等は成立しない。

クレーム1については、やはりミーンズ・プラス・ファンクション・クレームで、このクレーム限定を侵害するためには、ショップ・サーバーによって送信されるイ号システムの注文欄を送信する手段が、カタログ・サーバーによって送信され特許発明の注文欄を送信する手段と同一の機能を果たさなければならず、その構成が特許発明で開示された構造と対応するものあるいは均等でなければならない。

それぞれの主張は様々なものが考えられるが、結論としては均等は成立しないと思われる。

○二種類の均等について、均等論と構造上の均等が混同されることがある。先ずミーンズ・プラス・ファンクションのクレームと構造上の均等の検討は、クレームが発効した時点あるいは出願された時点に行われる。つまり、特許出願時に遡って、主張されている均等物が請求項の機能と置換可能かどうかを見ることになる。他方均等論では、検討するタイミングが侵害時点である。この両者の検討するタイミングの違いが正確に把握されていないと思われる。本件事例では、均等による侵害は成立しないと考えられる。

【質問5】

貴国において、本件特許の権利行使を受けた相手方は、発明がビジネス方法に関係することを根拠として、特許無効の抗弁を主張することが可能となりますか。 この場合に、どのような条件が備えられていれば、本特許発明は特許法上の発明に該当しないと主張することが可能になりますか。 特に、特許発明の主題(subject matter)の観点から意見を述べてください。

○ ドイツでは、クレーム1から3の主題は、ビジネス方法自自体ではなく明らかに技術的特徴を有している。したがって無効訴訟は勝てると思われる。また、先行技術については、例えばペーパーカタログには他のショップのオーダーフォームも入っているので、これを無効訴訟で申し立てることができると思われる。コンピューター・プログラムと同様、ビジネス方法は進歩性で考えるべき。

○ 最高裁で破棄されるか立法が変わらない限り、米国では一切抗弁にはならないだろう。ビジネス方法はかなり許容されている。

○ ビジネス方法であることが抗弁になるかについては、ノーである。

○ ビジネス方法については、進歩性をどう考えるかが今後の一番大きな議論になるだろう。日本では、特許無効の抗弁は、特許庁に特許無効の審判を申し立ててその判断を求めることになる。その審決に不服がある場合は、専属管轄である東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起するシステムになっている。しかし、実際の訴訟では被告から特許に無効理由があるという主張がなされることは非常に多い。かつ、それが被告にとってそれが被告側の非常に有力な防御方法になっていることは事実である。すなわち、裁判所は、特許権について無効理由があることが、侵害訴訟の場で主張、立証された場合に、特許発明の技術的範囲について拡張的な解釈を制限したり、権利濫用の抗弁を認めたり、あるいは対象製品について自由技術の抗弁を認めたり、特許庁における無効審判の結果が判明するまで訴訟手続きを中止して、特許権者側の請求を否定する扱いが定着していると思われる。

【質問6】

 本件で特許侵害が認められた場合に、貴国において、特許権者は、それぞれA社、a社、αコンビニエンスストア、X社、Y社に対して、どのような根拠に基づき、どのような内容の損害賠償(逸失利益、ロイヤリティ相当額、その他)を請求することが可能となりますか。

○ 侵害者に故意または過失があった場合に、特許権者は、適正なロイヤリティ、逸失利益、侵害者の得た利益の中からどれかを選択することになる。ショップ・サーバーやコンビニエンス・ストアは特許されたシステムの生産者ではなく使用者なので、特許があることを知っていたか否かについて過失が認められるかは疑わしい。

○ 米国の損害賠償額は、額としては妥当である。日本のものは低すぎる。共同侵害の場合、誰からでも当該金額の全額を回収できるが、一回しか回収できない。また、損害の回収には事前に通知が必要。それは手紙や販売の特許製品に特許番号を付けるなどによるものでもよい。さらに故意侵害の場合は三倍賠償が認定される。

○ 米国の場合、逸失利益、適正なロイヤリティとして計算され、通常は逸失利益で回収されることが多い。逸失利益の算定が最も十分に侵害行為に対する補償を回収できると考えられている。

○ 日本では、逸失利益、侵害者の得た利益及び実施料相当額のうちから何れかの請求ができる。X社、Y社についても同様の請求となる。三者の共同侵害の場合は、三者が連帯して賠償することになる。

特許法の損害賠償規定に関する改正の内容は、まず一つは逸失利益の請求がしやすくなったことがある。

逸失利益については、特許権者は、侵害者が侵害物件を譲渡した数量と侵害行為がなければ販売できたものの単位数量当たりの利益の額を立証すれば、あとは侵害者のほうで損害額を減額するために特許権者が譲渡数量の全部または一部を販売することができない事情があったことを立証する必要があることになった。これによって、例えば侵害者が非常に安い値段で侵害品を販売したような場合に、特許権者が本来の自分の上げ得たであろう利益を損害として請求できるということが容易になる(特許法102条1項)。

実施料についても、もう少し高いロイヤリティーを認める改正もなされた。損害の性質上、立証がきわめて困難である場合についても、立証責任を軽減するような規定ができている(105条の3)。これによって、損害賠償の額が裁判所でより適正に定めることができるようになった。

【質問7】

 イ号システムを構成するカタログサーバ、ショップサーバ、クライアント端末が、それぞれ異なる国に配置されている場合の特許侵害の成否について、御意見があれば述べてください。

○ 属地主義に基づくと、侵害が成立するためには侵害行為全てが一つの国で行われる必要がある。カタログ・サーバー設置国で言えばクレーム3である。X社とカタログ・サーバーが本件特許がない国にあったとしても、X社がインターネットでカタログ・サーバーのソフトウェアを提供している場合は、ドイツ特許の侵害となる。

○ 属地主義から考えると、侵害行為の全てが米国内で行われなければならない。例えば、プライスライン・コム対マイクロソフト事件で、マイクロソフトがシアトルからカナダのバンクーバーにサーバーを移せば、米国における侵害は成立しないことになる。クレームの主要な構成要素が米国で使用されなかったからである。だから使用をもっとフレキシブルに考えるべきで、このような場合、米国内に送信させることによって利益を受けた者が責任を問われるべきである。

○ 確かに現行法上はマイクロソフトがサーバーを外国に移してしまえば侵害にはならなくなる。しかし、このようにな結果になることは望ましいことではない。議会は属地主義に基づく侵害要件を再検討して、簡単に法律の抜け道ができないように改正すべきである。

○ 日本の特許を侵害する行為は、日本の国内で行われなければならない。したがってクレーム1については、三者が日本になければならないことになる。クレーム3であれば、カタログ・サーバーの生産行為あるいは譲渡行為を当該国で押さえれば済むことになる。