今や回路配置を保護するそんな条約があったのかという方もおられることだろうが、ワシントン条約と聞いて「集積回路についての知的財産に関する条約」を思い出したのは、知財業界(?)にどっぷりと漬かっている証左だと自分でも思う。ヨーロッパの提案で、うなぎの取り扱いが議論されたワシントン条約は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、その今回の締約国会議の議題の一つが、ニホンウナギとアメリカウナギを付属書Ⅱに載せるかどうか。付属書Ⅱに掲載されるのは、取引を厳重に規制しないと絶滅のおそれのある可能性がある生物種か、その生物種の取引を効果的にするために外見上の区別がつかない類似の生物種とされている。先月来、巷間を賑わせたこの議論が何を意味しているのかについて、新聞の見出し程度の知識しかなかったので、すわ、蒲焼がますます食べられなくなってしまうのかと調べてみると、中央大学の海部健三教授のサイトが最も確かな情報を提供してくれていると思った。結局のところ、自分が存命のうちは(高くて手が出ないということはあるとしても)資源枯渇によって食べられなくなることはなさそうだとか(自己中ですが)、ここにも政治が出でくるかとか(政治の表層的成果の誇示はこちら)、完全養殖の実用化に期待しようとか(ぜひとも頑張ってほしい)、月並みな感想を抱く程度のところに落ち着き、ワシントン条約での提案も否決されて少し安堵している。
親友の実家が割烹料理店を営んでいて、うなぎの蒲焼を手掛けている。猫の手も借りたい由で、高校時代の土用の丑の日、猫の手ならまだ癒し感くらいはあるだろうが、本当にどうしようもなく役立たずの身でアルバイトをした。焼きあがった熱々の蒲焼から串を抜く技を教えてもらったが、不器用な私には結構難しく、役立たずの本領発揮、串抜きは最初のうち綺麗にできなかった。艶々と照りが出て芸術的とさえ言える美しさを放つ蒲焼の、その完全な美しさに瑕を付けた一品に当たってしまったお客様には、何とも申し訳なかった。そしてアルバイト代がわりに頂いたお重の美味しさは今でも忘れられない。ふわふわと柔らかく口の中でとろけるよう。何十年も継ぎ足しされている甘辛のタレも相まって、こんなにも幸福を感じさせてくれる食べ物がこの世に他にあろうはずはないと思うほどだった(食レポのできる人はつくづくすごいと思う)。爾来、ここの鰻重が最も美味しいと思っており、今でも時々、出かけている。
ワシントン条約のうなぎ繋がりで、つい先日に何回目かの回忌を迎えたその親友のこと、アルバイトで役に立たなかった苦い思い出、そして不器用を克服して身に着けた串抜きの技を使う機会がない残念さに思いを馳せた。
毎度ながらひつまぶし、ではなくひまつぶしの個人的な感傷にお付き合い頂きありがとうございました(お前は仕事中に何をしているのだとのお叱りはごもっとも)。